【第24回】仲間との出会いがつないだ後継者への覚悟 (有)吉川商事 代表取締役 吉川 裕也氏(長崎)

 吉川裕也社長

(有)吉川商事 代表取締役 吉川 裕也氏(長崎)

吉川商事入社

 長崎県内で屋根の工事業、各種瓦の施工・販売などを手掛ける(有)吉川商事。3代目を務める吉川氏(長崎同友会会員)は、福岡の大学を卒業後、広告代理店に就職するも、上司と合わず3カ月で退職。アルバイトをしながら就職活動を続けていましたが、現会長の父親から吉川商事への入社を勧められます。定職に就けなかった吉川氏は入社を決意しますが、いきなりの正社員ではなく、アルバイトとして入社します。

 勤務と並行して建築系の専門学校に通いつつ、自分の携帯電話の料金や専門学校費などを支払うと、手元に残るお金は毎月5,000円程度。そのようなアルバイト生活を1年間続け、正社員として正式に入社したのは24歳のころでした。

 「この時点でも自分が会社を継ぐという気は全くなかった」と吉川氏。仕事に慣れるまで通常5年はかかるといわれる業界ですが、叔父でもある専務からは「3年で覚えろ」と言われます。しかし営業の仕方、現場での業務など「今振り返ると教えてもらった記憶がない」。まさに「背中を見て学べ」という現場で、施主のクレーム対応やそれぞれの現場を体験していく中で少しずつ仕事に慣れてきます。3年ほど経ったころ、吉川氏に大きな転機が訪れます。

会社を脱走、同友会との出合いと学び

社屋

 営業と現場の比率が2:8という割合になってきた入社3年を迎えたころ、同年代の経営者が集まる会があると現会長から教わり、初めて長崎同友会の例会に参加します。青年経営者会の例会でした。単なる記念講演かと思って参加した例会でしたが、グループディスカッションに参加し、同年代の経営者や堂々と司会を務めるその会員の姿に「これはすごい」と感じ入会を決意します。「とはいえ、当時は青年経営者会のみに参加する日々で、同年代の経営者と酒を交わしながらの会話が楽しくて仕方がなかった」と吉川氏は言います。

 しかし、会社では業績が上がらず、会社を継ぐ気も持てないままいろいろなことを聞かないと教えてくれない社内の雰囲気に嫌気がさし、逃げるように同友会の仲間と合う日々が増えていきました。そうしたある日、ついに「この業界に未来はない」と言い放ち会社を脱走します。昔お世話になった沖縄の方を訪ねるも、その方から諭され、途方に暮れていると、現会長から「明日の定例会議には出席するのか?」と一本の電話がありました。出した手を自分からは引っ込めることがなかなかできなかった吉川氏は、「出るよ」と一言伝え、会社へ戻ります。

 そこからというもの営業の割合が多くなり、新規の工務店など何とか自力での顧客獲得に奔走しますが成果が上がりません。同時期から役員たちの会議に入るようになり試算表をはじめ会社の数字に触れる機会が増え、自社の業績に落胆。自身の営業の成果が上がらないことも重なり、会社がつぶれるかもしれないという不安、自分の無力さを痛感する苦悩の日々が続きます。

会社を継ぐ決意

 28歳のときでした。ある経営の勉強会があると聞いて参加し、資金繰りや試算表の見方、会議のあり方などを学び、会社を継ぐ決意を持ちます。吉川氏は「20代で社長になる」と現会長に話をします。自分の意思を初めて表に出した瞬間でした。新規工務店の獲得や今までの仕事の成果が少しずつ重なり、業績も回復傾向にある中、現会長の60歳を目途に承継の準備を進め、32歳のときに代表取締役に就任し、現在は3年目になります。「社長になり、時間の使い方が変わった」という意識はあるものの、3年目を迎えた際に過去の2年は浮かれていたと反省し、今期は営業に力を入れる方針を示しています。

社長としてみる経営課題

社内

 今後の経営課題としては大きく二つ。人材獲得と社員教育です。事務方2名と現場7名を束ねる吉川氏は、「現場7名のうち比較的若い社員の教育に力を入れ、その中から右腕となる中堅社員を育てていきたい。同時に新卒を採用し経営の基盤をつくり、社員とともに「ありがとう」いう感謝の気持ちを積み重ね、会社一丸となって仕事に取組み、地域にとって必要な企業として存続していきたいと強く思っています」と語ります。

 「私たちは仕事を通じて感動を提供し、強い信頼を築きます」と掲げた経営理念は、まだ吉川氏の中では完成形ではなく、今後進化させることを考えています。それは社長になって3年目を迎えた吉川氏とともに成長していくものであり、その背中を見た社員もともに成長していくのであろうと思っているからです。

 同友会で一生の仲間と出会い、ともに刺激を受け、さらに経営を学び合うことで互いを尊敬する。その経験や学びは、吉川氏と社員、そして同友会の仲間が年齢を重ねるごとに蓄積され、社内、同友会、地域で語り継がれていきます。

会社概要

創 業:1968年
設 立:1973年
事業内容:屋根工事業
従業員数:9名
所在地:長崎県長崎市西海町1700番地27
TEL:095-884-330
URL:http://www.yoshikawa-kawara.com/