【第18回】つまさきだってプラス5%をみる!(株)シンデン 代表取締役 八木 仁氏(栃木)

八木仁社長

(株)シンデン 代表取締役 八木 仁氏(栃木)

「企業家」とは

社屋の外観

 (株)シンデンの八木仁氏(栃木同友会会員)は、ときどきユニークなことを言う社長です。

 八木氏によると、「企業家」とは「少し高いところから、先と周りを見て、仕事を考え出し、広め、託していく存在で、時間とその広がりの中心にいる者」。「〇〇家」や「〇家」の読み方は「ケ」「カ」です。その表現される「家」には、まず「親族」「関係者」「一同」、そして「代々」が想像できます。さらに「芸術家」や「武道家」の場合には、歴史と広がりの中心として活動をしている者、託された者をイメージされるのではと言います。

 そして「企」には、「くわだてる」という意味のほか、「つまさきだつ」という意味もあります。「われわれはプラス5%高いところから物事を見なければならない」のだそうです。プラス5%は、八木社長がつまさきだつとそのぐらい視点が上がることから。ただ、中国の古い言い伝えによると「つまさきだって、ずっと立っていることはできない」ため、「ことあるごとに」とのことです。

 八木氏は、同友会に入会して、「企業家」として、「ことあるごとに視点をあげて」経営してきたと振り返ります。

会社の沿革と年齢構成表

社内の様子

 (株)シンデンは、1967年に父である先代が前の会社の仲間2人と設立した会社です。日本で生産が開始されてから10年ほどの、当時としては新素材の「軟質発泡ウレタンフォーム」(通称、スポンジ)を加工する会社でした。現在は幅を広げ、シンデンが「柔らか系樹脂」と独自に称しているスポンジ、フェルト、生地などの二次加工を行っています。

 八木氏は、37歳で社長に就任し、40歳で栃木同友会に入会しました。社長になり、いろいろとわかないことや問題が噴出し、どうしたらよいのだろうかと悶え始めた時期でしたので、栃木同友会の経営指針セミナーにすぐに参加しました。

 課題であった中期利益計画表、5年間の変動損益計算書を作り、その先が見たくなり、長期10年間の表にしました。自分も年を取りますが父も息子も取るため、表の下に3人の年齢をいれました。また、父である会長と社長の間、そして息子との間に社員がいることに気づき、社員も含めた年齢構成表を作っていきました。その後在職する人たちで65歳定年の表を作ったとき、40年たつと皆退職し、「だれもいなくなる」ことに気づきました。(今は段階的に定年が伸びていくことを想定して、75歳の定年の表になっています)

 八木氏が社長になる前、シンデンは非常に活気のある会社でした。「それが就任後、急停止する車のシートベルトに引っ張られているようだと感じました。社長より10歳上の団塊の社員が多く、その人たちが中心的に活躍していました。そして皆さん年を取っていったので、昔の活力が落ちてきたのだと考えました。同社にもバブルの時のような人口ボーナスが存在していたのだと理解しました」と八木氏は言います。

 技能をもった団塊世代がこぞって退職する前に、少しずつ社員を入れて、教育していかなければと、その後は新卒採用に力をいれていきました。一時期労働分配率が上がり、苦しい時期がありました。今より人手不足感がない、新卒者が集まりやすい時期だったので乗り切れたと八木氏は顧みます。

 同友会に入会間もないころ、ある交流会の報告で、10年後の組織図を社員から提案されたという話を聞いて、「うらやましい」「全国にそんな会社があるのか、同友会はすごい」と思ったと八木氏は言います。
定年での退職が当たり前になってくると、特に管理職や特殊な技能的な仕事をやってきた人は、自分の後を引き継いでくれる者はだれかということを意識してくれるようになりました。

 60歳で定年退職する工場長のときは、八木氏も次の工場長はどうしようと考えていました。その工場長は退職の数年前より、休憩時間に皆の中に入り、自分の後継選びをして、辞める時に36歳の社員を指名してきました。社長が決断した時には、すでに社内の合意と継承はできていたそうです。

「働ける年代」はない

イヤフォンカバーも

 八木氏は、「入社から35歳までは自分の余暇のため、45歳までは子どものため、55歳までは親のため、それ以上は自分の体が動かなくなり有給をとる。皆が有給休暇をとるのは当たり前のことだから、売価も有給分の20日間を差し引いた11カ月分で、年間の粗利を稼げるような単価を設定し営業をしなければならない」とよく言います。

 育児は意識していましたが、親の介護をさらに意識し始めたのは、2014年の熊本の女性経営者全国交流会での「介護離職」を扱った分科会に参加してから。「介護離職」の話はまだ世間で話題になってない時期でした。その時期シンデンでも介護のため休まざるをえない社員が目立ち始めました。現在、独身社員で親を病院に連れていくので休みたいという人や、未熟児で生まれた子どもの通院と親の通院が日替わりという人もいます。それに対して皆有給休暇をうまく利用します。有給休暇が取りやすいのは、次のステージを見せてくれる人の存在と、自分たちも経験してきた「お互いさま」と理解してくれる社員の年齢構成にもあるようです。「皆それぞれ大変だから、競いあうより助けあう」という社風も、そんなところから生まれているようです。

 同友会で少し先が見えたから思考と覚悟ができ、対応ができたとのことでした。

中小企業家同友会の先見性

 「中同協50年にあたり、改めてわれわれの団体名が『経営者』でなく、『企業家』である意味を考えると、『それぞれの企業をその地域で引っ張っていけ』という先人の強い思いを感じます。私たちは『企業家』という言葉を継承し、それを少しでも広めていくためには、各人が『つまさきだち』をするための“ふくらはぎ”を鍛えていかなければなりませんね」と八木氏は語ります。

会社概要

設 立:1967年
資本金:4,440万円
年 商:7億6,000万円
事業内容:発泡・強化プラスチック製品加工業
従業員数:42名
所在地:栃木県小山市東野田591
TEL:0285-27-7311
URL:http://www.7311.jp/