【第29回】変えるのは会社ではなく自分自身 末高販売(株) 代表取締役社長 水野 龍太氏(群馬)

水野龍太社長

末高販売(株) 代表取締役社長 水野 龍太氏(群馬)

社屋

「白衣(びゃくい)観音、慈悲の御手」。群馬県民が幼少より親しむ「上毛カルタ」に読まれる全長41.8メートルの高崎大観音像。その観音さまに見守られるように末高販売(株)(水野龍太代表取締役社長、群馬同友会会員)は位置しており、来年2月には創業40周年の節目を迎えます。

社長が頭を下げた衝撃

水野氏は23歳のとき、社長であった父から「会社に入れ」と言われました。俗にいう「面接なしの裏口入社」です。営業部に配属されたものの、Tシャツに帽子というラフな格好で出社するでたらめな営業マンでした。ただし、ほかの先輩社員を見渡しても、「二日酔い社員」や「陰口社員」「どこへ営業に行っているか分からない社員」など、決して水野氏ばかりが特別というわけでもありませんでした。

入社から約2年、師走のある朝、会議室に社員全員が集められました。社長は重い口を開いて「ボーナスは一律10万円でお願いしたい。本当に申し訳ありません」と言い、深々と頭を下げました。その姿に衝撃を受けた水野氏は、すぐにトイレへ駆け込んで泣きました。「社長が悪いんじゃない。やっていない俺たちが悪いんだ…」。しかし、周りの先輩社員は何も感じておらず、会社に対する不満を言うばかり。一番年下の水野氏は、その光景を黙って見ているしかありませんでした。

年間売上1億円、そして(勝手に)専務就任

会長と社長

「二度と社長に頭を下げさせない」。水野氏はネクタイの締め方を初めて教わり、営業の仕事と本気で向き合いました。「年間売上1億円」という自身にとってとてつもなく大きな目標を掲げ、ビジネス手帳の表紙裏に大きく書きました。「お客さま主催の懇親会に参加し、翌朝に目が覚めると桑畑の真ん中で寝ていた」というはちゃめちゃな失敗も数多くありましたが、がむしゃらに仕事を続け、少しずつ自分の営業スタイルを確立していきました。

そして30歳。念願の売上1億円を達成します。社長からは「営業部長にしよう」と言われますが、「専務にしてください」と直訴しました。水野氏にとっては専務でも常務でも何でもよかったのです。「社長の次に発言権がほしい」。ただそれだけでした。目標達成の過程で見てきたのは、売上を抜かれても平気な先輩社員、そして、何も変わらない会社の光景。とにかく言いたいことが山ほどありました。

社長は悩んだ末、名刺を2つ用意しました。「社内では専務。社外では営業部長でいなさい」。しかし、水野氏は営業部長の名刺を机の奥深くに押し込み、勝手に専務になりました。

同友会との出合い

新年のあいさつで、全社員を前に「私は3年で末高を変えてみせる!」と豪語しました。当時の水野氏は「売上のない社員はいらない」「文句があるなら数字を出せ」と常にピリピリし、やることといえば売上表を作成させて数字のない社員を責め立てること。しかし、会社は一向によくなりません。変わらない会社の状況に、何をすればよいのかが分からなくなっていました。

「経営ってなんだ?」「よい会社にするには?」。だれかに教えてほしくて悶々とした日々を送りました。そして願いがかない、知り合いに紹介されたのが群馬同友会です。初めてのグループ討論では自分のことばかりを話しました。「『共育』。経営者も社員と共に育つ」。ある会員からその言葉を教えられ、頭に大きな石が落ちてきたような衝撃を覚えました。

同年暮れのあいさつ、全社員の前で「3年で末高を変えると言いましたが、変わるのは私です」と頭を下げました。以降は同友会で学んだ「共育」を念頭に社員との関係づくりを進めていきます。

社長との二人会議

その後も同友会へ参加するたびに大きな刺激を受け、会社に持ち帰っては社長に質問しました。水野「うちの会社に経営理念はありますか?」、社長「よし、よい言葉を選んで飾っておこう」、水野「経営理念は社長の想い。飾りじゃないですよ!!」、社長「そんなものなくても会社はやっていける!俺はなくても今までやってきた!!」。一時が万時、この調子です。

社長の反対にあいながらも、さまざまな取り組みを社内で実践しました。その一つが「月1定例の全社会議」です。全社会議の議題を決めるのに社長との「二人会議」も毎月開催されます。社長室で二人、数えきれないほどぶつかり合いました。たった3分の話を聞けない社長に腹が立ち、人格否定したこともありました。社長には「会社を辞めろ」と2回くらい言われました。「もう元の親子関係に戻れないなぁ」と思ったこともあります。ただ、口を利くのが嫌なときでも「二人会議」は休むことなく続けました。「42歳で社長交代」。本音の語り合いのなかで、事業承継の期日も具体的に決まっていきました。

就任直前のピンチ

事業承継の直前、重大な事件が起こります。自身の得意先で売掛金2,000万円の未回収。予兆はありましたが、よく知る経営者だからこそ判断が後手に回っていました。「減給・降格、お任せします」と社長には告げました。水野氏は自分の情けなさに気持ちがどんどん落ち込み、うつ病の一歩手前まで追い込まれます。「このままではいかん!せめて体だけでも健康になってやる」。夜ごと自宅近所のウォーキングが日課になりました。その後先方から自己破産申請手続きの知らせが届いたのを受け、全社員を前に与信の甘さ、判断の遅さをわびて頭を下げました。

社長の心配事は「こんな状態で事業承継できるのか?銀行の理解は得られるのか?」でした。しかし、水野氏は知っていました。「経営指針をつくる会」での財務分析を通して、社長がいかに堅実に経営をしてきたのかを。「今回の件で傾くような会社じゃない」。後日、社長に呼ばれ「予定通り来年からお前が社長だ。このマイナスは必ず取り返せる。俺も応援する」と言われました。「社長になれる」。その言葉が深く心に染みました。

和の合う環境(ばしょ)

和の合う環境

2015年1月、水野氏は代表取締役社長に就任。その直後には「経営指針をつくる会」でまとめた経営理念(指針書)を社内で発表しました。「わたしたちはよりよい住生活の創造に貢献し、和の合う環境(ばしょ)をつくります」。地域との和、お客様との和、取引先との和、そして社員との和、先代との和。さまざまな想いが込められています。

社長就任直前のウォーキングを境にすっかり体づくりにハマり、今ではアームレスリングにも挑戦している水野氏。来年3月に開催される「第4回関東甲信越青年経営者フォーラムin群馬」の実行委員長を務めるなど、同友会でも頼れる存在へと成長しています。鍛えられた両腕と同様、自社経営と同友会活動を両輪にして、今後もますます活躍していきます。
社長

会社概要

創 業:1977年
資本金:1,000万円
事業内容:住宅設備機器・タイル・建材・石材・外壁の責任施工付き販売
従業員数:14名
所在地:群馬県高崎市石原町1525-2
TEL:027-327-3677
FAX:027-322-6752
URL:http://suetaka.biz