【特別版】同友会の歴史と理念は経営実践からつくられた (株)エステム・名誉会長/中小企業家同友会全国協議会・相談役幹事 鋤柄 修氏(愛知)

鋤柄修・中同協相談役幹事

(株)エステム・名誉会長/中小企業家同友会全国協議会・相談役幹事 鋤柄 修氏

(第44回青年経営者全国交流会 第2分科会報告より)

人を生かす経営の実践

 中小企業の「労使関係のあり方」については、中同協が設立される以前から十余年にわたり議論を重ね、1975年に「労使見解(中小企業における労使関係の見解)」が中同協から発表されました。その後、「労使見解」の理念を生かす「経営指針を確立する運動」が1977年に提起され、全国的に位置づけられました。

 人間尊重の経営とは、経営指針・採用・共に育つ社員教育、障害者問題の「人を生かす経営」をしていくことです。経営指針は社員との契約書です。指針はつくるだけではだめで、社員が実践するようになり、それが社風となって初めて意味があります。そのためにも、経営指針を通して、会社は何のために有るのか、利益は何のためのものか、給料を上げるにはどうしたらいいかなどを社員に説明することも必要です。

 また経営指針は銀行の借り入れの際も役立ちます。私が社長になった時、婿養子なので担保もない中、銀行に経営指針書を持って行き借り入れをしました。会社の未来が明確なことは、銀行から信用を得ることにもつながるのです。また、それ以前に、経理の公開や就業規則の作成がなければ、社員の信頼を得ることは難しいでしょう。

 また、経営指針をもとに定期採用をすることも大切です。採用した社員が成長する「共育」の仕組みづくりも必要です。自社は元々職人集団で、挨拶もしない会社でしたが、私が同友会に入って、中小企業問題全国研究集会で愛媛同友会の会員報告を聞いたことをきっかけに「学習型企業」となるよう少しずつ社風を変えてきました。具体的な取り組みとしては、入社5年目の社員が新入社員研修の講師として教え、人前で話すことの大変さを学びます。また、社員同士、資格取得を目指して勉強会を行っており、国家資格の社内模擬試験など、先輩が後輩に教える風土となっています。

 近年、この「学習型企業」の取り組みが大学で評判で、「エステムに行くと環境系の資格が取りやすい」と噂になっているそうです。常日頃、社員に「翼を鍛えろ」と言っていますが、実際にエステムで資格を取得した後、一流上場企業に転職して、鍛えた翼で飛んでいってしまう社員がいます。しかし、そんな社員には「エステムのことは絶対忘れるな。できることなら早く発注権をとれ」と伝えると、本当に発注の電話がかかってきました。会社の理念が浸透しているからだと言えます。

 日常的なことで言うと、毎朝の朝礼で、社員が経営理念に沿って何を取り組んだかを発表しています。理念は言葉だけ覚えても意味がなく、人前で発表することが「共育」の訓練となっているのです。また、エステムの理念の外部発信として、毎年社員が主体となり「環境フォーラム」を開催しています。参加者は銀行や取引先、行政、学校、一般市民など600人ほど来ていただいています。その他に環境の取り組みとして中国やタイで木を植える取り組みも行っています。

経営者に必要な能力とは

 経営者が身につけるべき能力を「K(感性)・D(度胸)・D(努力)・I(インテリジェンス)」です。「K(感性)」とは、情勢を分析し、長期的な視点で仕事をつくる能力です。今日、明日といった短期的な課題解決は、社員の仕事です。逆に、経営者はビジョンづくりなど、長期的な視点をもって仕事を捉えることが肝心です。

 野球に例えると、試合で実際に戦うのは選手ですが、優勝する戦略や仕組みを作るのはその球団の経営者や監督です。優勝をするには、ただ判断するだけではなく、その球団の将来を考えた上で、独創的な発想をしなければなりません。そのためには時代を読む感性を鍛える努力がいります。

 感性を磨いた後は、経営の判断をする「D(度胸)」が必要です。また「D(努力)」とは、社員のまねのできないところで努力を重ねることです。日頃から本を読み、経営だけではなくさまざまな分野の方面から情報収集をする習慣を持つようにしましょう。せっかく同友会に入ったのなら、知的レベルの高い「I(インテリジェンス)」な発言をしなければなりません。

 近年、第4次産業革命と言われるほどIoTやAIといった革新的な技術が次々と出てきています。近い将来、単純な仕事をロボットや人工知能が行う時代がくるでしょう。そうなると、今後、今まで以上に経営者の能力が求められる時代となります。

 同友会理念や「労使見解」はただ学ぶだけでなく、社員と一緒に人間尊重の経営を具体的に実践することが大切です。そのためにも、経営の具体例を会員報告から学び、その学びを会社に持ち帰り社員に翻訳して伝え、各社各様のやり方で全社一丸となって実践することが大切です。また、実践するのは経営者ではなく社員であり、長期的な視点で社員の今後の仕事を作ることが経営者の役割といえるでしょう。

トップとして決意と覚悟を

 私は1995年から愛知同友会で代表理事になり10年間務めました。その間愛知同友会が2,300名から2,000名を切るのではないかという状況になりましたが、私は愛知同友会を会員3,000名、会社は300名の組織にすると決意と覚悟を決めて、みなさんに宣言しました。同友会でも会社でもトップは決意と覚悟を言わないといけません。トップとして意志を示して、みんなで頑張ることが必要なのです。

 そして、同友会に入ったら、組織について学ぶことや組織で実践することを学ぶことです。個人技ではいけません。いろいろな人がいますので、組織で動き、実践することです。会社では経営者ですから組織のトップですが、支部長や支部幹事などの同友会の役員になると中間管理職のような役割を担うときがあります。経営者はトップとしてのリーダーシップは日々実践していますが、経営者同士の組織で、同友会役員のような中間に位置するような役割を担うことに慣れていません。このようなことも含めて組織というものは何か、組織で実践するということは何かを日常の同友会活動や役員研修会などで学ぶことが大切です。

会社概要

設 立:1970年
資本金:7,000万円
年 商:45億円
従業員数:440名
事業内容:水処理施設受託管理、水処理プラント設計施工管理、水質分析、環境計量証明事業、環境コンサルタント事業
URL:http://www.stem.co.jp/