【第28回】地域のつながりから、共成社会の実現を 特定非営利活動法人ヒールアップハウス 代表理事 石﨑 美智 氏(埼玉)

特定非営利活動法人ヒールアップハウス
代表理事 石﨑 美智 氏(埼玉)

 特定非営利活動法人ヒールアップハウスは埼玉県川口市で「晴れ晴れ・にちにち・のびのび」という3カ所(就労継続支援B型事業所、地域活動支援センターⅢ型)の施設を運営しています。精神障害者小規模作業所を開所した先代から代表理事を引き継いでいるのが石﨑美智氏(埼玉同友会会員)です。

鬼軍曹の過去

 石﨑氏は医療業界を経て、初めて見る福祉の世界に驚き、この世界をどぎゃんかせんといかん!と鬼軍曹スパルタ石﨑で運営していたといいます。社員とのコミュニケーションはほぼ無し。あてにせず、自分が一番正しいと考え、ひたすら利用者数や収益を追うばかりでした。しかし、ストレスのため胃潰瘍で入院を繰り返し、ふと「何かが違う?何かが足りない?」と思い始めます。

 そんな時に同友会に誘われ、理由をつけては断っていたものの「地域のために一緒に切磋琢磨したい!」の言葉で2020年に入会。翌年の経営指針づくりセミナーを受講し、人を生かす経営の大切さを学び、一番の経営課題は完璧だと思っていた自分のやり方だということに気づきます。受講後は、体制を見直し、社員との時間を大事にすることで、社員はもちろん、障害のある利用者にも変化がみられ、売上もUPしました。

地域とつながる

 お菓子を製造している「晴れ晴れ」では、「自分たちが地元川口でお菓子を作る意味は何か?」と考えたときに、家族や地域の方々が住んでいる川口ってどんなところ?から発想を開始。鋳物のまちということで、鋳物で焼き型を作り、鋳物で作られているベーゴマを模したベーゴマ原寸大のクッキーを考案し、試行錯誤を重ねた結果、2016年に製造・販売を開始しました。これは障害のある方たちが「地域で暮らしたい」と願ったからこそ地域とつながることができ、誕生したお菓子です。

 ベーゴマクッキーを含め、ほかのお菓子もできるだけ小麦や米粉など埼玉県産の食材を使っています。農家からどういう想いで農産物を作っているのかを聞くことで、素材そのものを深く味わえるようなお菓子の開発にもつながっています。

 最近、ベーゴマクッキーがテレビで紹介され、「自分たちがおいしいと思っていたお菓子は、やっぱり評価されるものだった!」とお客様が喜んでくれたのがうれしかったと言います。そういう様子を知ることで、製造に関わるスタッフも以前にも増して前向きに取り組んでいます。

団地の一画に新社屋完成、そして未来へ

 2022年、「晴れ晴れ」は外国人と高齢者が多く住んでいる団地の敷地の一画に新社屋を移転しました。訪れるとほっとする空間です。この新社屋になってから、社員同士のコミュニケーションが増え、利用者は休まなくなり、菓子の製造生産性が向上したことで、働く環境の大切さを実感している石﨑氏。また、新社屋と同時期に完成したのが『共成社会の実現』の理念です。障害者も社員も共に挑戦し、成長しようと、「共に生きる」の先の「共に成し遂げる」という意味を込めました。理念の実践の一つとして、社員が受講する研修に障害者も参加する取り組みを始めました。

 「今後は新しい場所で、障害も国籍も年齢も関係なく、みんなで力を出し合って働けるように、『生きていっていいんだ、自分は社会で役に立っている、社会から認められている』と誰もが思える場をつくっていきたい。地域で『共に働く』ことについて模索してきた自分でなければできないことに、これからもチャレンジしたい」と力強く語ります。

会社概要

設立年 2006年
資本金 なし
従業員数 14名(正社員9名、パート5名)
年商 8,500万円
事業内容 障害福祉サービス事業
住所 〒333-0853 埼玉県川口市芝園町3-19
電話 048-269-8288
URL https://healuphouse.org/