【特別版】選ばれ、働き続けたい企業へ (株)九州永田 代表取締役 坂部 龍也氏(熊本)

坂部龍也社長

(株)九州永田 代表取締役 坂部 龍也氏(熊本)

入社した年に取引金額No.1とNo.3の会社が倒産

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 私は1999年に、父の経営する(株)九州永田(坂部龍也社長、熊本同友会会員)に5人目の社員として入社しました。入社当時は仕事が忙しく、順風満帆に行くと思っていましたが、年商2億円に届いた年に売上1位の取引先が倒産。そして売上3位の会社も倒産。2年後には、赤字に転落し会社は倒産の危機に直面します。

 何とか倒産は回避できたものの、自分自身がもっと経営の勉強をしなければならないと痛感しました。そんな中、生まれ故郷である静岡の同業の杜長に誘われて、静岡に修業に行きました。そこで静岡同友会の例会に参加し、課題や悩みを共有できる場があることを知りました。

 「熊本に戻ったら絶対参加します」と 宣言し、2カ月間の修業の後、熊本に戻り当時の西支部長の紹介で2005年に熊本同友会へ入会しました。

同友会に入会して「経営指針を創る会」を受講するも未完成、やっと完成するも…

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 売上をアップさせないと会社が倒産してしまう、そんな恐怖と戦う毎日。同友会の「経営指針を創る会」(以下、創る会)のお誘いを受けたのは、そんな状況の中でした。その勉強会で、同じ支部の大先輩の会員から「利益というのは、お客様からの拍手だ」と学びました。1年目は、経営理念をつくれずリタイア。2年目は、会社の数値計画でリタイア。3年目は参加しませんでした。 5年目、支部幹事長の時に参加し、経営指針書を完成させました。

 「創る会」での指針発表の前に参加した例会でのことでした。グループ討論テーマは「社長の夢を社員にどう“共有”していますか?」でしたが、そのテーマが私には「社長の夢を社員にどう“強要”していますか?」と、そう聞こえたのです。カバンの中の指針書を取り出して見返してみると、そこには私の夢しか載っていませんでした。私は、社員の夢や労使見解(中小企業における労使関係の見解)を取り入れた指針書をつくらないといけないことに気づき、つくった経営指針書を破棄して、その後社員と一緒につくりました。ここまでに6、7年かかりました。

共同求人に取り組み気づかされたこと

 高校、大学を含めて年間50名ほどの学生が会社訪問に来ます。社員にとっては、自分たちの仕事が経営理念に沿って、どう世の中の役に立っているのかということを学生に話す機会となります。自分たちの仕事が、世の中の役に立っていることを実感してもらうためにも学生の訪問はよい機会です。

 また、当社ではインターンシップも受け入れています。この間に「未来の宝地図」を探そうということで、自分が何をやりたいか、何を得たいのかを作業、飛込営業の経験、私と行動をともにすることで見つけてもらいます。インターンシップ後、卒業した学生が熊本に残って、それぞれのポジションで活躍してくれています。このような活動を通じて、地域の大学や高校との信頼関係を徐々に築いています。

 当社では、学生は会社訪問をしないと入社試験を受けることができません。会社訪問の際、学生から社員全員に対して質問を出してもらいます。その質問をもとに、入社試験の問題を社員と一緒になって考え、学生のパーソナリティを引き出すものをつくります。そして合格者には、社員全員の印鑑のある内定通知書を渡します。これは、社員会員で採用したという証です。不合格の場合も直接会って、その理由を伝えます。それは、次の会社での入社試験に合格してほしいからです。学生に地域に残ってもらうこと、これが本物の活動だと思っています。

 採用は本人の能力が高いから採用するのではなく、入社した後のことを考えて判断します。自社の社風、社員共育で成長する過程を見届ける。このように、社員共育の入り口として採用活動をとらえています。

共同求人と社員共育で見えてきた社風の大切さ

社内勉強会の様子

 当社は、経営理念の中に社員共育の柱である「17条の憲法」を掲げており、最後の第17条を社員と実践しています。その実践が、“任せる” ということです。「同じ船に乗って、一緒に沈むくらいの覚悟を持って君に任せる」ということが言えないと、本当の意味で任せるとは言えません。自分で判断して、仕事を取りに行く。自分で見つけてきた商品の価格折衝も任せています。その結果、取引先はどんどん増え、7年前は20社だったのが、今では112社になりました。このように社員が主体的に動ける社風づくりが大切だと思います。

 究極の社員共育は、会社で鍛え抜かれた社員が、きちっとした形で社会に出ていくこと。社会に還元できる社員共育の仕組みでないと世の中から必要とされません。世の中から必要とされる会社ではないと、求人はできないと思います。自社で3年から5年修業すれば、いろんな会社から声がかかる人材。そんな人を育てる覚悟で社員共育に取り組んでいます。自社内だけで活躍できる人に育てることが社員共育ではないということです。

選ばれ、働き続けたい企業をめざして

 私が入社して聞もないころ、ホームセンターから取引の話があり、担当になりました。何かしないといけない、自分が責任者だと感じました。いろいろな提案をし、売上が急激に伸びました。振り返ってみれば、売上が伸びたのは、「だれかのために役立ちたい」という想いがベースにあったからだと思います。そして、担当することに責任を持ち、担当したお客様の売上を伸ばすことに喜びを感じる。それが、「お客様から拍手をいただくことにつながる」のではないかと思います。社員一人ひとりが活躍できるステージをつくり続ける企業でなければ社員は定着しません。自由な社風の中で、自分の夢や思いを発言でき、それを実現するために何が必要かを分析しながら、経営のかじ取りをしていくこと。それが本当に選ばれ、働き続けたい企業になるために必要なことではないでしょうか。

(第45回青年経営者全国交流会第7分科会報告より抜粋)

会社概要

設 立:1985年
資本金:1,000万円
年 商:2億5,000万円
従業員数:11名(内パート・アルバイト2名)
事業内容:農業機織・資材卸売業
URL:http://www.kyushu-nagata.com