【第13回】障がい者福祉作業所との連携で、美容室のための「ゴムのないマスク」を (有)パルアンドペア 代表 金子 隆二氏(宮崎)

金子隆二代表

(有)パルアンドペア 代表 金子 隆二氏(宮崎)

 新型コロナウイルス感染症拡大をきっかけに、美容業界も衛生面の管理がこれまで以上に求められています。 2020年3月、宮崎県内で新型コロナウイルスの感染1号が発生したころ、(有)パルアンドペア(代表・金子 隆二氏、宮崎同友会会員)では、お客様から「(飛沫感染が心配なので)汚れてもいいからマスクを外したくない」「できるだけ会話をしたくない」「シャンプー、カラーなしでカットだけで早く終わらせてほしい」などの声が上がり始めました。

美容院用マスクを自社で製作

 お客様のマスクを汚したり濡らしたりしたくないと思う一方、カットなどをスムーズに行っていくためには、お客様が耳にかけるマスクのゴムが妨げになります。そこで不織布を使い、市販の両面テープで顔につけるゴムのないマスクを自社で作りました。お客様からは「マスクをしていても苦しくない」「スタッフの方と近くで話しても安心」「耳が痛くないので自宅でも使ってみたい」などと好評。その結果、3月、4月の客数は前年比で20%減の中、客単価はむしろ上がり、前年を上回る売上を確保することができました。

 4月上旬に行われた美容組合の理事会で報告し、商品化に向けて動き始めました。量産化にあたって一番苦労したのは不織布の裁断です。機械ではできないことがわかり、社員の家族などに手作業で内職として手伝ってもらいながら、1カ月に2,000枚程度作れるところまできました。平行してデザインの見直しや顔につけるテープの安全性確認、販売過程での衛生面の徹底、価格設定など、美容業では考えたことのないさまざまな課題に対処していきました。

 5月、美容組合の理事会で商品化したマスクを再度紹介したところ評判は上々。5,000枚の依頼がありました。連日、サロン業務を終えたあと社内総出で製作し、何とか納期には間に合わせましたが体力と時間面などで限界でした。

障がい者就労支援B型事業所と連携

福祉作業所でマスク作成

 宮崎同友会では宮崎県より障がい福祉事業所の工賃向上に関する事業を受託しています。新型コロナウイルスの影響で、福祉作業所でも仕事が減って困っている事業所が出ていました。マスク作成の取り組みを事務局で話をすると、相互支援の関係が作れるのではないかとの提案を受けました。その際、障がい者就労支援B型事業所の抱えている課題を聞き、工賃向上で障がい者の自立を支援てきる取り組みになることに、とても励まされました。

 説明会を開き、事業所の支援員に作り方を覚えてもらいました。事業所で製作したマスクは確認を行い、商品として不十分な場合は補習を実施。スムーズにマスク製作ができるようになるまでにだいたい1カ月程度かかります。

 いくらの工賃で仕事をお願いするか。その金額の決定には悩みました。当初考えた工賃は障がい者の自立支援という視点からは安いとの事務局からのアドバスもあり、仕入れコストの見直しや販売価格の値上げ等を行い、工賃を当初想定の2倍近くに上げることができました。それにより、「こんなに工賃を高くいただけるところはない」「すべての仕事を断ってマスク作りに集中したい」という声が数カ所の事業所から寄せられるようになりました。

 7月までは宮崎県内の美容室を中心に販売してきましたが、8月に入り九州各県から注文が入り始めました。8月末までの販売累計は約50,000枚。今では、13の障がい福祉事業所をはじめ、子育て中の若いお母さん(実はお客さん!)、やうつや引きこもりと言われる人など30名程の方が内職として関わり、月間約25,000枚の製作が可能になっています。

 夏には、顔につけるテープが湿度や手の汗などによりべたつくなどの劣化が生じてしまうという問題が起こりましたが、内職さんが話し合い、作業環境やできた商品の管理方法の見直しという解決策を考えてくれました。

 お客様の不安を解消し、サロンで快適な時間をすごせるようにと考えだした美容室のための『ゴムのないマスク』。同社では、来店客数は昨年より10%ほど減りましたが、逆に客単価は約20%アップ。「この経験を通じて、美容業はこうでなくてはいけないという固定観念が、自分の中からなくなったことが大きい」と、金子氏は言います。

会社概要

創 業:1900年
資本金:300万円
従業員数:10名(パート・アルバイト含む)
年 商:4000万円
事業内容:美容室
所在地:宮崎県延岡市愛宕町3丁目4588-1
TEL:0982-23-9559
URL:http://pal-pair.net/