【第42回】生き方改革から始まった残業ゼロへの挑戦 (株)北翔 代表取締役 清水 誓幸氏(北海道)

 清水誓幸社長

(株)北翔 代表取締役 清水 誓幸氏(北海道)

 1982年、22歳になった清水誓幸氏((株)北翔社長、北海道同友会会員)は自動車リサイクル業を創業しました。創業のきっかけは、大好きな車を一日中いじりまわし、研究し、技術を追求できるからです。現在は10年前から始めた輸入車部品のネット販売事業をメインに、ヨーロッパ車専門整備事業、リサイクル事業、リビルト部品(取り外した部品の摩耗、欠損した部分を修理、交換し再生させた部品)の製造、販売も手掛けています。また、14年前から社内の業務システムの内製化を行っています。社内の課題や要望を素早く業務システムに取り込むことによって、社員のイノベーション、業務の進化、生産性の向上につなげており、同社最大の強みとなっています。
 北海道同友会では札幌支部江別地区会会長を務め、経営指針委員会や産学官連携研究会(HoPE)への参加など同友会でのさまざまな学びを経営に生かしています。

変革の動機

 同社が「生き方改革」を始めた動機は、創業以来続けてきた卸売事業での、業界への不満でした。車の仕入先も部品の販売先も整備工場や自動車販売業者が中心で、取引権限がすべて相手にあり、当社が選択できる余地は無い状況でした。特に我慢ができなかったのは、安く部品を供給してもユーザーには新品同様の価格を請求する、詐欺まがいのビジネスに利用されていたことでした。

 その他にも接待の強要や、取引先からの女性社員へのセクハラなどが続きましたが、ビジネス上は我慢しなければなりません。徐々に自分の無力さや心無い役員の声にへきえきしていきました。このころから海外視察をはじめ、欧米の売り手のルールが最優先される商取引にあこがれを持ち、いつか日本もこうならないかと感じていました。

会社が変わる

 2000年ごろは金属価格の下落と処理費用の高騰から、収益の圧迫が続きました。その結果、日本中でリサイクル業者による不法投棄が増え、事件なども起き、社会から倫理感の無い業界と見られていました。そこで清水氏が以前から抱えていた業界への不満を払拭し、社員が誇りを持てる企業にしたいとの思いから、『環境マネジメントシステムISO14001』の取得に向け取り組むことにしました。社員の中で取り組みを疑問視する声が大きくなってくる一方で、賛同してくれた2名の社員が頭角を現し、そこから徐々に社風が変わっていきました。

社員さんと

 ISO取得の取り組み以降、数値や行動の計画を日々確認し、社内で共有する仕組みをつくりました。このことで、日々の仕事が「過去の後始末の仕事」なのか、「未来のための仕事」なのかを皆で考えるようになり、「未来のための仕事」を最優先で取り組むことによって、徐々に計画を達成できるようになりました。

 またBtoBの卸売事業からBtoCのネット販売事業へ決断実行から5年間で100%業態転換しました。ネットで商品価格を公開し、売り手側である同社のルールを明確にしました。「領収書や見積りは発行しない」「掛け売りを無くし、現金かクレジットカードでの決済」など、業界の常識にとらわれない厳しい取引規約をつくることで、ルールから逸脱した要望やクレームに対応する時間が無くなり、業務が飛躍的にスムーズに進むようになりました。

 しかし、お客様に選ばれる企業にならなければ全く業態転換の意味はありません。そこで同社の社会的使命を、「必要な部品を安く早くユーザーに届ける」とし、その使命を妥協なく追求し続けています。

「生き方改革」のはじまり

講演の様子

 2011年3月11日の東日本大震災は、北翔と清水氏自身の考え方の大きなターニングポイントとなりました。震災の映像を見るたびに、家族や友人に別れも告げずに亡くなった方々のことを思い、心が痛みました。仕事中心の生き方を改革するためには、社員それぞれの生き方から見つめ直すことが大切であり、それぞれの生き方、価値観にあった仕事中心ではない働き方ができる環境をつくるのが企業の務めだと考えました。

 翌月の4月から改革に着手しました。「働く時間を短くし、家族や友人と過ごす時間を増やそう。趣味やレジャーに没頭する時間をつくろう」と呼びかけ、年間休日を増やし残業の削減に努めました。その時同時に生活給でもあった残業代金を、過去の残業代の平均値を取り基本給に上乗せする取り組みを開始しました。また電話受注が仕事にロスやミスを生むきっかけになっていたため、それらを廃止してメールかFAXでの対応に変えました。他にも社員が次々と業務改善のアイディアを考え実行し、結果を見てさらに改善し続け、半年後には、残業をしなくても計画通りの分量の仕事ができるようになりました。現在ではSNSを通して、家族や友人と過ごしたり、趣味を楽しんだりする社員の様子が伝わってくるようになりました。

 しかし、雇用環境を変えて経営が苦しくなっては本末転倒です。改革前の5年間は累積で赤字でした。そこで雇用環境の改善と同時に事業計画をさらにブラッシュアップし、毎月経営改善を行っていった結果、2012年以降は毎年売上が120%以上アップし、5年前と比べて2.7倍になりました。社員も6名増えました。社員の平均年収も改革前に比べ大幅に上げることができました。

 「会社の健全な経営には、健全な組織、そしてそれをともにつくっていく健全な人育てが重要だと思います。健全な人を人育てるためには業務だけに捉われず、社会に目を向ける大きな視点が必要です。また生産性向上を意識し、社員が社会に目を向けるため心のゆとりも大切です。それぞれが豊かな生き方に向け進むためには、昔ながらの常識に捕らわれず、変化を怖れず、社員と共に歩む経営者の覚悟が必要だと考えています」と清水氏は語ります。

会社概要

創 業:1982年
資本金:2,840万円
事業内容:ヨーロッパ車用新品部品ネット販売、ヨーロッパ車専門整備工場、使用済自動車の回収および分別処理、リサイクル部品販売
従業員数:20名
所在地:北海道江別市江別太305-15
URL:https://s-hokusyo.com/