【第30回】社員が人間性を高めやりがいのある会社に 司法書士法人小屋松事務所 代表社員 小屋松 徹彦氏(熊本)

小屋松徹彦代表

司法書士法人小屋松事務所 代表社員 小屋松 徹彦氏(熊本)

 小屋松徹彦氏(代表社員、熊本同友会会員)は1980年12月に小屋松司法書士・行政書士事務所として開業し、1988年には、土地家屋調査士業務を追加し3資格の合同事務所として現在に至ります。
メイン業務である、不動産登記・商業法人登記業務から相続に関する生前対策・相続後対策に注力しています。現在では、年20~30回程度の相続セミナーや毎週土曜日の無料相談会も行い、普及活動を展開中です。

「労使見解」との出合い

 小屋松氏は、熊本同友会創立の翌年、1983年に入会しました。入会当時は、独立や起業して間もない仲間が多く、共通する経営課題で居酒屋談義が白熱し、帰るのは朝方ということもしばしばありました。それから得た教訓は、今でも自社経営の考え方につながっています。

 それと同じくらい自社経営につながっているのが、「労使見解」です。「いつ読み返しても新鮮に感じます。ここに書いてあることを自分の職場で実践できているのか? と日々自身に問いかけています。そして行き詰ると読み返すのも『労使見解』です。私の経営の根幹はここにあります」と小屋松氏。

 その根幹部分は中同協の書籍『人を生かす経営(「中小企業における労使関係の見解」所収)』の8頁にある「社員の自発性・創意性をいかにつくり出していくか」の所です。社員は大半の時間を職場で過ごします。そこで、彼らも成長しなければなりません。「それがなければ、なんのために職場にいるのか? 金を稼ぐためだけの場ではないと思います。みんなが人間性を高め、やりがいを見つける場所が職場です。そして社員が自発性を発揮できるようにするのが経営者としてのやりがいであり責任です。それを社員に示すのが経営指針書だと思います」と小屋松氏は言います。

経営指針書を作成するも

 1991年、同友会で経営指針成文化運動が広がる中、経営指針書を作成し始めましたが、7年後に中断します。その理由は、作成したものが社員を引き留めるための経営指針で、経営者としての覚悟がそこにはないと気づいたからです。当時、社内の雰囲気は悪く、辞めていく社員がいました。経営指針書には、社員が喜ぶようなカッコイイ文言を並べただけで、「労使見解」の言葉で表現すると「もの分かりのよい経営者」でした。

再度、経営指針書作成へ挑戦

 経営指針発表会の様子

 2005年に熊本同友会で政策委員長を務めたのを機に、中同協の役員研修会に参加しました。当時の田山謙堂顧問、赤石義博会長、鋤柄修幹事長の報告に経営者としての覚悟の弱さを痛感し、再度作成に取り組むことにしました。

 「今回は自分の打算なしに、まっさらな気持ちでつくろうと思いました。きちっとした物でなくてもいい。周りの目を気にして経営指針書をつくっても意味がないと感じ、自分のペースで自分の身の丈でつくっていこうと決心したのです。結果、稚拙ではありましたが、社員と一緒に考えた納得のいくものができました」と小屋松氏。

 新たに作成することで、小屋松氏自身が楽になりました。自分がすべてを背負うことはなくなりました。社員は、言われなくとも大概のことはやるようになり、自主的に動くようになりました。「以前は社員を信用していなかったのだと思います。信頼関係がつくれないといつまでたっても経営者はきつい。『ひとりで苦労しなくてもいい』と言われていると感じ、社員に任せればいいのだと思いました」と小屋松氏。

 3種類の異なった資格を持った人たちを「一つにまとめる」ために経営指針書の必要性を再確認しました。お陰で、今は自信を持って3つの資格が同社の強みだと言えるようになり、社員とも共有できつつあります。社員と一緒になって会社をつくっていく。「私個人の事務所ではなく、私もここで仕事をさせてもらってお金を得ている社員です。だからこそ、経営指針書が大切で、全社員と共有する必要があります」と小屋松氏は語ります。

経営指針書を社内に浸透するための取り組み

 まず一つ目は、理念を全社員の共通認識にすること、そして二つ目は、社員全員が主体的に経営に参画する仕組みづくりです。一つ目を実現するために、経営理念の文言を解説した文章を月初めに全社員で輪読することで、理念の理解・浸透を図っています。

 次に二つ目を実現するために、経営方針書の単年度計画の立案を、各部門・各委員会が自主的に会議を行い決定するような仕組みをとっています。現在では、この二つを軸にして全社員と経営指針書を共有しています。

今後の事務所について

 司法書士のメイン業務である登記業務は、全国的に20年間で3割減少しています。また、AIの発達により登記の手続きが簡素化されることも考えられます。そういったことも踏まえ、新たに(株)熊本相続遺言相談センターを設立し、本格的に相続業務に力を入れています。「相続業務と法律的業務をリンクさせることで、クライアントの要望に素早く対応できるのではないかと考えています。そして、『相続に関することなら小屋松事務所』といってもらえるように挑戦していきます」と小屋松氏は言います。
 社員の皆さんと

中同協設立50周年に寄せたメッセージ

 同友会に30年以上在籍していますが、同友会は「積極的に自社の課題を発信した者勝ち」です。

 会員は、自社の経験を、失敗事例を含めて教えてもらえます。そして、経営指針を成文化し愚直に実践することです。そうすれば、「よい経営者」に育ち、「よい会社」になるはずです。私自身、これまでに紆余曲折ありましたが、当事務所が今あるのも同友会での学びと実践のおかげであることは紛れもない事実です。

 小さい会社だからとか一人でやっているからだとか言わずに、経営課題があれば遠慮せずに同友会の門を叩いてみましょう。

会社概要

設 立:1980年
事業内容:不動産登記、会社法人登記、相続手続
従業員数:16名
所在地:熊本県熊本市中央区水前寺1-4-31
TEL:096‐372‐8500
FAX:096‐372‐8501
URL:https://www.hikosan.jp/