【第14回】出会いをヒントに (株)北信帆布 代表取締役 福島 一明氏(長野)

福島一明社長

(株)北信帆布 代表取締役 福島 一明氏(長野)

社屋外観

 長野市でテントの製造販売・施工を行なっている(株)北信帆布(福島一明代表取締役、長野同友会会員)は、1909年の創業から110年、テント製造技術を培ってきました。創業のころは、長野県北部で作られていた内山紙を原料としたかっぱ、その後、人力車や馬車の幌、戦時中は灯火管制用の黒幕、戦後に入ってからは、店舗用日よけ、運動会で使われるテントなどへと、その時代ごとの社会情勢や需要に合わせて、取り扱い製品も変化していきました。現在では、『テント冷蔵庫』に代表される機能性テントを自社の強みにしています。

 現社長の福島一明氏は三代目にあたり、長野同友会には36歳の時に入会。当初は知り合いも少なく、会活動にもあまり積極的に参加していませんでした。1990年代には、バブル経済の崩壊や長野オリンピック後の景気後退、同友会の仲間の倒産などがありましたが、福島氏はそのころ青年部交流委員会を経て長野支部長を引き受けることになります。その中で多くの会員と知り合い、異業種の仲間と語り合う経験から、危機を乗り越えるヒントを見いだします。そして、各社のお困りごとから、テントの特長を生かした新製品を生み出し、今では、建設業、農業、流通業、製造業など、さまざまな業種や場面でテントの製品が活用されています。

経営指針書をもとにした社員との関係づくり

断熱材の囲い

 長野同友会では、1998年に「経営指針をつくる会」がスタートしました。福島氏もいち早く受講し、経営指針を作成。その後は、毎年1月、経営指針発表会を開催し、社員と共有しています。またメンター(助言者)としても、指針の成文化に悩む会員に寄り添ってきました。

 福島氏が経営指針を成文化する中で、特に自社の特長として挙げるのは、「会社は、社長でも株主でもなく、会社を構成している社員のものだ」ということです。社長も「社長という役割を負った社員」であると考えています。常々社員に話しているのは「今現在、自分はこういう方針でやっているけれど、次の代になったらその時の皆さんの考えでやってください」ということ。このような思いを伝えることで、社員は自分たちの会社だと思うことができると考えています。
また、その経営指針を基にして、社員とどう向きあうかが一番重要なポイントであると福島氏は考えています。社員の個性・自主性を大事にして、一人ひとりと徹底的に向きあうこと、個人個人の動きをよく見て、質問したり目をかける、そのようなコミュニケーションが大事であると確信しています。

 北信帆布では、社員がすべての工程(営業、設計、縫製、現場取りつけなど)を担当できるような体制を取っています。以前は社長が営業し、社員にすべて指示していました。それを社員一人ひとりが責任を持って、相談から集金まですべて一人でできるような体制を、時間をかけてつくってきました。福島氏はこれを「社員の高度化」「多能工」と表現しています。このようにして社員の責任の範囲が広くなると、仕事が面白くなり社員が定着するようになりました。また、社員がやる気になると、生産性が上がり業績も上がるようになりました。経営指針を実践すれば必ず業績が上がる、実践しているかどうかは数字に表れると福島氏は考えています。

「新事業をつくる会」での出会い

 福島氏は、長野支部長を退いたあと、異業種交流委員長を長く務めました。

 2010年に長野同友会事務局が信州大学工学部キャンパス内に移転したのを機に、異業種交流委員会主催「新事業をつくる会」が始まりました。「『新事業をつくる会』の研究室見学会で、各分野の先生方の最先端の研究の情報に触れることができたのは、産学交流のもとになった」と福島氏は語ります。会員同士の異業種の交流をさらに一歩進めて「学」から新しい情報やヒントを得られる場となっています。この取り組みについては、2014年の中同協第46回定時総会の分科会で、副委員長の北田耕一郎氏((有)コウ・キタダ 建築設計工房代表取締役)とともに報告しています。

これからの同友会に望むこと

 福島氏は、同友会の長い会歴の中で、多くの会員と出会いました。「さまざまな会社・会員のそれぞれのありかた、やりかたを知ることができるのが同友会のよさ、醍醐味である」と福島氏は語ります。また、例会で知りあい、グループ討論で、その人となり・考え方を知ることができる、これはほかの団体ではないことだと考えています。「全国的にも、会員同士でもっと知りあいつながりを深めていければ、各社それぞれによくなっていくはず」

 中小企業はこの日本の企業の中で実に99.7%を占めています。中小企業こそが日本の姿だという世の中になってほしい。また職人が評価される制度の施行や、「職人技」が社会的に認められる仕組みがあってほしいと福島氏は願っています。

会社概要

創 業:1909年
事業内容:テントの設計・製造・施工、帆布製品の製造・施工、トータルインテリアの設計・施工、イベント設備の企画・レンタル
従業員数:17名
所在地:長野市風間下河原2034-19
TEL:026-221-3500
URL:http://www.hanpu.jp/