【第10回】自主・民主・連帯の精神で経営危機を乗り越える ヒロボシ(株) 代表取締役 大西 寛氏(広島)

大西寛社長

ヒロボシ(株) 代表取締役 大西 寛氏(広島)

 企業を取り巻く環境は急激に変化しています。今年で48期を迎えたヒロボシ(株)(大西 寛代表取締役、広島同友会会員)は、10年サイクルで訪れる変化の荒波に柔軟に対応することで経営を維持・発展させてきました。これまでに経験した最大の危機は1994年、広島で開催されたアジア競技大会終了後の不況。「会社が大変な時にこそ、大事なことに気づけた」と語る大西氏。その言葉の根底には同友会の自主・民主・連帯の精神があります。

経営の危機~酒から冷凍マグロへの挑戦

社屋

 ヒロボシの設立は1972年、経営理念「食を通じて地域とのコミュニケーション」を掲げ、業務用食品・全酒類の販売、物流サービス、外食事業を展開しています。同社の前身は創業100年続いた酒造会社。中小企業の近代化政策を受け、先代である父親が酒造業を廃業し冷蔵倉庫業に転業。サッポロビールとの共同出資でつくった酒の販社がヒロボシです。大西氏29歳のとき、専務として経営を担うことになります。

 当時のビール市場はキリン8割、残り2割をアサヒとサッポロで分けあう状態。最後発の販社だった同社が、他社と同じことをしていては先が見えています。そこでスーパーへの冷凍食品の卸を始めますが、商品は他社と同じで、競うは価格だけ。自社の独自性を模索する中、捕鯨禁止で鯨に代わる冷凍マグロの市場に参入した日本水産から声がかかり、取り扱いが難しい冷凍マグロに挑戦することになります。

 1983年に広島市内の商工センター(流通団地)に本社社屋を移転。資本金の小さな会社の大きな決断でした。同時期にサッポロビールとの資本・特約関係を解消。債務超過で経営の危機を迎えます。時は80年代の高度経済成長期。経営資源を酒から冷凍マグロに集中させ、波に乗る外食産業・寿司屋との取引に成功したことで、冷凍マグロが大きな柱となり業績は一気に好転。第一の荒波を乗り越えます。

最大の経営危機~自主・民主・連帯の精神を経営に生かす

 顧客は酒屋・スーパーから外食産業へ、取扱商品は酒・冷凍食品から冷凍水産物マグロへ時代とともに変わりました。変化に対応できる新しい人材を採用・育成するため、求人媒体に数百万かけて採用を始めますがうまくいかない。そんなとき、共同求人の誘いを受け、1988年に広島同友会へ入会します。1992年から地区会長、94年から広島支部長、1996年からの10年間は代表理事を歴任。地区会長時代に社長に就任します。広島支部長時代は急激な会勢の増加で薄まった同友会理念を学び直そうと勉強会が開催されました。「労使見解」「自主・民主・連帯」の言葉に、「民主」は理解しにくいというのが大西氏の率直な感想でした。

 1994年以降に待ち受けていたのは第二の荒波でした。アジア競技大会が終わり、押し止められていた不況の波が広島に押し寄せました。毎年7~8%売上が減少していきます。流通団地内でも多くの中小企業が大手に身売りするか、倒産に追い込まれました。

 「この研修、社長の押し付けだと思います」。1996年の夏、全社員が集まった一日研修の終わりに、優秀な女性社員さんから投げかけられた言葉。会社の存続をかけ、社員のレベルを上げなければとの思いで行った研修だっただけにショックが大きかったと大西氏は振り返ります。

 社長が一方的に進める研修は、自分の価値観を社員に押し付けていただけではないかと気づかされた出来事でした。「一人ひとりの違いを認め尊重する」「経営者と社員は人間として対等な存在である」、「民主」の精神が理解できたことで、合意と納得を大事にする「社風」がつくられていきます。

21世紀型中小企業づくり~コアコンピタンスの追求

作業風景

 代表理事時代には、中同協総会で提唱された「21世紀型中小企業づくり」への取り組みを始めます。店舗拡大で勢いのあった居酒屋FCへ顧客をシフトさせました。新たな事業として納品先の居酒屋FCの運営にも挑戦します。入社7年目の営業社員が、自ら担当者に手を上げました。この1号店は1年かけて月商1,000万円に成長し、その後の店舗展開への道をつくりました。

 30周年を迎えた2002年には、居酒屋への納品件数は80店舗を超えました。しかし飲酒運転の罰則強化の影響で、客足は激減します。マイナス50度からプラス5度の冷蔵設備を持つ強みを生かし、本社に物流センターを整備、チルド配送をスタートします。コアコンピタンス*を追求した、この物流事業が、その後10年のヒロボシをけん引することになります。

*顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力

時代の先を読む経営

 10年前に柱となっていた仕事は縮小し、種をまいていた次の仕事が軌道にのる、その繰り返しで同社は経営を維持・発展させてきました。この種は経営理念に沿って本業周辺で構築しています。脱酒の事業として5年前からはコーヒー、今年から台湾茶のFC運営を展開しています。これは後継者である娘婿の野村氏が進める事業です。現在、本業である卸売業は縮小傾向にあり、売上は外食事業部門と逆転しています。本業をどう立て直すか今後の課題であるとともに、50期の事業承継に向けて事業のスリム化と組織改編の準備を進めています。

 「役員会という意欲あふれる経営者集団の中で学べたことが大きかった。同友会が優れている所は、時代の流れの3、4年先を見ていること。おかげで他社より先を歩めた。これからも先を示してほしい」と同友会への期待を込めて、大西氏は語ります。

会社概要

設 立:1972年
資本金:1,500万円
従業員数:345名(内パート285名)
事業内容:業務用食品・全酒類の販売、物流サービス、外食事業
所在地:広島市西区商工センター2-16-17
URL:http://www.hiroboshi.com/