【第14回】迫られた変革~100年の歴史と新規事業への挑戦 越後繊維(株) 代表取締役 大嶋 哲 氏(新潟)

越後繊維(株) 代表取締役 大嶋 哲 氏(新潟)

移りゆく時代、取り残された業界

 新潟県上越市高田に1919年(大正8年)に繊維製品の卸問屋として創業した越後繊維(株)(大嶋哲代表取締役、新潟同友会会員)は、創業100年を迎えられるかどうかの佳境に立たされていました。地方の繊維の卸業が花形だったのは1970年代の“流通の中心にいた時代”。当時は高速道路もなく、商材は汽車の貨物として運び込まれます。そんな環境の中、地方の小売店が東京や大阪に商品を仕入れに行くということは現実的ではなく、流通経路のある近くの問屋から仕入れている構図ができていたそうです。時代が進むにつれ交通網がよくなり、量販店が増え始めた90年代には「自分たちの商売が主流ではないんだな」と感じざるを得ない状況になっていました。

 大手量販店が次々に地方進出し、インターネットをのぞけば注文から数日でほしいものが届き、何より安くて品質がいい。この業界に限った話ではありませんが、この時代の変化についていけなかった企業はどんどん減っていきました。

歴史ある事業から新規事業へ

 4代目の大嶋哲氏は「とにかく何かやらなきゃ会社が無くなってしまう」と変化を迫られました。自分一人が生きていければいいという話でなく、社員やその家族がいる。ここに残りたいという人が会社に居続けられるように新規事業を考えます。

 しかし、新規事業を行うにあたり、同友会の仲間たちからもいろいろな言葉をもらいました。「繊維業界でまだできることがあるんじゃないか?」と言われたこともありました。自分の中で必死に考え、「“繊維”と“問屋”どちらかで何かやりたい」と思っても、具体的なアイデアは生まれません。そんな時に同じ上越支部の会員企業の話から「市場規模の小さく、単価の高い商品」の取り扱いを考えました。

 経営指針のサポーターとして参加する中で、信頼する先輩に個人的な趣味でもあったロードバイクに着目したことを相談してみると、「やってみるしかないだろ」と言ってくれました。きっかけになった上越支部の仲間も背中を押してくれ、中国語を少し話せることから中国で開催される展示会へ参加します。そこで、欧州の世界的なロードバイクを生産している工場と提携することができ、「この工場の品質であれば、価格帯でも品質面でも勝負ができる!」と確信をもってオリジナルブランド「毘沙 BISYA」の販売に踏み切りました。

 ロードバイクは一般的な感覚でいうと非常に高額な乗り物で、エントリーグレードでも数十万円する商品です。毘沙はその中でも、高品質モデルでありつつ、低価格の販売を可能にしています。

新たな事業の柱へ

 2019年3月、当然認知度ゼロからのスタートとなり、営業には苦労しました。コロナ禍が少し落ち着いてきてからは直接全国のサイクルショップを訪問することで、商品のよさを直接知ってもらい、少しずつ取り扱ってもらえる店舗が増えていきました。基本的にライバルが大手メーカーということもあり、販売店・お客様に少しでも喜んでいただくために、細かく対応できる中小企業の強みもあったと思います。

 現在、毘沙は初期モデルの1号機、より安価でカラーリングも選べる2号機を販売し完売しました。情勢の関係もあり、ロックダウンや原材料・流通の事情から新製品の販売が遅れていますが、11月からは4モデルの販売を予定しています。

 徐々に軌道に乗りつつあるこの事業をしっかりと伸ばし、厳しい状況である繊維部門の中でも残り続けてくれている社員に応え、「ここに残ってよかった」と言ってもらえるよう、挑戦は続きます。

会社概要

創業 1919年
資本金 1000万円
従業員数 15名
住所 新潟県上越市本町7-2-6
電話 025-524-4103
事業内容 繊維製品を北信越地域の小売店のお客様に卸売り、寝具・婦人・作業着・インテリア・肌着・タオル。オリジナルロードバイクブランド「毘沙」の製造販売。
URL https://bisya.jp/