【第21回】社長が変われば会社が変わる マエダ電気工事(株) 代表取締役 真栄田 一郎氏(沖縄)

 真栄田一郎社長

マエダ電気工事(株) 代表取締役 真栄田 一郎氏(沖縄)

 マエダ電気工事(株)(沖縄同友会会員)は、先代の真栄田世行氏が1963年に創業。2001年に父親である先代から会社を引き継いだ二代目の真栄田一郎氏は少し変わった事業承継を経験しており、これからさらに三代目に事業承継をしようと計画しています。

金庫の鍵を渡されただけの事業承継

 「大学卒業後は銀行に就職させ、銀行で学んだ後に家業を引き継ぎさせよう」と先代は考えていましたが、銀行の試験に合格できなかった真栄田社長は1990年4月にマエダ電気工事に入社し、その日から住友電設九州支店へ出向しました。「3年間は死ぬ気で頑張るぞ」と出向先で仕事をしていましたが、父親が心筋梗塞で倒れたことにより1年8カ月で沖縄に戻りました。

 同社へ戻ってきてからすぐに専務に就任。いとこである年上の常務と社長の間に挟まれ、なかなか結果の出せない日々でした。電気工事の知識もないため工事の積算をして見積りを自分で作成することもできず、他社へ見積もりをお願いする始末。一時期は社員数が7名になり苦しい日々を送っていましたが、取引のあった同業他社が会社を閉めるということで、その会社の工事部長を同社へ引っ張ってきましたが、当時は社長よりその工事部長の給与の方が高い状態でした。

 数年後に社長へ就任しましたが、事業承継は金庫の鍵を渡されるだけで、非常にあっさりしたもの。当時、先代はマエダ電気工事を含め三つの会社の代表をしていたのでマエダ電気工事にほとんど居らず、先代の社長としての後ろ姿を見たことがないままの事業承継となりました。

 社長に就任後、先代との間に立ってくれた第二の父親と慕っていたおじが急死。社員とのコミュニケーションもうまくとれず、社員からの相談は退職する相談ばかり。「社員と向き合うのが怖い」と思うようになり、社内で居場所がないので外部活動にどんどんはまっていき、社員とコミュニケーションがますます取れない状況へ陥りました。「人間としてだらしがなかった」と振り返る真栄田氏。その当時、二代目として何かやらないといけない、実績を残したいと気持ちだけが焦っており、周囲の先輩経営者に大反対されながらも本業の電気工事とは全く別の新規事業をスタートしました。社員は何も言わず、冷ややかな視線で見ていましたが「絶対に見返してやるぞ」と頑張れば頑張るほど空回り。本業で結果を出していない中での立ち上げだったので、大赤字を出してしましました。

同友会との出合い

社員とともに01

 全社員とともに沖縄同友会をはじめ、さまざまなセミナーを受講し経営について学びますが、社員はなかなかついてきません。そんななか、初めて1泊の合宿を実施しました。合宿のプログラムの中で、社員一人ひとりから社長に対して言いたいことをすべてはき出してもらいました。「あんな新規事業なんて最初から成功するはずがないとわかっていた」「社長を信用していません」「今のままなら会社を辞めます」…。「無茶苦茶な非難に、最初の内はイライラしていたのが、最後は泣いて全社員に謝罪した」と真栄田氏。この合宿が“社長が変われば会社が変わる”のスタートとなり、真栄田氏のスイッチが入りました。スイッチが入ると、今まで研修会などで学んでいた知識を生かし、真栄田氏自身が「自分を律する」ことで社員に変化が出てきました。

 2回目の合宿を迎え、「今の経営理念では浸透しないから変えよう」と考え、同友会の経営指針作成講座を受講しましたが、変えることはできませんでした。先代の思いと経営理念の重要さを知り、これまでの理念一言一句は変えずにその理念の裏にある「想い」を明文化しました。毎朝の朝礼で理念を唱和し、朝礼が理念を社員に浸透する場になっています。現在の経営指針の作成は、全社員と一緒になって納得いくまで話しあい作成しています。会社目標を達成するために、部門目標を明確にして、目標達成するためには、だれがいつまでに何をするという具体的行動まで落とし込んでいます。また、全社員に対して損益計算書も読めるように教育し、月次決算の数字もオープンにしていますので、あと、どれくらい利益があがれば業績賞与が出るか、全社員が理解し協力しあいモチベーションアップにもつながっています。

経営者として大切なこと

 「合宿を終えた直後には気がつきませんでしたが、周囲の人たちに変わったと言われました。自分自身何が変わったかと考えると『自分を律すること』『経営の中心に社員の幸せを置くこと』この二つだけ」と真栄田氏。

 以前の真栄田氏は、なぜ社員に信用されていなかったか?との質問に「人としての土台であるマインド・倫理がダメだったから」と答え、「どんなに経営のセンスがあってすばらしい知識があっても、人間性ができていない人に社員はついてこない」と話しました。

 しかし、いろいろな苦難を乗り越えてきた真栄田氏は、「僕は経営を引き継ぐことはそんなに難しいことではないと思っている。社員一人ひとりが経営理念を理解して行動しているので、マエダの社風が整ってきたし、私の後を継ぐ弟にも経営者として、物事をどう見てどう考えるか。後継者としてやるべきことは何かしっかり後ろ姿をみせているから」と力強く語ります。

 経営者しかできない仕事に専念し、それ以外は社員に任せる。辛い自社の数字に目を向けることが大切。そして、会社の数字をオープンにして見える化すること。経営者が適切な正しい経営戦略をつくり、明確な方向性を示すこと。戦略に基づいた戦術を社員と共に考え実践すること。

 「己を律し正しく生きること」「経営の中心に社員の幸せを置くこと」を徹底すれば、必ず会社は良い方向へ行くと強調しました。

社員とともに02

経営理念

マエダ電気工業は

人の役に立ち社会から必要とされる企業であり続ける経営をします

やりがいのある活力に満ちた職場を目指し社員とその家族が明るく豊かな生活を営むことのできる経営をします

社員の資質の向上が組織の発展である
 画像01

会社概要

創 業:1963年
資本金:2,000万円
従業員数:20名
事業内容:電気工事(小さな工事も喜んでやります)高圧保守点検業務、省エネ相談・工事
所在地:沖縄県那覇市壷川1丁目16-11
TEL:098-853-9091
URL:http://www.denkiya-no1.co.jp