【第40回】バトンを渡した後も続く創業者としての責任 (株)ジョア 相談役 神馬 孝司氏(岡山)

神馬孝司相談役

(株)ジョア 相談役 神馬 孝司氏(岡山)

社屋

 主に女性用オフィスユニフォームの企画・製造を手掛ける(株)ジョアは1986年に創業。神馬孝司氏(岡山同友会顧問)が44歳の時でした。当初は神馬氏と妻、パート社員の3人で始めた会社も、現在は40人以上の社員を擁するまでになり、2016年に30周年を迎えました。その節目を機に、昨年12月に神馬氏は代表取締役を長男の敏和氏(39歳)に譲り、自身は相談役に就きました。

親の会社から独立

 同社創業の起源は、大学卒業後に父親が営むアパレル製造会社に勤めていた神馬氏の独立に遡ります。
「親元の会社では、兄が社長で私が常務という典型的な同族会社でした。しかし経営陣が身内だと、どうしてもお互いに甘えが出るしエゴのぶつかり合いもある。同族経営に限界を感じて独立を決意したんです」。

 それまで培った経験やノウハウこそありましたが、仕入先や顧客の開拓は全くのゼロからのスタートでした。当初は信用がないため仕入れ先がなかなか材料を提供してくれず、やむなく二次商社から割高な生地を仕入れることもありました。また同社は自社工場を持たず、縫製などはすべて外部に委託しているため、協力会社の発掘にも力を注ぎました。

同友会との出合い

社内の様子

 こうした地道で粘り強い取り組みと、女性用ユニフォームに特化した商品展開によって経営は徐々に安定し、1990年代には年商約4億円を達成。その後も順調に業績を伸ばし、現在は約12億円にまで成長しています。アパレル業界全体の市場が縮小し、特に制服の需要が低迷する中、同社が成長を維持し得たのは、1992年に入会した同友会との出合いが大きかったと神馬氏は語ります。

 「同友会に入会して、『何のために経営するのか』ということを真剣に考えました。また自社の独自性を追求するためにユーザー企業に足を運んで市場調査を行い、実際にユニフォームを着用する女性のニーズと視点に寄り添った高付加価値のユニフォームづくりに集中しました。そうした中で浮かび上がったキーワードが『かがやく』です。当社はユニフォームづくりを通じて働く女性がいきいきとかがやくことに貢献する。そして協力会社も社員もかがやく。そこから経営理念も決めました」。

 社名のジョア(Joie)は「喜び」をあらわすフランス語。顧客も取引先も社員も、自らがかがやくことで喜びを実感してもらいたいという思いを込め、1996年に社名変更したものです。

息子に事業を継承

 そんな神馬氏が事業継承を考え始めたのは約5年前。丁度、東京営業所で主任として働いていた敏和氏が岡山に戻ったタイミングでもありました。

 「後継者を誰にするかということでは相当に悩みました。私は同族会社の限界を体験していますから同じ轍(てつ)は踏みたくない。息子よりはるかに経験豊富な幹部も育っていました。また企業は社会の公器であって私心や身内の甘えがあってはならないという思いもありました。しかし一方で、自社株の評価や経営者保証のことを考えると、幹部社員に事業を委ねることにもためらいがありました。妻と見解の相違で衝突することもありましたが、最終的には息子に継がせることに決めました」。

 神馬氏にとっては大きな葛藤を経て辿りついた決断でしたが、長男に代表を譲ると同時に幹部を執行役員に昇格させることで、二人で協力し合いながら会社を牽引していってほしいという結論に至りました。

 それからは事あるごとに敏和氏とミーティングを重ね、自社の理念や経営者としての責任、社員との関わり方などについて話し合いました。

 「理念の継承については社員がよく理解してくれているのでさほど心配はしていません。むしろ、取引先や社員との人間的信頼関係が大切だということを繰り返し説明しました。そして何よりも経営者は業績の結果責任を問われるということを強調しました。結局、経営者としての最終的な評価は社員が下すはずです。息子にはそのことをよく言ってきかせています」と神馬氏は語ります。

本物の相談役に成長するために

 12月に正式に事業継承を行い、神馬氏は事実上同社を退職。1階業務フロアの社長室から2階の小部屋に移動しました。現場にいるとどうしても口を出してしまったり、社員から直接の相談があったりするため、ツートップの弊害を避ける意味で敢えて距離をとり、相談役に徹するという決意を示したものです。

 「経営は息子に委ねましたが、それでも私には死ぬまで創業者としての責任はあると考えています。確かに経営者の責任については同友会で学びました。しかし相談役としてどうあるべきかは今まで考えたこともありません。これからは自らの社内の立ち位置を明確にし、まず私自身が本当の意味での相談役に成長しなければならないと考えています。そのために自分の関心を新しい分野に向ける努力もしています。やはり同友会の学びにゴールはないし、生涯勉強だと痛感しています」。

 「企業は、2代、3代と続いてこそ真価が問われる」と語る神馬氏。事業承継は社長交代だけで完結するものではなく、バトンを渡された側にとっても渡す側にとっても、それぞれの責任の重さをあらためて考えさせられる機会であることを噛みしめています。

経営理念

株式会社ジョアは、女性のしごと服と、その関連事業を通して
 1.はたらく女性一人ひとりと、その企業が共にかがやく社会をつくっていきます。
 1.取引先やすべての関係者と、共にかがやく関係をつくっていきます。
 1.社員一人ひとりが、共にかがやく会社をつくっていきます。
私たちは、この3つの目的を三位一体で実践し、新たなしごと服文化をつくっていきます。

会社概要

設 立:1989年
資本金:3,000万円
年 商:12億円
事業内容:女性用しごと服と、その関連商品の企画、製造、販売
従業員数:42人
所在地:岡山市南区内尾288-14
TEL:086-281-4446
URL:http://www.joie.co.jp/index.php