【第32回】同友会理念の実践で地域になくてはならない企業をめざす (株)東海化成 代表取締役 景山 昌治氏(岐阜)

景山昌治社長

(株)東海化成 代表取締役 景山 昌治氏(岐阜)

カラフルなポリポット(育苗鉢)

(株)東海化成(景山昌治代表取締役、岐阜同友会会員)は岐阜県の中心、清流長良川沿いの美濃市にあります。景山氏の祖父は謄写版原紙を作っていましたが、印刷技術が発達し謄写版原紙が世の中からなくなりだしたころ、先代社長である父親が「儲かるらしい」という親戚からの勧めで、1968年に機械1台からのスタートさせたのが、まったく異業種の農業・園芸用のプラスチック製資材であるポリポット(育苗鉢)の製造でした。

美濃市は古くから和紙の産地で、家内工業として紙漉き(かみすき)業を営む人たちが当時大勢いました。ところが、高度経済成長を期に機械紙が普及し業界が衰退。その紙漉きをやっていた働き者の人たちに成形機を貸して原料を供給し、できた製品は全部引取り工賃を払うというやり方で同社は生産能力を高めていきました。

一方、販売は業界初の取り組みとして、全国各地の種苗会社をまわり直接代理店をつくり独自の販売ルートを確立。このように生産と販売がうまくかみあい、安定した利益と需要が見込めるようになり、後発ながら創業期でも業界で注目される存在となりました。ところが、1990年代になると急激な円高で同業他社も海外生産を始めるようになり業界では価格破壊が起こり、さらに生産の主力の担い手である地元の人たちは高齢化、外部的にも内部的にも危機が訪れます。生産能力を確保する目的で1995年、中国の上海に工場を建設しました。

同友会との出合い

景山氏は岐阜同友会に1988年、29歳で入会しました。入会当初、さっそく広報委員会からお誘いがかかりました。しかし、会議に参加したところ、広報の話題は横に置き経営について語りあう光景に大いに驚きます。さらに、先輩経営者から「お前も自分の会社のことを語れ」と言われても、「当時は社長でもなく、家業の手伝いぐらいのつもりでしか会社に行ってなかったので、自社の経営を語るようなことはまったくできず、複雑な気持ちだったことを覚えている」と当時を振り返ります。

2002年より政策委員会にも所属したことで、「わが社は地域の特色を生かして発展してきたという歴史があるので、同友会でも地域を重点に置いた活動には興味があった。しかし、中小企業がどんなに地域貢献だと力んでもしょせんはしれたことしかできず、それはただの綺麗ごとにしかならないのではないか。地域の特色、資源を利用して会社を発展させ、雇用や納税などで地域に還元することこそ大切なのではないかと考えるようになった」と語ります。

経営指針を成文化する中で

社屋

1994年ごろ、景山氏はまだ社長ではなかったのですが、同友会のセミナーに参加して一度は経営指針を成文化しました。しかし、社員に発表まではとてもできず指針書はそのまま机の中へ。さらに、その後1995年から5年間ほどは、中国工場の社長として現地に赴任せねばならず休眠会員となってしまいました。

しかし、2010年に中国はGDPで日本を抜き、2012年日本の貿易収支が赤字になりだすと急激な円安。すでにそのころ東海化成の生産力は90%を中国工場に依存するまでになっていました。その中国で人手不足、人件費高騰がはげしくなり、それまでの自社の強みは急激に弱みとなり、大きな転換を迫られるにいたります。そんなころ中同協が発行している冊子、『中小企業における労使関係の見解(労使見解)』を読み返します。冒頭、経営者の責任という項目が記されており、“経営者である以上、いかに環境がきびしくとも、時代の変化に対応して、経営を維持発展させる責任があります”とあります。そしてそんな経営者として第一にやらなければならないのが“指針”の作成であることを改めて知り、大きな衝撃を受けます。そこで、次代の東海化成のあり方を社員に指し示す必要があるとの思いから、再度、経営指針成文化を決意します。

2013年に岐阜同友会が再開した経営指針成文化実践講座に参加し、そこで成文化された経営理念には、①美濃の地の自立型企業として変革をすすめ、継続・発展していく、強い会社、②お客様や地域に喜ばれる仕事を誠実にとりくみ、社員一人ひとりが高い使命感をもって行動する、働きがいのある会社、③深い信頼関係を土台とする、あたたかい会社、の三点を記しました。

しかし、経営指針をもとに経営を見直し危機を乗り越えようとする中、大事件が発生します。

営業本部長だった弟と方針のズレが明確になり始め、そんな時、社員の中から「(営業本部長のやり方が)このままでは、せっかく新卒で入ってきた若い社員も辞めてしまう。(営業の方は)私たちが頑張るから任せてほしい」と声が上がったことで方針を貫き通すことを決意します。営業本部長だった弟は、経営指針発表会の当日、退職することを社員全員の前で宣言しました。

“美濃”という地にいる意味

初めての経営指針を発表してから6年、東海化成は今、“生産力の中国依存からの脱却”をめざし、一昨年、地元美濃市内に新工場を建設しました。「経営理念の『食・花・緑あふれる、より豊かな社会』をめざして、日本国内向けの商品を扱い新たな商品の開発をしていく上で、中国の次につくるべき本当に強い生産力は、他のアジアの国ではなく日本ではないか、そして、東海化成は“美濃”ではないか」。地域と中小企業の密接な関係を重視する同友会理念から導いた結論です。

地域に根差せば、長期的な視点に立った社員の育成、会社づくりが可能になる。2008年から本格的に取り組みだした、戦力としての障がい者雇用も新しい環境でさらに推し進めています。また最近は、SDGsがめざす持続可能な社会にむけ、自社のプラスチック製品をそうした社会に対応したものに変えていく新商品づくりの探求を始めました。

中同協設立50周年に寄せたメッセージ

“地域のインフラ”としてわれわれ中小企業が元気になることが、社員と地域を元気にすることにつながります。経営者と社員が深い信頼関係で結ばれ、社員が高い志気のもと自主性や創造性を発揮する強い会社づくりで、地域になくてはならない存在を目指していく。同友会がめざす企業像を、われわれ中小企業の経営者が、高い志を持って取り組むこと、このことが、少子高齢化、地方が疲弊しつつある日本社会で、今、希望の光となっています。
代表理事として学んだ5年間は、同友会がめざす企業像、運動が、中小企業家として自分の人生を本当に輝かせるものであると、新たに確信を深める5年間でした。

会社概要

設 立:1974年
業 種:農業園芸用のプラスチック製資材 製造・販売
資本金:6,000万円
従業員数:47名(うち非正規2名)
所在地:岐阜県美濃市曽代66
TEL:0575-33-4112
FAX:0575-33-4489
URL:http://www.tokai-kasei.co.jp/