【第10回】「持続可能な企業と地域」をめざして (株)大匠建設 代表取締役 井上真一氏(福岡)

(株)大匠建設 代表取締役 井上真一氏(福岡)

 (株)大匠建設は、福岡県那珂川市を中心に設計・施工・製造・取り付け・管理まで一貫して社員で施工できる建築会社です。社名の大匠とは「大工の匠(すぐれた)技術者」という意味です。経営理念は『技を極め継承し共に豊かになる』『永続すべく会社環境を整備し未来を想像できる100年企業となる』というもので、選ばれる企業、人を育てる企業をめざしています。代表取締役の井上真一氏(福岡同友会会員)はこの経営理念のもと、人材育成と環境経営に取り組んでいます。

同友会に入会するまで

 井上氏は福岡工業高等学校を卒業後、1995年に(有)大匠建設を設立。2007年には社員13名、売上6.9億円までの企業に成長していました。しかしリーマンショックで売上が25%ダウンし、倒産の危機に陥ってしまいます。そのような状況の中で同友会と出合い、「会社を強くしたい、倒産しない会社をつくりたい」と2011年に入会しました。

経営指針の作成・環境経営の始まり

 同友会に入会した井上氏は、経営理念作成の勉強会に参加し、SWOT分析で自社の強みや弱みを把握しました。その結果、支出において唯一削減できるのが経費であり、特に社用車のガソリン代が経費の大部分を占めていることに気がつきました。そこで井上氏は自社の屋根に太陽光パネルを設置し、社用車をガソリン車から電気自動車へ入れ替え始めます。その後太陽光パネルと電気自動車を徐々に増やしていき、現在では2008年当時に比べ500万円ほどのコストカットを行うことができています。これ以降、井上氏は環境経営にシフトしていきました。

新しい取り組み「CLT工法」

 井上氏が現在推進しているのはCLT工法です。

 CLTとはCross Laminated Timber(直交集成板)という略称で、繊維が直交になるように板を重ね合わせ接着剤で接合し、1つにした材木になります。CLT工法とはこのCLTをボルトやピンで接合することで釘を使用せず、木の耐火性や断熱性をそのまま建物に活かすことができる建築工法です。

 井上氏はこのCLT工法を用いた3階建ての木造ビルを県内で初めて建て、現在も那珂川市を中心にCLT工法を使用した会社社屋の建築を進めています。井上氏がCLT工法を推進している理由は2つあります。

 1つ目はCLTの原材料として地元の間伐材を利用できるという点です。小さな板材を重ね合わせて作成するため間伐材を使用でき、山の保全や放置林の活用につながります。実際に井上氏は地元、那珂川市の間伐材を使用しています。

 2つ目はCLT工法で建築された建物が将来、資産・資源になるためです。CLT工法で建築した建物は、原材料が木材であるため建物を取り壊したあとまた建材として再利用したり、燃料として使うこともできます。そのため建物の大半は年数が経っても産業廃棄物にならず、資産・資源にすることができるのです。

新しい取り組み「SDGs×まちづくり×企業経営」

 現在、井上氏はポストコロナやその先の未来を見据え、地元の協力企業や行政と共に持続可能なまちづくりを進めています。まずその成果として令和4年に那珂川市では「ゼロカーボンシティ那珂川」を採択し、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする動きが始まりました。

 井上氏は今後行政との連携を強化していく中で、行政で使用する車の電気自動車化や太陽光発電を使用した地域電力会社の設立、新築される公共施設において地元の建材を使用する取り組みを始めています。

 那珂川市は市域の70%が森林であり日本の縮図であると井上氏は考えています。逆を言えば那珂川市で地域循環型社会を達成することは、日本全体の課題を解決し、持続可能な社会実現の糸口になります。新しい時代を切り拓くため、井上氏は日々先を見据えて挑戦し続けています。

会社概要

設立 1995年2月23日
資本金 3,000万円
従業員数 正規34名、パート1名
年商 14億円
住所 〒811-1255 那珂川市恵子1-47
電話 092-953-3063
URL https://dai-sho.net/