【第44回】同友会は本音と本質を議論できる場所 (株)大槻シール印刷 代表取締役会長 大槻 裕樹氏(京都)

大槻裕樹会長

(株)大槻シール印刷 代表取締役会長 大槻 裕樹氏(京都)

シールイメージ

 (株)大槻シール印刷(大槻裕樹代表取締役会長、京都同友会会員)は、ULラベル、コンピュータ用ラベル、バーコードラベル、ナンバリングラベル、カッティング、シルクスクリーン印刷物などシール印刷・粘着加工製品をメインとする会社です。

 大槻氏は粘着紙メーカーからシール印刷会社に転職し、1981年に31歳で独立創業、印刷機1台だけの工場から出発します。収入が途絶えないように妻には会社勤めを続けてもらい、お盆2日と正月3日以外は休み無しで働きました。

 月商が1,000万円位のときに毎月300万円の売上の得意先が倒産し、1,000万円の負債を抱えるに至ります。その苦い経験を経て、新たな顧客開拓(取引先10社から300社強へ)と取引先が安心して任せられる企業づくり(高品質・短納期)、取引先との信頼関係の構築にまい進し、経営体質強化を図りました。そして、2020年6月現在21名(正社員16名、パート5名)の企業へと着実に進化していきました。

技術者育成への取り組み

 地元の業界団体(京都シール印刷工業協同組合)の理事長を昨年まで務め、技術者の育成など長年の活動が評価され、旭日双光章(中小企業振興)を受賞しました。昔は「飲み会」が中心の組合でしたが、大槻氏が理事として組合内の社員同士で会社訪問をし、技術交流を進めました。加えて技術者の育成のための技術コンテストの勉強会を推進、優れた職人技術は何が違うのかを職人同士が共有できる環境整備に取り組みます。結果としてシール印刷業界の職人のレベルアップを図ることにより、高い次元で取引先との信頼関係が保てる仕組みを創出しています。また、同友会の会合などで知り合った大学の先生に学生を対象にしたシール企画を持ち込み、次世代の若者がシールに興味を持ってもらえる取り組みも行っています。現在、組合ではこれまでの取り組みをさらに一歩進めるために組合独自のマイスター評価制度も提案しています。

生き方と経営理念を一致させる

 京都同友会には1986年に入会、当時を振り返り、(自分より)「すごい経営者がたくさんいる」と衝撃を受けました。「やはり自社の枠内だけの『お山の大将』ではだめ。自分の立ち位置が確認できる定点観測所でもある同友会にもっと参加しなければ」と感じました。

 当時の橋本嘉雄常任相談役(故人)からは「誠実に生きること」を、中沼壽代表理事(故人)からは「社員を大切にする思い」を学び、自社でも実践する努力を重ねてきました。

 2006年より始まった経営指針成文化のための第1期「人を生かす経営」実践道場にも参加します。実践道場では、これまでの自らの人生を整理することで自社の経営理念を確立しました。大槻氏は「やはり理念は自身の生き方と一致していないとだめ」と常々言います。

 また、大槻氏は「経営理念」を自社で実践するだけでなく、地域で実践しています。自社では障害のある社員、児童養護施設出身の社員などダイバーシティ経営を実践するとともに、地域で保護司を10年、美しい祇園祭をつくる会(宵山、宵々山でのクリーン活動)を10年続けています。そして、「自分に出来る最大限のことをするのが僕の生き方」と謙虚に語ります。

これからの同友会

 大槻氏は現在の同友会については、会歴30年以上の会員の参加が年々少なくなっている関係で「同友会の歴史が会員に正しく伝わっているのだろうか」若干危惧があり、「労使見解」の議論が表面的なものになっていないか、経営指針が「形」だけになっていないか なども含めて、「心」が伝えられる人が少なくなっているように感じています。

 「何のためにどのようにやるかなど肝心な部分をしっかりと議論する必要があり、本質的な部分が抜け落ちないようにしていくことが大切」と語ります。

 また、京都でもそうだが中同協でも何万名になればどのようなことができるかをもっと具体的に語っていくことが必要で、ビジョンを共有していくことが大切とも語ります。

 数ある経営者団体の中でも同友会は「本音(困っていること)と本質(何が問題か)が語れるし、議論できる会」であることが素晴らしい。「経営者が対等の立場で議論する場であり続けることが大切。また、自社の経営だけが良くなればよいレベルの活動ではなく、地域の企業全てが良くなっていくための同友会運動をさらに前進させていきましょう」と力強く語りました。

会社概要

創 業:1981年
資本金:1,000万円
年 商:1億8,000万円。
従業員数:21名(正社員16名、パート5名)
事業内容:ULラベル、コンピュータ用ラベル、バーコードラベル、ナンバリングラベル、カッティング、シルクスクリーン印刷物等
所在地:京都府京都市南区吉祥院東前田町36
TEL:075-691-7521
URL:http://www.otsuki-seal.co.jp/index.html