【第41回】必要とされている仕事・飲食業の誇りをもって(有)日野 代表取締役社長 日野 亨氏(秋田)

日野亨社長

(有)日野 代表取締役社長 日野 亨氏(秋田)

秋田を代表する外食企業をめざして

 (有)日野(日野亨代表取締役社長、秋田同友会会員)の創業は、1955年(昭和30年)。当初は肉の卸・小売りと食肉処理を業として秋田県横手市増田(旧増田町)で創業した企業です。創業者の子で、二代目となる日野氏が32歳の時、1994年(平成6年)に法人化し焼肉店の営業を開始しました。その後、焼肉店や居酒屋など飲食業の店を次々と出店し「秋田を代表する外食企業」をめざしてきました。

 そして、さまざまな困難にぶつかりながらも黒字経営を続け、2019年(令和1年)には、「秋田牛玄亭」をはじめとする焼肉店・居酒屋など11店舗の規模に成長し、年商は10億3,000万円、社員数は210名(正社員70名、パート・アルバイト140名)になっていました。

需要が蒸発、全店舗休業へ
~雇用を守るために2億円以上を借りる~

 2020年の2月ころから新型コロナウイルスの感染拡大の報道が大きくなり、3月学校関係が休校。4月ついに緊急事態宣言が発出され、お客様からのご予約はすべて吹き飛び市場が蒸発、飲食業界は、いきなり営業が成り立たなくなりました。立ち行かない営業と感染予防のために現場から「一時休業すべきだ」との声があがりました。

 営業再開が何時になるのかもわからない中ではありましたが、4月中旬から、(弁当専門店(1店舗)を除いた飲食店)全店舗10店の休業を決断せざるをえませんでした。弁当や通販事業などの売上はありますが、それまでの月商約8,500万円には遠く及ばず、2,000万円以下になると予想されたのでした。

 「ほぼ全店休業ですから赤字額は1カ月あたり3,000万円以上と想定されました」と日野氏。それは、例えば1億円が手元にあったとしても3カ月で消える金額です。「すぐに各金融機関に相談し、今は資金を持てるだけ持つと2億3,000万円を借りました。事業計画も返済計画もない借り入れでした」

大切なのは社員
~一人もやめてほしくないから~

 「この時ほど、雇用を守ることの難しさと厳しさ、そして、社員を守ることの大切さを味わったことはありませんでした」。売上が蒸発し多額の固定費だけが残るという現実に多くの飲食店が営業をあきらめ閉店・廃業する中で日野氏は、雇用調整助成金を活用しながら再開に向けて準備し、6月順次営業を再開していきました。「飲食業は、接客や厨房で働く社員一人ひとりがお店の顔であり魅力そのものです。その社員が離れてしまうことは、お店が魅力を失うことになり営業継続が難しくなることを意味します。幸いなことに、休業してもほぼ全員が辞めず力を合わせて営業再開に臨んでくれました」と日野氏は語ります。

学びの時間を最優先に、意識の共有をめざす

 6月から始まった2020年度の経営方針書は、あえてA4の紙1ページだけのものにしました。そして、それまでは全員が一堂に会して開いてきた方針発表会はコロナ禍で中止し、代わりに社長が4カ所に行って社員に説明しました。

 方針は、下記のようになりました。
・会社は第一に社員とその家族を守るためにあるので「必ず雇用を守る」。
・そのためにみんなで ①危機感を共有し ②強い当事者意識を持ち ③強固な仲間意識を持って この荒波を乗り超えていこう!
・今こそ「理念共同体企業となる」

 また、「社長塾」を毎月開講し、社員を5チームに分け、毎月5日間を費して学びの時間をつくっています。「時間と費用はかかるが、節約よりも意識の共有が大事。そのためにできることが最優先。何よりも会社が長期的に存続できるようになるためです」と日野氏。

 その結果、社員・幹部の中に確かな変化が生まれてきました。「特に、モチベーションは以前より格段に高くなった」と感じています。また、売上など経理の数値は全社員に公開しています。
「危機」を「機会」と捉え、常に前向きに行動してきた(有)日野はコロナ以前よりたくましくなったと言えます。

社員の皆さん

新業態への挑戦 と転換の決断
~店は地域とお客様の声に育てられる~

からあげと肉弁当の専門店・日野屋

 コロナ感染の収束後のことを想定すると「コロナ以前の形に戻るとは想定できない」ため、これまでは取り組んでこなかった新業態にも挑戦を始めています。それは、比較的単価が高かった「晴れの日 焼肉店」の業態から少人数需要が広がる「日常大衆焼肉食堂」への衣替え。また、持ち帰りとお届けの新しい業態として「からあげと肉弁当の専門店・日野屋」の初出店、さらに通信販売の新商品の開発やPRの強化、新しいケータリング商品の開発など、新しい業態への挑戦に次々と取り組み事業再構築補助金も申請し採択を受けました。

 「私たちの業界は、今、変わるかやめるかという選択を迫られていると感じています。事実、業態によっては閉店を決断した店舗もあり変化の真っただ中にあります。社員とは、変化を恐れず私たちの手でこのフードサービス業界をより価値ある尊いものにしていこうと熱く語り合う毎日が続いています」

営業再開 やはり必要とされていたと実感

 2020年の全店舗休業は4月中旬から~6月中旬の2カ月間で終え、営業を再開しました。みんなが安心して営業できるよう安全衛生・感染予防対策のガイドラインを設けましたが、営業再開については、お客様からお叱りをいただくのではないかという一抹の不安もありました。しかし、再開後は、しっかりとお客様にご来店いただくことができたのです。

 「コロナ禍の中でも来店してくださるお客様から教えていただいたことは、私たちのお店は、正に地域の方々に必要とされているということ、そしてなくてはならない業界であるということでした。そのことを改めて確信し、私たちの仕事に対する誇りを胸に刻ませていただいたのです」と日野氏。

1月以降、より厳しい現実の中で
~同友会に期待されていること~

 2期連続の赤字には絶対にしないと臨んだ28期2021年5月期決算は、なんとかみんなで凌ぐことができ営業黒字・経常黒字にすることができました。しかし12月~1月の第3波以降飲食店が感染拡大の要点とされ4月の第4波の緊急事態宣言中の2021年の4月と5月は需要が止まり単月で赤字となりました。

 日野氏は言います。「コロナ禍の厳しい現実を実感しています。このままでは、耐えに耐えてきた経営者があきらめてしまい、飲食業界は一度“焼野原”になってしまうのではないかという不安を強く感じています」。また、私自身は、飲食業界が理不尽な扱いを受け、犠牲(スケープゴート)にされているという感覚がぬぐえません。この感覚はさまざまな業界の、多くの中小企業経営者の方々にも共感していただけるのではないでしょうか。だからこそ同友会には会員経営者の心の支えとなれるよう、できれば現実的にも支えとなれるように努力することが求められていると強く感じています」

会社概要

創 業:1955年
設 立:1994年
資本金:1,000万円
年商:8億6,000万円 (2021年5月期)
事業内容:飲食業、食肉処理販売業、焼肉店・居酒屋・弁当専門店など10店舗を経営
従業員数:社員65名 (ほかにパート・アルバイト130名)
所在地:秋田県横手市増田町増田字上町127-3
TEL:0182-45-2317
URL: コーポレートサイト niku-hino.co.jp
秋田牛玄亭 akitagyugentei.com
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