【第5回】時間をかけて実践・確信し、継いでいく経営姿勢 大和化学工業(株) 代表取締役会長 平山 雅英氏・代表取締役社長 東田 誠次氏(奈良)

平山雅英会長と東田誠次社長

大和化学工業(株) 代表取締役会長 平山 雅英氏・代表取締役社長 東田 誠次氏(奈良)

突然の社長就任、我流で追求した経営者責任

社屋

 大和化学工業(株)は、平山会長の父が1958年に創業し、現在は顧客のニーズに応じた企画・設計を強みとする工業用プラスチック製品の製造会社です。平山氏は21歳の時に父を亡くし、2代目となった兄とともにがむしゃらに働き会社を支えてきました。

 その兄も若くして急逝し、何の準備もないままに29歳で3代目社長に就任。設備投資に踏みきって機械化による生産力向上を図りますが、やがて大手の仕事が落ち込み、新たな活路を見出すべく技術畑から脱して慣れない営業を始めます。なかなか実らない月日を過ごすものの、生来曲がったことや中途半端なことは嫌いで、どうしたら仕事がとれるかを愚直に悩み、得意先まわりを続けました。やがて1件の技術相談から独自性の高い新商品開発に結びつけることができ、そこから新たに提案営業を柱とした事業が成長を始めます。

同友会で学んだ企業づくり・人づくり

 社長だった平山氏の奈良同友会への入会は1994年。若いころからだれにも頼らず必死に経営をしてきた経験から、「いかに厳しくとも経営を維持発展させる責任がある」という考え方には共感を覚えました。しかし経営指針成文化セミナーに参加し、はじめて「経営理念」や「社会性・人間性・科学性」という考えにふれると、これまでの我流の経営を痛感します。またさまざまな学びの機会から、社員についての考え方も変化していきました。人手不足は常態化し、条件面だけで転職していく社員に苦労は尽きませんでしたが、社員と家族の生活を守る責任を果たしている自負はありました。しかし同友会ではさらに経営者の姿勢が厳しく問われ、社員自身が仕事を通して成長する、夢を持てるようにするのも経営者の責任だと思い至るようになっていきました。

 企業変革支援プログラムを通して労働環境についても見直し、自社にないものは新たに整備し、社員がこの会社で働きつづけられるよう不安は取り除こうと、50年ぶりに就業規則・賃金規定を刷新して日給月給制から月給制へ移行、人事評価制度も導入しました。外部講師による月1回の社員教育、個人目標の明確化と個人面談の実施も行い、給料や休暇だけでなく、社員の将来への道すじを示すことに力を入れるようになりました。その結果、定着率は格段に改善し、社員たちが自ら育ち合おうとする社風になっていきました。現在は、自社の将来を支えるために「人づくり」を大切な柱と明確に位置づけています。

実践しながら気づいていった経営者の責任、社長の姿勢

業務の様子

 東田氏が入社したのは平山氏が社長に就任した年。当時、自動車整備の学校を卒業して就職したばかりでしたが、2代目社長の急逝を受けて、兄嫁の弟である東田氏に声がかかりました。人手不足もあり、入社して1年後には工場長となりました。当時、平山氏も東田氏もいずれ後継させるのは2代目社長の息子だと考えており、東田氏は一社員としての認識しかありませんでした。平山氏は管理職としてもっと成長してもらおうと、東田氏を工場長としての勤務だけではなく得意先メーカーの担当に就かせ、実際に顧客の要望やむずかしい折衝に直面する機会を持たせました。すると、東田氏は工場だけでは知ることのなかった受注の難しさ、コスト計算などを実感します。どんな難題でも顧客のために応えることが自社の存在意義であり、社長は誠実な姿勢でそれを一つひとつ築いているのだと知ることで、東田氏の仕事への姿勢は、受け身がちから主体的なものに変わっていきました。

 徐々に変化する東田氏に接する中で、平山の本家に引き継がなければと思っていた平山氏の心境にも変化が生じました。東田氏は「37年間一緒にやってきましたが、会長は同友会に入って本当に変わりました。とくに『人は育つ』という視点は同友会に入ってから。育てなければという思いで、承継の話も自分にきたのでは」と話します。ある日平山氏から「3年以内に社長にするから勉強してくれ」と言われ、予想していなかった言葉に驚きますが、自分が平山氏の姿からいろいろ学んだように、自分が取り組む後ろ姿を見て、次世代が育ってくれればという思いで受けました。すぐに同友会へ入会し、例会やブロック会に参加するとともに、経営指針セミナーを毎年受講しつづけ、企業づくりへの飽くなき追求をしています。

経営理念を継ぐ、経営姿勢を継ぐ

 平山家が先祖の商いのころから家訓としている「先義後利」「不易流行」という生き方を、平山氏はまっすぐに実践し続けました。その姿を見てきた東田氏は、やがて顧客とのやりとりの中、日々の仕事の中からそれを確信していきました。しかし、現場の社員たちには実感する機会はなかなかありません。

 東田氏は「長い管理職の経験から、会社の方向を無理やり押し付けても決してうまくはいきませんが、理念に基づいているなら社員も理解ができると確信しています。社員も自己実現を含めた人生の基盤としてこの会社で働いており、双方向に意志が通じ合い、良い循環を生むシステムを作ることが、自分の役割です。自分が社長になってすることは、経営理念に基づいた行動をしようということだけです」と語ります。期せずして平山氏も「つなぎたいものは経営理念」と話します。会社の維持発展を常に一番近いところで見て関わってきた二人にとっての事業承継とは、実践のなかでゆっくりとじっくりと継がれていった生き方や経営姿勢が柱となっています。

会社概要

創 業:1958年
設 立:1961年
資本金:1,000万円
従業員数:25名
事業内容:プラスチック製品の企画・製造・販売
所在地:奈良県北葛城郡広陵町南郷986番地1
TEL:0745-54-5121
URL:http://daiwaci.co.jp/