【第8回】次世代につなぐ企業づくりを (株)エフ・ティ・シー通信 会長 岩本 博氏(福岡)

岩本博会長

(株)エフ・ティ・シー通信 会長 岩本 博氏(福岡)

社屋外観

 (株)エフ・ティ・シー通信は、福岡市東区にある通信機器の製造・販売を行う企業です。現会長の岩本博氏が1975年に(有)九州無線特機サービスとして創業、1988年に株式会社へ組織変更し、1991年に現在の社名となりました。今年で45期目を迎えます。

顧客中心主義を掲げて

 主に運送業者やタクシー向けに無線機器やドライブレコーダー、監視カメラなどを取り扱っています。運行管理システムの自社開発も行っており、各車両の位置情報をリアルタイムで送受信して一括管理できる「GPS運行じょうず」や、あらかじめ登録した顧客の氏名・住所を着信と同時に画面へ表示して自動でプリントアウトする「CTI受付じょうず」は代表的な商品です。

 同社の強みは商品の製造・販売・施工・修理を自社で一貫して行えること。また「顧客中心主義」を理念に掲げ、顧客との対話から細かく要望を把握し、最適な商品を提案することが特徴です。商品のイメージをつかみやすくするため2017年にショールームを社内に開設しました。商品の提案から施工後のアフターケアまで「お客様に寄り添ったサービス」の提供に努めています。

 一方で課題として挙げられたのが日々進化する情報技術への対応です。情報産業の変化は凄まじく、特に2020年の5G導入により通信機器業界は転換期を迎えます。5Gは4Gの約100倍の実行速度。2時間の映画がわずか3秒程度でダウンロード可能となり、自動(無人)運転や遠隔医療も今後実用化されていきます。顧客のニーズも多岐に渡っていくことが予想されるため、AIやIoTを活用した商品づくりに力を入れることが今後の目標です。

知識ゼロからのスタート

 創業前、岩本氏は他業種の営業マンとして働いていました。取引先だった無線機メーカーに頼み込み、独立後も商品を販売させてもらうことになりましたが、無線機については何の知識もありませんでした。家庭では長男(現社長)が生まれたばかり。「今思えば本当に無鉄砲な行動だった。反対せず応援してくれた妻には感謝しかない」と岩本氏は振り返ります。当初は一人だけの会社だったため事業所は置かず、車中ですべての業務を行っていました。契約は月2件が精いっぱい。資金繰りは絶えず火の車でした。後に同友会へ入会し、勉強していく中で不渡りを出さなければ会社は倒産しないことを知り、手形取引からの脱却を3年かけて模索したと言います。

 そのような厳しい状況の中、前職で同僚だった技術職の男性を引き抜きます。男性が入社したことで無線機の免許申請から機器の販売・修理まで提供できる会社に変化し、徐々に売上は上がっていきました。戦友とも言えるこの男性とはそれから30年以上共に働き、男性は数年前に定年退職を迎えました。現在はその方の息子さんが技術職として入社しており、二代にわたってエフ・ティ・シー通信を支えています。

経営指針書の作成から自社商品の開発へ

自社製品「運行じょうず」

 岩本氏が福岡同友会へ入会したのは1987年。無線機器の販売・修理会社として営業して約10年、今後の方向性を模索していた時期でした。入会して間もなく「第14回経営計画書作成特別セミナー」を受講し、経営指針書を作成。「指針書をつくったことで劇的に何かが変わったというわけではない。しかし社員と一緒に自社の未来を考えること、共通意識を持つことの大切さに気づくことができた」と語ります。社員と共に会社をどう発展させるか考え、その中で出てきたのが自社独自の商品づくりでした。現在も販売している「運行じょうず」や「受付じょうず」がその成果です。

自社製品「受付じょうず」

 岩本氏は同友会のよさとして、他業種や幅広い年齢層の経営者が集まっていることを挙げます。例会へ参加し、共育委員長・支部長・地区会長・代表理事と役員を務めていく中で、いろいろな人と出会いさまざまなことを学びました。商品づくりを実現できたのも、同友会で販売側と製造側どちらからの話を聞くことができたから。「3年以内に自社商品をつくらなければ退会だ」と発破をかけてくれる仲間もいました。

 自社商品の開発を始めてからおよそ20年。現在は顧客の要望へ柔軟に応えられるようになり、多くの顧客から信頼を集めています。要望を叶えることでまた別の要望が生まれ、新しい仕事につながっています。「経営指針書を作成していなければ商品開発への道は生まれず、商品開発をしていなければ今の会社はなかったはずだ」と岩本氏は熱く語りました。

「次世代につなぐ企業づくりを」―中同協設立50周年に寄せたメッセージ

 岩本氏は現在、「同友すばる委員会」という事業承継に関する委員会で役員を務めています。自身は2015年に長男へ代表権を譲りました。後継者がすでに決まっていたものの、60歳で準備を始めてから承継を終えるまで10年はかかったと言います。岩本氏は中小企業の後継者不在による廃業が増えていることに触れ、強い口調でこう語りました。「同友会は50年、100年続く企業づくりをめざしている。中同協が設立されて50年。同友会全体が事業承継について真剣に考えていかなければならない。60歳を迎えたらだれもが承継に取り組んでいくべきだ。それが中小企業経営者の責任ではないだろうか。また、同友会活動に打ち込むだけでは何の意味もない。同友会で学んだことを自社に持ち帰り、実践し、次世代につなげられる企業をつくっていくことが私たちには求められている」。

会社概要

創 業:1975年
事業内容:通信機器の製造・販売・修理。GPS車両情報システム「運行じょうず」などの開発
従業員数:10名
所在地:福岡市東区名島4丁目8番26号
TEL:092-662-2721
URL:http://ftctusin.co.jp/