【第6回】経営理念がないのによく経営できるね (株)羽田製麺 代表取締役 鈴木 信雅氏(福島)

鈴木信雅社長

(株)羽田製麺 代表取締役 鈴木 信雅氏(福島)

 「あなたの会社、理念がないの?それなのにすごいね、経営できるなんて」これは入会当初、鈴木信雅氏((株)羽田製麺代表取締役、福島同友会会員)が先輩から言われた言葉です。「当時はほめ言葉と感じていました」と鈴木氏は懐かしみながら言います。

地区会長の縁

社屋

 (株)羽田製麺は、1950年に羽田武氏が創業。終戦後の食糧難。政府から配給となったメリケン粉をうどんにする委託加工が商売の始まりでした。1977年に鈴木氏の父、宗二氏が2代目になり、2002年、鈴木氏が3代目に就任。今では本社工場、飲食店を含め55名の社員数となり、売上高も4億円を超えました。鈴木氏は今年度福島同友会福島地区会長に就任します。実は1992年に先代も5代目地区会長を経験しており、福島同友会初の親子2代会長を輩出している会社でもあります。

 鈴木氏は、大学卒業後、東京で社会人生活を続けていましたが、「長男なので継がなければ」と勝手に思い込み、28歳の時に押しかけ入社をしました。「当時は年配の人ばかりの零細企業で退屈な日々」と鈴木氏。そんな毎日を打破すべく、新規開拓を口実に東京営業所を開設し福島を脱出します。その時、先代の目には辛抱できず2年足らずで東京へ逃げ出した息子としか見られず、信頼関係はありませんでした。

 東京では、1軒獲得をするのに3カ月を要しましたが、なんとか目標としていた売上を3年で達成。その頃ラーメン屋の開業話を聞き、会社から借金をして挑戦します。修業後、新井薬師前駅のそばに友人と2人で開店。初めは売れずに苦労しましたが、雑誌掲載がきっかけで売上も上昇し、これからという矢先、友人から「故郷に戻りたい」と伝えられます。それまですべて友人任せで店を運営し、かなりの負担を強いていたことも原因ではないかと反省し、自身も現場に入り2人でお店を回し営業を続け、借金返済に目途がついた時点で閉店へ。友人とはいえ、初めて従業員を雇用し、雇用される人の立場を理解することの大切さを先代から諭されました。「この2年間は経営と労使関係についても学ぶことができました。その友人ですが、実家長野で弊社の麺を使ってラーメン屋を経営し、感謝しております」。

先代から事業を承継

 その後、福島に戻り、35歳で社長に就任。先代は65歳で会長へ。「引き継ぎらしいことはありませんでしたが、覚えていることは3つあります」と鈴木氏は言います。それは、(1)支払日を遅らせてはダメ、(2)自己資本比率を上げる、(3)キャッシュフローは重要、の3つです。

 先代の引き際は見事すぎるほどでしたが、過去には先代と衝突もありました。原因は2つ。若かった鈴木氏は少しでも会社を大きくし、売上も伸ばしたいと血気盛んな年頃。無理も拡大もしない、といった合理的な先代の考え方に共感できませんでした。2つ目は、身内ゆえの甘さが鈴木氏自身にありました。会社は自分のものになる、先代も含め周囲は自分の考えに共感してくれるだろう、そう思っていたのです。先代からは「継いでくれと言った覚えはない」と言われ、「確かに私も言われた覚えはありませんでした」と鈴木氏は笑って当時を振り返ります。

飲食業界へ

社内の様子

 販路を広げ、出荷量の半分以上を首都圏に納品するまでになりました。業績を拡大していた時、東日本大震災が発生し、風評被害による取引停止もでました。そして「福島で製麺業=下請け」だけではなく、「お客様の声を聴くことができる直営店を出したい」との思いが募り、蕎麦屋を福島駅前に開店します。これは、製造の9割以上がラーメンのため、取引先に迷惑をかけず自社製品を武器にできるのは何か、という考えからたどり着いた案です。「7年続けてこられたこの影に、実は2度目の閉店も経験しました。お箸で食べる和風パスタ店を開店したのですが、人任せにしたり、コンセプトに迷いも生じたりし、1年足らずで閉店となりましたがその教訓を生かし今があります。これまで続けてこられたのは、何より頑張ってくれる従業員と取引業者さん、ご愛顧下さっているお客様のお陰と感謝しております」。

 「あの震災は、商売の基本である人との繋がりを再認識できた事に加え、新たな可能性を探るきっかけになったと前向きに捉えています。原発事故を無かったことにはできませんし、人の気持ちを変えることも容易ではありませんが、自らの考えを変え行動することで未来は変わると信じています。後を継いだことも、直営店を出したこともだれかに頼まれた訳ではなく、自分の意志によるもの。やるしかないのです」と鈴木氏。

 この言葉、実は先代も表現していました。「自分が変わらなければ同友会は変わらない。経営者が変わらなければ、会社も社員も変わらない。同友会の活性化は自己変革」と第15回東日本地区会員研修交流会in水戸に参加した際にそう綴られていました。

社長のノルマ

 鈴木氏は言います。「『羽田製麺に頼めばできない麺は無い』と言われる究極の製麺屋をめざし、麺を通して『美味しい』を広く届けたい。併せて、働き方改革の先端を行く企業にすること。同友会で経営指針を確立し、10年ビジョンも描けるようになりました。今後はそれを社員といかに共有していくかだと思います。入会時、経営理念もなく会社を動かしていた自分が不思議です。同友会に出合っていなければ、どうなっていた事か」。
社員さんと共に

会社概要

設 立:1956年
事業内容:生麺製造・食材卸・飲食店経営
従業員数:55名(内パート・アルバイト30名)
所在地:福島県福島市南矢野目字下柳田6-8
TEL:024-554-2470
FAX:024-554-2926
URL:http://www.haneda-seimen.co.jp/