【第42回】幹部社員が考える理想の経営者と経営幹部の役割  (株)エム・ソフト 取締役 住本 信一氏(東京)

住本信一氏

(株)エム・ソフト 取締役 住本 信一氏(東京)

 (株)エム・ソフト(住本信一取締役、東京同友会会員)は、2018年に設立30年を迎えました。ソフトウェアの受託開発および自社製品の研究開発を日本だけでなく海外でも展開しており、経営理念は『豊かな生活基盤を作る、社会に貢献する、顧客を大切にする』。社是は『誠実・尊重、信頼・互恵、技術・マネージメント』であり、エム・ソフトのMは、moreのMです。「もっと多くの仲間が集い、もっと上をめざし、限りなく前進を」という飽くなき探求心、moreの精神を忘れないという思いがあります。「チャレンジ・挑戦」はコアバリューとして全社的に共有しています。

同友会に参加したきっかけ

 住本氏が東京同友会に入会する最初のきっかけになったのは、東京同友会IT部会所属の4社で構成するイーベックスソフト事業協同組合です。そのスタッフ会は組合の経営を担っており、経営の疑似体験ができるようになっています。これは、「スタッフ会で次の経営者を育てる」という社長の意向によるものです。これは非常に有効で、スタッフ会からは7~8名の経営者(承継・分社化・独立など)を輩出しており、住本氏を含めて多くの役員も輩出しています。

新入社員研修に参加して

 ある時、同社の小暮恭一会長(東京同友会会員)から住本氏に同友会の新入社員研修に行くよう指示がありました。「参加してみると、まさに『共育ち』の現場でした。この研修は同友会でなければできません。理由は三つあります。一つ目は、新入社員と社長が共育ちをする場であること。二つ目は、新入社員に異業種の同期ができること。三番目は信頼できる同友会の経営者の方々が自社の新入社員の面倒を見てくれるということです」と住本氏は言います。

幹部の成長は企業の成長

 住本氏が幹部社員として大切にしている考え方があります。それは大学時代にさかのぼります。在学中、某武道団体の支部長に就任しました。支部は50人ほど。4歳から12歳までの子どもが対象でした。就任後半年足らずで人数が35人に激減しました。本部道場の先生から「その現状がお前の実力だ」と言われ、自分が成長しなければ現状は変わらないと考えました。必死に勉強していくうちに自分の考え方や行動が少しずつ変わっていきました。「私は、自分の技術を教えることが自分の役割だと思っていたのですが、そうではなく、子どもたち一人ひとりに対して何をしてあげられるのかを考え、向き合うことが自分の役割だということに気がついたのです。このように私が変わってきたことによって、当時、黒帯の高校生らも変わって、いろいろと提案してくれるようになりました」と住本氏。

 気がつくと、ほとんど毎日のように彼らと子どもたち一人ひとりに何をしてあげられるのかを話し合っていました。このように協力し合いながらやっていくうちに、道場に活気が生まれ笑い声が絶えなくなり、1年後には60名にまで戻っていました。「幹部の成長は企業の成長に直結するということです。それが幹部のポジションだということを幹部の方々はしっかり認識しておいてほしいと思います。幹部である限り、部下を教育して成長させないといけません。しかしそれと同じかそれ以上に自分の成長が大切です。では、幹部が成長するためにはだれが成長すればよいのでしょうか。もちろん経営者です。これこそが『共育ち』と言えるのではないでしょうか」と住本氏は言います。

経営幹部の役割

 経営幹部の役割は以下の四つあると住本氏は語ります。

「一つ目は、経営者を理解することです。経営者をねぎらうくらいでよいと思います。2009年にエム・ソフトタイランドとFDIソフトウェアの取締役を兼任してバンコクに赴任しました。社長や会長がいつもいるわけではないため自身で判断することも多くあり、決断することの重さを痛感したと言います。

 二つ目は、未来を考えること、現状を見ながら過去の経験をどう未来に生かしていくかを考えること。自社の理念が浸透しないのはなぜか。理念は思いだから、言葉だけでは伝わりません。「行動、あるいは人事や組織、社内規定、給料、結果、ありとあらゆるものを総動員して伝えていかなければならないのが想いだと思っています。

 三つ目の経営幹部の役割は、経営理念を一般社員にブレイクダウンしていくことです。経営理念は経営者が、あるいは社員と一緒に作るかもしれませんが、成文化した瞬間に経営者の中から外に出て行き、経営者は社員とともに経営理念をめざす立場になります。そこには信頼関係が最も重要です。経営幹部は社長に信頼されていなければを任せてもらえないし、一般社員から信頼されていなければ話を聞いてもらえません。信頼関係を築くことが非常に重要で、それがあって初めて経営理念をブレイクダウンできるのです。

 四つ目は、部下への権限移譲。経営幹部の重要な役割だと思っています。これはあなたの責任でやって下さい、そのために必要な権限があればすべて委譲しますというくらいにしないと、委譲するだけでは仕事が進まないし、やってくれません。権限と責任はペアで考えるものと同社では考えています」

よりよい会社をめざすために

 住本氏は言います。「まず一つ目は、企業の発展には幹部社員の成長が不可欠だということです。幹部社員に成長してもらうためには本人と同時に経営者自身も一緒に成長していく。それが共育ちということだと思います。二つ目に、経営理念は行き先を共有するために必要です。経営理念の浸透には『成文化』と『思いを伝える』の両立が必要です。三つ目に経営者と幹部社員、幹部社員と社員の間には信頼関係が絶対的に必要であり、どのように信頼関係を構築していくのかを経営幹部あるいは経営者が考えていくことが必要です。これらを実践していくことにより、よりよい会社になっていくと思います」

経営理念

豊かな生活基盤を作る、社会に貢献する、顧客を大切にする

会社概要

設 立:1987年
資本金:1億円
事業内容:ソフトウェアの受託開発および自社製品の研究開発
従業員数:320名
所在地:東京都台東区東上野2丁目18番10号 日本生命上野ビル6F
URL:https://www.msoft.co.jp/