【第4回】会社の未来、発展のために下した経営者の決断 (株)中農製作所 代表取締役会長 中農 康久氏(大阪)

中農康久会長

(株)中農製作所 代表取締役会長 中農 康久氏(大阪)

 (株)中農製作所代表取締役会長の中農康久氏(大阪同友会会員)は、社員に事業承継を行いました。同社は、大阪府東大阪市に所在する金属製品製造、抗酸化作用のあるセラミックスの製造、販売を行っています。東大阪市の「ものづくりの町」という地の利を生かし、素材調達から組立までの一貫受注生産が強みでもあります。

(株)中農製作所の製品

 創業以来、材質、形状、サイズ、数量など幅広く、柔軟に対応できる精密切削加工を行っており、そこから生まれた同社固有の技術は、多品種小ロットに対応できます。精密切削加工のエキスパートと自負する同社は、品質保証にもこだわり、その結果、同社の品質管理システムは、顧客から高い信頼を得ています。

 また、環境にも配慮してエコアクション21にも取り組んでいます。特に、自社商品の「抗酸化セラミックス・善玉の友」は、水資源や廃油の使用量の削減や、機械の長寿命化、切削液の腐敗の抑制効果などがあり、展示会などで拡販をしています。工程内不良率については、品質管理システムと一体化されており、技術と環境が一体になった取り組みをしています。

10年計画で後継者を教育

 創業者である父親から、42歳で会社を引き継いだ中農氏。自分なりに経営ノウハウを模索しながら、オイルショック、リーマンショックなどの不況を乗り越え、会社を大きく発展させました。

 50歳の時に、自身の経験から「会社をしっかりと次世代の経営者にバトンタッチするには、ちゃんとした経営計画と事業承継が必要だ」と感じました。そこで、10年計画で見込みのある若手社員を探し、経営者としての教育を始めました。「今の社長(西島大輔氏)にしようと思ったのは、事業家になりたかったという夢を持ち、中小企業が好きで、社員が彼の周りに集まっているのを見ていたから」と中農氏は言います。

 社員には、良い時も悪い時も、みんなで共有できるようにと月次決算などの財務内容を開示にしています。また、社員の経営参画として経営方針発表会、活動計画発表会を行っています。個人目標の設定や改善活動などを行うことは、社員の高いモチベーション維持につながっています。そして、社内には「私たちの会社」「自分たちで考えて、動く」という風土ができてきました。

 一方で後継者育成として、財務、経営計画、銀行との折衝を、数年間ともに行いました。それは、中農氏の「経営をバトンタッチするには、会社の組織上、上下関係はあるものの、目線は同じでなければならない」という思いや「中身を濃くして、着実に承継していきたい」という思いからです。そのため、引き継ぐ数年間、西島氏とともに二人三脚で歩んできました。

もっと大きな社長になる

会社の様子

 まずは、あらためてSWOT分析を一緒に行い、中期計画、年度計画を共に立て、論議を重ねました。リーマンショックの際には、銀行資料をともに作成し、交渉に出向きました。そして、2013年、社長を譲る時には、新しいビジョンを西島氏が発表するに至りました。

 また、同社のベトナム工場の操業も、事業承継と同時に進めました。同社で働いていたベトナム人の社員が、ベトナムで生産拠点を持ちたいという将来目標を出したのがきっかけでした。また、ベトナム人研修生を受け入れていた時に、3年経って帰ってしまうことにもったいなさを感じていたそうです。ベトナム進出の実現のため、その陣頭指揮を執ったのが、西島氏でした。それは、西島氏はもっと大きな社長になるという中農さんの思いが込められていたからです。

「攻める」経営者と「守る」経営者

 中農氏は、「自分は守りの経営をしてきた」と振り返ります。機械を買いたいなど、攻めたいけれど、守りに入ってしまう。そのような自己矛盾を抱えていたことが、口惜しい経験でした。次世代には、1人でそのような矛盾を抱えることがないようにと、「攻める」経営者である西島氏とともに、息子を会社を「守る」経営者として抜てきしました。中農製作所の成長のためには「ブレてはいけない」という思いが込められています。

 現在は、会長として会社を裏から支えています。社長の時とは違った距離から会社を見ることができる立場ではありますが、「一生現役でいたい」という思いも持っている中農氏です。

会社概要

設 立:1957年
資本金:1,200万円
事業内容:金属製品製造業  抗酸化作用のあるセラミックス 製造 販売
従業員数:50名
所在地:大阪府東大阪市足代北 1丁目18番26号
TEL:072-981-0969
URL:http://www.nakanos-s.co.jp/