【第34回】自社のミッションが新規事業の原動力に! 日崎工業(株) 代表取締役 三瓶 修氏(神奈川)

日崎工業(株) 代表取締役 三瓶 修氏(神奈川)

板金加工会社が通販事業に

 コロナの感染拡大が始まった一昨年の初頭、いち早く新しい事業への挑戦を始めた企業があります。日崎工業(株)(三瓶修代表取締役、神奈川同友会会員)は、川崎臨港地区で看板を作っている1967年創業の板金加工の会社です。
 看板と言っても、公共性や意匠性が非常に高く、デパートや役所、空港、駅など、建物のデザインやコンセプトに合わせて作るオブジェのようなものが多いのだそうです。「うちの会社を知らなくても、納品したものは有名なものが多いことが特徴です」と三瓶氏は語ります。
 日崎工業がアウトドア・自動車系の新規事業を考え始めていたのはコロナ前。コロナが広がり、行動制限がかかったことから、取引先企業の業績悪化に伴い、日崎工業の売上も悪化します。
 そこで、温めていた新規事業として、看板を作った際に出る端材からキャンプ用の焚火台を作り、通信販売を始めました。何をすれば通信販売ができるのか、すべてが手探り状態だったとのことですが、少しずつ販売品目も広げ、売上も上がっていきました。
 しかし、同じことを考えた板金加工業者は多く、焚火台を作る競合は何百社もある状態に。「価格競争もあるので、絶えず新しいものを発案しなければならない」と、三瓶社長は続けます。

キッチンカーの製作へ

 売上が落ち込んできている一昨夏、機械設備の入れ替えという大きな転機を迎えます。レーザー加工機を入れ替えなければならないタイミングでやってきたコロナ禍。一度は発注したもののキャンセルという事態に陥ります。
 しかし、2020年5月、神奈川県中小企業・小規模企業感染症対策事業費補助金ビジネスモデル転換事業があることを知ります。このチラシの「デリバリーサービス利用やテイクアウト用窓口設置等、非対面ビジネスモデル構築」という文字を見て、キッチンカーの需要が見込めると、キッチンカー製作を行うことを思いついたそうです。
 調べてみると、キッチンカーはその多くが8ナンバーを必要とする改造車。せっかく作るのであれば、他が作っていないものを作りたいと、「普段は軽トラック、たまにキッチンカー」をコンセプトに、荷台に載せられるキッチンを作ることにしました。
 また、市販されているキッチンカーの中にはあまり良い作りではないと思えるものが何百万円で売られていることもありました。そこで、意匠性の高い金属加工で培った知識や技術を活かせば、もっと良いものが作れるとチャレンジすることにしたそうです。

試行錯誤の連続

 試行錯誤を重ねてできあがったキッチンカーですが、「いざ売るとなるとお客様の使い勝手がわからない。それで実際に自分たちでキッチンカーを使って販売をしてみようということになりました。あわてて食品衛生管理者資格を取ったり、保健所に申請したりと、始めるまでにやらなければならないこともいろいろわかってきました」と、営業担当の松田氏。
 「夏の暑い時期に焼きそばを販売してみたのですが、内装の工夫や扇風機の設置など改善しなければいけない点もわかりました。そこで、次はかき氷を売ることに。そしてもっと集客できる場所での販売を考えています」とのこと。
 しかし、ここにも大きな課題があることがわかりました。キッチンカーさえあれば、どこでも販売ができそうに思えますが、道路を使用することはできず、駐車場などの場所を借りなければなりません。
 「当社は、どういうキッチンカーを作るのか、一緒に考えてやっていきましょうというスタンスです。実際にお客様が販売を始めるまでに、何が必要なのかも提案できるよう、慣れない販売作業ですががんばっています」
 会社側もキッチンカーの販売に向けて古物商許可を取得したり、車の調達のためにオークション会社と提携するなど、今後の事業拡大に向けて準備を進めているところです。

ブランドの立ち上げへ

 もともと旅やアウトドアが大好きな三瓶氏。「趣味が高じて、キャンプの時に困らない太陽光発電ができるルーフボックスやトレーラーハウスを作ってみて、SNSで発信しています。そのSNSを見て、こんなものは作れないか?という問い合わせが入るようになりました」と、楽しそうに語ります。
 製造部門をとりまとめる齋藤氏もアウトドアが好きだそうで、「次はどんなものを作ろうかとワクワクします」。楽しく仕事ができることが相乗効果を生むのか、社員の横のつながりでも問い合わせが入るようになり、最初はキャンプ用品の通販のみだったBtoC事業は、キッチンカーを軸とした車両系ブランドとキャンプ・インテリア系ブランドを持つ事業へ発展してきています。

ピンチをチャンスに

 今回の新規事業のアイディアや原動力はどこからきたのでしょうか。日崎工業は「私たちはインフラにとらわれない自由なライフスタイルを創りだす企業です」をミッションに掲げています。
 「今回の事業は、自分がやりたかったことです。板金加工業とはまったく関係はありませんが、インフラに左右されずに生きていくことができれば、災害の時にも困らない生活を送れる。系統電源に縛られない生活がこれからの人たちのライフスタイルになるのではないかと考えたことがスタートです」と三瓶氏。
 「キャンプに行っても、電源が必要になることがある。その時に使う電気は発電所が作った電気をコンセントからもらう系統電源を使用しているんです。電気は便利ですから使うことは良い。けれど、自分が使う電力は自分で作れればもっと良い。地球環境のためにもなりますよね」。
 一昨年は、社屋の屋根にソーラーパネルを取り付け、レーザー加工機も省エネルギー型のものに入れ替え、積極的に脱炭素への道を進んでいます。令和2年度かながわ地球環境賞も受賞し、社長のやりたいことが会社のミッションへと変化してきました。
 売上はまだコロナ禍前の6割ほどで以前の売上には回復していませんが、「ありがたいことに社員のモチベーションはアップしています」と、松田氏、齋藤氏も新規事業に手ごたえを感じています。
 「コロナ禍がなければ、新規事業はアイディアを温めたままだったかもしれません」。ピンチをチャンスに、日崎工業のコロナ禍から始まった小さなDXは、新規事業として大きく成長し始めています。

会社概要

設立:1967年
資本金:2,070万円
社員数:21名
年商:3億円
事業内容:各種意匠金物、特注金属加工品、その他板金加工品
所在地:神奈川県川崎市川崎区大川町7-2
TEL:044-366-7711
URL:http://www.hizaki.jp