【第36回】社員の夢をかなえられる会社に  (株)ひだや 代表取締役 緋田 幸生氏(岡山)

緋田幸生代表取締役社長

(株)ひだや 代表取締役 緋田 幸生 氏(岡山)

焼肉ひだや

 岡山市内で「焼肉ひだや」を4店舗経営する緋田幸生氏(岡山同友会会員)。同店は素材にこだわった本格的な味と工夫を凝らしたメニューが話題を呼び、グルメレビューサイトでも常に上位にランキングするなど県内でも屈指の人気焼肉店です。2014年の創業以来、約2年ごとに新店舗を出店し、順調に事業を拡大してきました。

 順風満帆と思われた業績に翳りが出始めたのは2020年4月上旬のことでした。

コロナ禍の中で

テイクアウトの数々

 新型コロナウイルスに係る全国初の緊急事態宣言発出と前後して県内でも患者が増え始めると、予約キャンセルの連絡が殺到。緋田氏は感染拡大防止とスタッフの安全確保のため2店舗の休業を余儀なくされ、4月の売上は前年対比43%にまで落ち込みました。当時の心境を緋田氏は「新店舗出店を考えていた矢先に降りかかった突然の事態に茫然とし、いつまで続くか分からない先行きの不透明感に大きな不安を覚えた」と振り返ります。

 そんな中、緋田氏の心の支えとなったのは前年に完成したばかりの経営指針書でした。思わぬ事態によって頓挫した計画を立て直すために週1回のペースで社内会議を開き、事業継続のために必要な対策と今後の方策について議論を重ね、「今できること」として生肉と弁当のテイクアウト販売と配達を始めることを決めました。経営理念に掲げた「人がつながる食を創り日本を笑顔にする」を具現化するため、テイクアウトメニューの箸袋などには「素敵な一日に」「笑顔の素になりますように」といった社員の手書きのメッセージが添えられました。

コロナ禍で気づく自社の財産

SNSでの発信

 SNSなどを使った情報戦略も功を奏しました。緋田氏は顧客管理ソフトの販売営業の経験があり、得意先との日常的なコミュニケーションの重要性を以前から肌で感じていました。ひだやを創業してからも早々にLINEの公式アカウントを作り、インスタグラムなども使いながら情報発信に努めてきました。コロナが拡大し始めると、新しいテイクアウトメニューの紹介や具体的な感染防止対策の詳細を積極的に発信し、配信頻度も増やして顧客の流出を食い止めることに注力しました。その結果、ゴールデンウィーク期間中は全店休業してテイクアウトだけに専念していたにも関わらず、常連客を中心に注文が相次ぎ、平時の3店舗分に相当する売上を確保することができました。その時の経験でスタッフも顧客情報の重要性を再認識し、今ではLINE公式アカウントの友だち(登録者)数は1万を超えています。

新しいセントラルキッチンとテイクアウト専門店で増収に

テイクアウト専門店

 テイクアウトに活路を見出したものの、店舗スタッフの負担は決して小さくはありませんでした。そこで、手狭になっていたセントラルキッチンを移転拡大し、その中にテイクアウト専門店を併設して9月にオープンしました。新しいセントラルキッチンは、各店舗が提供する食肉の下処理のほか、販売用生肉の加工や弁当の調理なども一か所でまとめて行うことができるため、業務の効率が大幅に改善しました。緋田氏は「実店舗の売上は今でも完全に元通りにまで戻っていないが、テイクアウト専門店を含めた全体では増収になり、黒字化の見込みができた」と語ります。

社員の夢をかなえられる会社に

 緋田氏が危機を乗り越えることができた背景には、創業以来二人三脚で会社の屋台骨を支えてきた幹部の急死と、社員に対する思いがあると言います。

 「彼が原因不明の病気で急死した時は心身ともに落ち込みましたが、それが働く環境づくりを考えるきっかけになった。以来、社員の幸せを願って長時間労働の是正や有休消化に取り組み、社員もはりきって仕事に取り組んでくれるようになりました。それが今回の成果にもつながっていると思います」
最近、社員から『夢はハワイ旅行』と聞かされました。緋田氏は「今はまだ長期休暇が取得できる環境にはないけれど、近い将来には社員を海外旅行にも送り出せるようにしたい」「ほかにも県外出店や生産者の顔が見える自社農園の運営など、まだまだやることはいくらでもある」と語っています。

社員とともに

会社概要

設 立:2014年
資本金:100万円
年 商:2.5億円
事業内容:焼肉店(4店舗)の運営、肉の加工業務・精肉の販売
従業員数:12名(パート、アルバイト35名)
所在地:岡山県岡山市北区大供1丁目2-1
TEL:086-232-4129 
URL:http://www.yakiniku-hidaya.jp/