【第13回】 お花で人と地域の縁むすび! (有)フローリスト・タナカ 代表取締役 田中天祥氏(山口)

(有)フローリスト・タナカ 代表取締役 田中天祥氏(山口)

ビジネスモデルを変える

 田中天祥氏(山口同友会会員)は、県内全域のスーパーや専門店に花を卸す(有)フローリスト・タナカと、スーパー内に花屋を出店する(有)フラワーチェーン・タナカを経営しています。花を市場から仕入れ、卸していく「仲卸」と「小売」で、いわば花を並べて買っていただく「待ちの商売」です。これが先代である父親が築き上げたビジネスモデルです。田中氏は腕利きの営業マンで、朝早く市場へ出向き、仕入れから店舗回り、そしてスーパーの担当者への営業などスーパーマンのように働くのが日常でした。
 3 年前に経営を引き継ぎ、新しい事業展開を始めます。それは個人や企業と契約し、毎月お花を配達する、言わば「攻めの業態」で、(有)フローリスト・タナカの未来を切り開く「花結び」というコンセプトのビジネスモデルです。
 これは同友会で受けた「経営指針成文化塾」の中で見つけた新事業です。

見つけたのは、自社の未来

 同友会に入る前、田中氏は自信満々で、社内ではまるで王様。社長である父親とぶつかることも度々ありました。社内の誰より営業成績を上げ、朝早くから夜遅くまで仕事する、それが当たり前であり、社員にもそれを求めていました。そのため、社員との軋轢(あつれき)も多かったそうです。
 いずれ自分が社長になることはわかっていながら、漠然とした不安しか感じていなかったのが、同友会で学ぶうちに、自分が経営についてほとんど何も知らないことに気がつきます。「経営は販売とはまるで違う。総合的な視野が求められる。自分は経営を知らない」そう気づいた田中氏は、同友会の先輩に勧められた経営指針成文化塾に入ります。
 「何のために経営をするのか?」という本質的な問いに思いをめぐらすうちに、たどり着いたのは父である先代の「創業者の想い」でした。「ああ、そうか。会社を興すとは大変なことなんだ」と、会社の歴史に思いを馳せることができたのが、一番良かったそうです。
 そうなると気持ちは、おのずと自分と会社の未来へと向かいます。指針塾に参加していた方々は、田中氏の変化を目の当たりにします。最初のころは「まあ、時期が来たら粛々と僕が社長になることになっています」と、淡々としたものでした。しかし、5 カ月が経過し単年度事業計画を立てるころには、「はやく社長になりたい、社長になってこれをやりたい!」という思いに変わっていました。たった半年でこんなにも変わるものか、と驚きを与えました。
 同友会型の経営を学ぶうちに、社員との接し方も変わります。以前のように自分のやり方を押し付けるのではなく、相手の考え方を肯定するようになりました。社員は社員なりに会社を愛していて、仕事も好きだし、会社を良くしたいと考えていることが、社員全員に対して行った個別面談を通してわかったからです。会社の雰囲気もどんどん変わっていきました。

「花結び」は人結び

 田中氏は社長になる前から、知り合いを通じてラウンジのフラワースタンドや生保会社に依頼され、お客様の誕生日の花束を頼まれていました。それがだんだん「代わりにお花を届けてくれ」となり、指針塾の会話で「サブスクリプション」という新しいビジネスモデルを知ることで、企業や個人客にもアピールできるかもしれないと考えたのです。仏壇に飾る花からお祝いまで、花を通して人の縁を結びたいと考え、お花の定期購入会員制度である新事業を「花結び」と名づけました。
 事業開始は、2019年5月。現在個人のお客様10世帯、契約企業約40社で、売上は年間約120万円になります。全体の売上からすればわずか0.17%でしかありませんが、徐々に新しいサービスとして認知されるようになると、社内に良い変化をもたらし始めています。社員は定期的に花を配ることで、なじみのお客様ができました。それまでは店に花を置いて回る作業だったのが、笑顔で感謝される経験をすると仕事に「意味」が付加されました。単に花を配る「作業」から、お客様に「笑顔を届ける仕事」へと意識が変化します。人と人のつながりが、自社商品へのこだわりも生み、サービスの質の向上など社内に大きな変化をもたらしました。
 「花結び」はまだまだ売上も少なく、これからという段階ですが、田中氏はこの事業の将来性に期待しています。今後は、花だけではなくお客様の、さまざまなお困りごとを提供する総合的な事業へ、発展させていきたいと考えています。

地域との縁を結ぶ

 田中氏は同友会を通して、地域の状況にも関心を持つようになりました。パートで働くシングルマザーの人たちに、もっとやさしい労働環境はないだろうかと、花結びの配達を短時間採用にするなど、人を生かす経営にも目が行き届くようになります。将来は地域の働くお母さんのために、託児所も経営したいと視野はどんどん広がっていきます。
 また、月に一度スーパーでお子さん連れの親子に、お花を一輪プレゼントする活動をしています。これは、子どもたちに、日常の中に「生命」を感じてほしいという思いです。「これって食育ならぬ、『花育」ですよね?」と楽しそうに話します。
 同友会に入っていなかったら?と聞くと、「そうですね。社長室で数字を眺めているだけで、きっとこんなことは考えなかったでしょうね」と笑いながらも充実した笑顔が印象的でした。

会社概要

設立:1991年
住所:〒747-0835 防府市西浦1378-1
電話番号:0835-29-1811
FAX:0835-29-1821
Webサイト:https://florist-tanaka.com/
E-mail:ryushi.avanti@gmail.com
従業員数:45 人
売上高:7億円
業務内容:県内スーパー約100 店と専門花屋に切り花卸(仲卸)