【第33回】試練から得た教訓を糧に (株)南光 代表取締役社長 上田平 孝也氏(鹿児島)

上田平孝也社長

(株)南光 代表取締役社長 上田平 孝也氏(鹿児島)

工場の様子

 (株)南光(上田平孝也代表取締役社長、鹿児島同友会会員)は、1971年に先代の社長(現会長)が金属加工業として創業し、今年で創業50周年を迎えます。

 製造拠点として、鹿児島県内に5カ所、宮崎県に1カ所、計6カ所の工場を構える従業員数256名の金属製品製造業の会社です。

同友会との関わり

 上田平氏は(株)南光に入社した10年後の2000年5月に鹿児島同友会に入会し、その年の青年経営者全国交流会で報告者を務めました。「私にとっては貴重な経験でしたが、同友会で何も学んでいない状態にも関わらず、全国大会で報告をし、さぞかし稚拙な報告だったのではないかと思います」と当時のことを振り返る上田平氏。

 入会当初は、同友会活動にあまり積極的でなかったと言いながらも、上田平氏は鹿児島市の南部地域を管轄する鹿児島南ブロック長(当時)を2年、さらに求人・共育委員長を4年務め、同友会で得た学びや気づきは、その後、幾度の経営危機を乗り越えた後に、「共育・共育ち」という部分で社内の取り組みに生かされていきます。

 さらに、2017年に開催された第47回中小企業問題全国研究集会in鹿児島では実行委員長の重責を果たし、その後、副代表理事を6年経験した後、昨年から上塘裕二氏((株)パルコーポレーション代表取締役)とともに代表理事を務め、鹿児島同友会を牽引しています。

試練から得た教訓

現場の様子

 世界中が震撼したリーマンショックで会社の経営が危機に瀕したとき、上田平氏は社員に対し、「とにかく雇用は守る」という宣言をしました。以前から、同友会でいろいろな経営者から「雇用だけは守らなければならない」という話を聞かされており、その考えだけは深く頭の中に浸透していたからです。

 とはいえ、会社の業績が回復しない中、金融機関からは「人件費が高い、社員が多い」と言われ、役員報酬はもちろん、社員の給与・手当も削減しなければ、会社存亡の危機を乗り越えることはできませんでした。

 「社員やそのご家族に向けて、経営者として力不足で申し訳ないという気持ちを綴った手紙を給与明細に添えてお渡ししたこともあった。賞与も3年くらい支給することができず、給与に不満を持つ社員の中には退職される人もいて、私だけでなく、各工場の責任者も忸怩(じくじ)たる思いでした」と当時を振り返る上田平氏。

 リーマンショックという未曽有の危機を乗り越えた後は、各工場で、すべての社員に利益と給与の関係を理解してもらう努力をしており、そうした地道な努力の積み重ねで次第に経営者意識をもつ社員が現れるようになりました。現場の社員主導で、自分たちの問題点や戦略などを常に考えるような雰囲気に社内が変化していきます。

 「各部門責任者による全社員の個人面談も実施し、その結果をすべて把握することで、全社員の声をタイムリーに把握するよう努めている」と語る上田平氏。

 また、次代を担う中堅社員を集め、経営革新委員会を起ち上げ、社内改革を行う取り組みを4年前から始めています。基本理念「幸福創造業」をめざして、2028ビジョン「ワンストップサービス製造業 九州ナンバー1になる」を掲げ、さまざまな改革を推し進めています。

 上田平氏は、こうした自社の取り組みについて、客観的に外部評価を受けたいと思い、昨年、鹿児島県経営品質賞に挑戦。見事に、令和2年度の鹿児島県経営品質賞優秀賞を受賞しました。

新たな挑戦

アクリルパーテーション

 2020年、世界中がコロナ禍に見舞われた一年となりました。

 そのような中、上田平氏はコロナで困っている人のために何かお役に立てないかと、同じ鹿児島同友会の会員でもある、(株)ブンカ巧芸社の峯元氏と一緒に飛沫防止のアクリルパーテーションを製造、販売することにしました。

 南光のステンレス製フレームと、ブンカ巧芸社のアクリルパネル。両者の得意分野を掛け合わせて完成した商品は、今では幅広い業種で活用されています。

 こうした危機は、定期的にやってくるものであり、今後も身に降りかかってくることが考えられます。

 今回のコロナ禍を機に、上田平氏が10数年前に経験したリーマンショックのことを社員とともに振り返ると、「仕事があることのありがたさを痛感した」「働いてくれる社員、協力会社への感謝の気持ちを再認識した」などの声が聞かれた一方で、年月の経過とともに、当時の記憶が薄れつつある社員がいることや、過去の会社の窮状や社員の苦しみを知らない若い世代の社員が増えつつあることに危機感を抱いたと言います。

 「経営者が危機に直面したとき、どのように判断し対処していけば、大切な会社と社員、その家族、ひいてはわれわれの地域を守っていくことができるのか。そのヒントは、過去の記憶や経験、同友会で得た学びの中にあり、危機に対応する術は何かを、常日頃から考えておく必要があるのではないでしょうか」と上田平氏は話しています。

会社概要

設 立:1971年
資本金:10,000万円
事業内容:建築金物設計・製作、半導体・液晶関連装置の製作
従業員数:256名
所在地:鹿児島県鹿児島市七ツ島2丁目1番地
TEL:099-263-0888
URL:http://nanko.co.jp/