【第37回】土から土へ。木質燃料ペレットと有機肥料ペレットで地域をつくる　（有）壽物産　代表取締役　永吉　誠氏（長崎）

（有）壽物産　代表取締役　永吉　誠氏（長崎）

第1次産業の活性化～長期的な視野で地域を守る

　（有）壽（コトブキ）物産（永吉誠社長、長崎同友会）は、グループ会社である（有）雲仙有機と連携し家畜敷料の卸、販売、有機肥料の製造、卸し、販売を行っています。

　具体的には、製材所と提携し製材時に出る「オガクズ」「カンナクズ」を回収し、畜産農家に必要な家畜の敷料として販売。また畜産農家から使用済みの敷料を回収し、熟成加工した後に有機肥料としてJAや提携農家に販売する事業を展開しています。

　先代の父から事業承継した際は、「地域で最上級の肥料だ」と父から聞かされていた自社の有機肥料でしたが、コンクールに出すと下から2番目の評価しかもらえない、提携農家さんからの評判も悪い。当然のように会社の財務状況も芳しくなく、税金をも滞納している、まさに「どん底」からの経営再建から始まりました。

　同社がある雲仙市南串山町は1次産業（農業）をメインとする地域です。提携農家一軒一軒と向き合い、自社製品を分析し直してゼロから再構築すると同時に、家畜の種類ごとに合った資材、また畑の土質や作物に合った適正量の提案などを根気よく重ねる事で少しずつ信頼を回復し、今では地域になくてはならない資材と有機肥料の供給メーカーになりました。

　山から生まれた環境資材を、畜産を通じてまた土に返す、この循環を通して第１次産業の活性化に貢献したいという強い思いは、一つずつ実を結ぶ結果へとつながっていきます。

　しかし少子高齢化や後継者不足に伴う戸数の減少は、回収したオガクズやカンナクズを卸す販売先が減少するという事。時代の先を見る経営者の目には次の展開を考える必要があったのです。

木質燃料ペレットの製造～地域の意識レベル向上へ

　アレルギーを持った息子の誕生と共に環境経営について深く考えるようになった永吉氏。地域を知れば知るほど、環境に害にならない何かに取り組まなければならない使命や責任を感じる中、2013年10月に熊本で開催された地球環境問題交流会に奥様（永吉杏奈会員、長崎同友会）と参加しました。「初めての全国大会参加でしたが、本音を言えば同年の長崎同友会経営フォーラムで総合司会担当になっていたため、全国大会の司会者はどのような進め方をするのか偵察したいという『ちょっと邪な学び』がメインだった」と永吉氏。

　しかし、せっかく参加するのだから、長崎出身者でもある新潟同友会会員の（株）さいかい産業の古川氏が報告する分科会「木質ペレットの地産地消が地域経済をまわす」を選択。当日の夜は古川氏や司会の方と夜中まで経営（司会）談義し、司会の進め方以上に大きな学びを得ることになったのです。

　同社は当時、有機肥料製造用にペレタイザー（ペレット成形機）をすでに保有しており、今の仕事の延長線上でオガクズから木質燃料ペレットを作ることが可能でした。熊本からの帰路で、奥様の「ペレットストーブをやろう」の一声もあり木質資材の一部を「燃料」として活用する方針を決めたのです。

　一筋の新しい光が見えてはいるものの、同社の取り組みは慎重です。「個人がペレットストーブを設置するには、イニシャルコストで数十万費用がかかる。値段だけで判断されるのではなく、木質燃料ペレットが生まれた理由、地域でエネルギーを生み出すことの付加価値、循環して土に還りそこからまた新しい生命が生まれるという大きな、長期的な視野を地域全体で共有しなければならない。そのためにもペレットストーブを利益のために販売するのではなく、啓発活動を通して行政・病院・学校や地域イベントなど公共性が高い場所で少しでも多くの方に共感してほしい」と永吉氏は語ります。

経営理念「信頼」に込められた想い

　「信頼～信じられる、頼られる、そして愛されるサスティナブル企業を目指そう～」は、壽物産グループのシンプルな、しかし深い意味を持つ経営理念です。環境資材メーカーとしての使命感、責任感は地域の第1次産業活性化を軸とし、持続可能な環境資源と地域経済の両立をめざして社員と共に一歩ずつ成長しています。2016年2月からは木質資材の粉砕作業に障がい者雇用を開始する予定です。

　また高齢化する農家の負担軽減、体に優しく付加価値の高い有機野菜栽培へ貢献するために、100％天然資源にこだわった有機肥料ペレットを開発するなど、地域を知るからこそ、地域に根差す企業だからこそ、今何ができるのかを真剣に考え、自然と地域と共生していく企業として今後も同友会で得た学びを実践し続けていきます。