【第34回】創業の精神~ゆとりある生活の創造 (株)創裕 代表取締役社長 川北 哲氏(香川)

川北哲社長

(株)創裕 代表取締役社長 川北 哲氏(香川)

起業の決意

 創業者である川北哲氏((株)創裕代表取締役社長、香川同友会会員)は、専業農家の長男として1950年に誕生しました。高校を卒業後、地元の農協に就職し、電気専任職員として8年間勤務後、義兄とともに電気工事会社を設立し、18年間専務として勤務しました。1991年から全国屈指の規模と呼ばれた高松市太田土地区画整理事業が自宅周辺で始まりました。

 農家では将来食べていけないと感じていた川北氏は、全ての土地を宅地化し、旧自宅跡地の680坪の土地について、どのように有効活用するかを検討しました。賃貸で借りたいという話もあり、20年間の定期借地で貸せば、3億円を超える収入が見込めました。その時頭に浮かんだのが、当時中学2年の長女と中学1年の祐一郎氏でした。賃料収入で悠々と暮らす親の姿を子どもたちはどのように見るのだろうか、また彼らのお金に対する感覚が狂ってしまわないだろうかという不安がよぎり、家族にも相談しないまま、自ら土地を利用しての起業を決めました。

強靭な企業をめざして

 ぽかぽか温泉

 事業を始めるにあたり掲げた条件は、1.現金商売、2.企業組織として成り立つ事業、3.地域の人たちが喜ぶ商売でした。そんな時、知りあいから紹介された温浴施設のコンサルタントとともに、大阪の温浴施設を見学しカルチャーショックを受けました。昔ながらの銭湯をイメージしていた川北氏は、充実した設備とお客さんの多さ、回転のよさに驚かされ、掲げた三つの条件も満たせる、「これならいけるかも」と直感的に感じ、「高松ぽかぽか温泉」を開業しました。当初、予定では来館数1日900名でしたが、実際は1日1,000名の方が訪れました。

 高松店は1994年のオープンから順調な滑り出しを見せ、1年半後に丸亀店、その1年半後に高知店をオープンしました。しかし、4店舗目に取り組もうとした時に資金面で行き詰まり、オープンするまでに8年を要しました。シンジケートローンで乗り切ることができましたが、零細企業のみじめさも経験し、信用力や知名度など強靭な企業力の必要性を感じました。

勝算は7割、やってみる価値はある

 (株)創裕の事業の柱一つとして、民間事業・自治体の温泉・宿泊施設の再生事業があります。東かがわ市にある浴場にレストラン、宿泊施設、映画館まで備えた複合施設に対して指定管理者として運営を引き受けてもらえないかという依頼を受けました。現場を見てみると、直感的に無理だと感じました。しかし収支内容を分析すると改善の余地があり、勝算が7割ならやってみる価値はあると引き受けました。第三セクター時代にできていなかった仕入れ費、光熱費、施設管理費など、絞れるコストはとことん絞り、社員には、整理・整とん・清掃・接客マナーといった、民間企業では当たり前の環境整備の意識改革に取り組みました。すると結果的に初年度にいきなり赤字を脱却し、数百万円の利益を出すことができました。「赤字施設を1年で生き返らせた業者がいる」という評判が業界に広がり、赤字施設の再生の依頼がどんどん舞い込むようになり、再生事業が事業の大きな柱になりました。

経営理念「ゆとりある生活の創造」

 川北氏は1995年に香川同友会に入会し、98年には支部の役員を務めていました。経営理念の重要性は知っていましたが、その時はまだ策定していませんでした。そんな時の正月、はしご酒をし、ほろ酔い気分で右腕である古参役員を誘いました。その役員は店に来るなり「社員は年末年始の繁忙期で夜通し働いているのに、その行動は何だ」と川北氏を一喝し、そのまま帰ってしまいました。マスコミにも取り上げられ、どこかでいい気になっていた自分を指摘され、目が覚めました。そして翌日、役員の自宅を訪ねて土下座し、自分の姿勢を謝りました。

 この日を境に真剣に経営に向き合うようになりました。まずは、経営理念の成文化に取り組みました。当時、香川同友会には、「経営指針を創る会」はできておらず、先輩会員の経営指針書などを頼りに、社員とともに作成し、現在ではほとんど社員によって更新できるようになっています。また、入会2年目から現在まで役員を受け続けており、「役員を断るのは、『よい経営者になりたくない』と言っているのに等しく、企業経営と同友会運動は不離一体、どちらも手を抜くことはできない」と話します。

大転換期へ

旗艦店の外観パース

 2020年は、同社にとって大きな転換期になります。7月には、香川同友会事務局の近所に旗艦店となる高松ぽかぽか温泉(1号店はぽかぽかの湯伏石店として継続)がスケールも、内部設備も今までにない内容でオープンします。それとともに、4月1日をもって代表取締役会長に就任し、長男である祐一郎専務(同友会会員)が、代表取締役社長として事業承継が行われます。祐一郎氏は、大学卒業後、東京の飲食店を経営するベンチャー企業に就職しましたが、その後27歳の時に会社に呼び戻しました。その後、一社員として勤務していましたが、飲食店を経営する別会社を立ち上げ、そこで経営者としての苦楽を学び、創裕本体に戻りました。

 事業承継は、エレベーター式に決まったのではなく、幹部社員からの提案で立候補制にて行われました。立候補は祐一郎氏のみでしたが、このことにより、社員の意思と祐一郎氏の覚悟が全社に伝わりました。

 (株)創裕は創業以来、拡大を続けてきましたが、川北氏は「会社を拡大するためにやってきたのではなく、同友会で学び定期採用をしていくためには、常に仕事をつくっていかなければならない。その結果が現在の姿だ」と言います。

中同協設立50周年に寄せたメッセージ

 同友会に入会して、25年以上になりますが、この間、全国の会員の方々から学ばせていただきました。いかなる場面でも「三つの目的」に正面から取り組み、同友会運動と企業経営は不離一体ということを心がけてきたのが、今の会社の姿です。「よい会社」「よい経営者」は自らの力で成し遂げることができますが、「よい経営環境」は同友会という組織でなければできません。同友会のめざす企業づくり、同友会づくり、地域づくりをさらに前進して、全ての会員が誇りをもって、活躍されることを期待します。

会社概要

設 立:1993 年
資本金:4,200万円
事業内容:温浴施設、ホテル宿泊施設の運営及びコンサルティング業、民間企業・自治体の温泉・宿泊施設の再生事業、飲食事業、ボディケア事業、地下水開発事業、社会福祉事業(就労継続支援事業B型)
業員数:638名 ※2018年6月1日現在
所在地:香川県高松市朝日新町17-15
URL:http://www.souyu.co.jp/