【第9回】時代やライフスタイルが変わっても変わらない思いを大切に (有)長門屋 代表取締役 笹林 陽子氏(山形)

笹林陽子社長

(有)長門屋 代表取締役 笹林 陽子氏(山形)

 良質の漆が採取できたことで漆工業が栄えた山形市の中心部に、お城の形のかわら屋根で知られる(有)長門屋(笹林陽子代表取締役、山形同友会会員)はあります。同社は1911年(明治44年)に漆器の行商として創業し、やがて塗りの技術を生かして仏壇を扱うようになった仏壇仏具の専門店です。

主婦から経営者へ

外観

 緑の樹木に包まれた敷地奥には神社やひなた蔵(土蔵)、そして阿弥陀如来像(鎌倉時代作)を祭った慈光明院があります。このご本尊は信仰心のあつかった初代店主が寒河江市の慈恩寺の、廃寺となった禅定院から譲り受けました。土蔵を改装した本堂は塗り師、金具師と、金箔押し師といった山形仏壇の職人たちの技術で中尊寺金色堂の内観を模したと伝わっています。

 ここで生まれ育った笹林氏は事業にはたずさわらずに専業主婦として過ごしていました。ところが、先代社長の病気で経営を手伝うことになりました。トップダウンで社長の指示で動いてきた会社です。突然、社長が不在となり、不安を募らせた社員からは「この先どうなるの。どうしていくのか示してほしい」と言われても、「今は示せない。みんなでつくっていこう」と答えるだけで何をしていいのかも分からなかったと振り返ります。
そんなとき、コンサルタントの方から「学校で経営の勉強をしなさい」と同友会を紹介され入会しました。

変わらないものがある

 山形同友会の支部例会に参加した笹林氏は多くの同友会員が経営指針を作成し、社員に方向性を示していることを知りました。そして2014年、山形同友会の「経営指針をつくる会」を受講します。

 経営指針づくりでは何を質問されても答えられず、何も知らない自分を思い知らされ、劣等感から閉じこもってしまいました。「何のために経営しているのか」「葬儀屋さんやお寺さんとの違いは何か」と考えても見つかりません。しかし、「そんな場合ではない」と言われたことを契機に修了生を訪問。自ら飛び込むといろいろな視点が見えてきました。

 自分と会社と向き合い自問自答を繰り返し、時代や生活様式が変わっても暮らしの中で手を合わせ、命のつながりを思い、心に平安を求める人の気持ちは変わらない。「そういう場を持つことに役立ちたいという思いに至り、経営理念に込めました」と笹林氏は言います。

私たちは仏様とお客様の橋渡し

社内

 当初、社員の中にはできあがった経営指針書に対して「言葉や理想はいいけれど」と冷ややかな反応をする者もいました。それでも目的と方向が明確になった笹林氏が揺らぐことはありませんでした。「これしかない」と定期的に会議を重ね、あるべき姿を話し合っていくなかで「未来の種まき委員会」を発足。城やしゃちほこなど、複数あったシンボルマークを「向かう先は城ではない」と委員会で議論し、「仏様とお客様の橋渡し」という思いをハスのつぼみと鳥で表した新たなマークにしました。社員の意識も、お客様に感謝の言葉をいただいたり喜ばれたりしたことで、自分たちの方向性を確認し、変化していきました。

時代に合わせて生かしたい

講座の様子

 「商品知識を身につけて売るだけではなく、その周辺にある心を大切にしたい」という思いから、同社では「和の文化講座」として、数珠づくり講座や手づくりお香講座などを開催しています。「和の文化をたのしむ会」として、江戸時代のお雛様を楽しむ展示会や、慈光明院で写経をした後、ひなた蔵に場所を移して漆器でおかゆ膳をいただく写経・写仏の会を開いています。

 笹林氏は今後について「かつてお仏壇を購入したお客様が、自宅の建て替えに伴いお仏壇を買い替えたり、お洗濯をしたりする。そんなとき、受け継いだものをつないでいくことには、それぞれの家の物語があることを実感する。信仰心を大切にしてきた先祖の思いを大切に、敷地のロケーションから、ここにあるすべてを時代に合わせて生かすことで次につながっていく」と語ります。

経営理念

私たちは、「命のつながり」に想いを馳せる暮らしを提案し、心豊かな生き方のお手伝いをします。
私たちは、日本の伝統を現代に伝え生かすことで、地域の魅力に貢献します。
私たちは、「お客様の満足」を誇りにし、仲間とともに成長し、実りある人生を歩みます。

会社概要

設 立:1948年
資本金:300万円
従業員数:6名
業務内容:仏壇・仏具・神具・墓石・和雑貨の販売・仏壇の修理・洗濯
所在地:山形市七日町1丁目4-12
TEL:023-622-2204
URL:http://oshironomise.com/