【第38回】花育活動を通じて地域のことを誇りに (有)猿子園芸 代表取締役 猿子 祐太氏(岩手)

猿子祐太社長

(有)猿子園芸 代表取締役 猿子 祐太氏(岩手)

 ユリの生産販売をする(有)猿子園芸(猿子祐太代表取締役、岩手同友会会員)では、これまで球根のほとんどを、オランダから直接輸入してきました。いつも価格の変動や輸送トラブルで球根の品質が安定せず、想定外の事態に振り回されることが多く、かねてよりなんとかしたいと思ってきました。そんな折、猿子氏は岩手同友会のエネルギーシフト欧州視察に参加する中で、自分たちの地域を俯瞰(ふかん)して見たとき、地域内で球根を生産し循環させられれば、輸入のさまざまな障害や歩留まりもなくなるし、何よりも付加価値を高められると考えました。

 猿子氏は話します。「扱っている花や野菜の価値を高めることが農業の価値も高めることになるのに、自分たち自身でその価値を下げていたことに気づき、球根を地域で生産する取り組みに挑戦しました」

子どもたちへの花育活動

ユリの花

 また地域循環の取り組みとして、会社のある雫石町の若手の花卉(かき)農家7名に呼びかけ、子どもたちへの花育活動も始めました。農家の子どもたちは、食物がどんな風に育っていくのかを日頃から見ながら成長していますが、ほとんどの子どもたちはそうした経験をせずに過ごしています。

 そこで地元の保育園に出向き、子どもたちに花や野菜を植えてもらい、一緒に育てる「花育活動」を始めました。しかし女の子は花を見ながら楽しそうに土に触れてきますが、ほとんどの男の子たちは、花に興味を持ちません。男の子には「食べることなら」と、野菜がどんな風に成長していくか観察することも同時にスタートしました。

 今では雫石町の保育園では、農協や自治体の皆さんにも全面協力いただき、卒園式を自分たちが育てた花と地域の農家が育てた花で、自分たちで飾り付けをし、家族や来賓の皆さんを自分たちが迎える、素敵な取り組みも実現することができました。

エネルギーシフト(ヴェンデ)の取り組みの実現に

 「子どもたちに地域のことを誇りに思ってほしい」との若手農業者の気持ちが世界的なパンデミックのなかで地域と結びつき花育活動につながりました。

 猿子氏は「世界的な視野から地域を考えていたからこそ、こうした危機にも焦らずに取り組めました。こうした試みは、何よりも地域で使うものは地域で生み出すという“地消地産”、域内循環というエネルギーシフト(ヴェンデ)の取り組みの実現でもあると思っています」と話します。

 自分たちが地域の農家と育てた花で、自分たちの卒園式を実現する。子どもたちが感じた愛情は、必ず将来、地域を担う原動力になることでしょう。

会社概要

設立年:1983年
資本金:500万円
従業員数:8名
年 商:8,000万円
事業内容:花(ユリなど)の生産と販売
所在地:岩手県岩手郡雫石町長山野中谷地22
TEL:019-693-4191
URL:https://saruko.jp/