【第29回】理念経営を通して夢の追求 山善商会(有) 代表取締役 土江 拓也氏(島根)

土江社長

山善商会(有) 代表取締役 土江 拓也氏(島根)

おつまみ

 山善商会(有)(土江拓也社長、島根同友会会員)は、土江氏の父親が1977年1月に創業し、1986年8月に法人化した会社です。海産・農産珍味を自社で再包装して自社企画製品として菓子問屋、酒販組合を中心に販売しながら、個包装による自社商品とOEM商品販売やインターネット通販を行っています。

起業から一転後継者に

 当初、土江氏は、会社を後継する意志はなく、東京の大学卒業後にそのまま大手広告代理店に入社しました。営業職として活躍した後起業に成功し、これからというときに突然父親が病に倒れたとの連絡がありました。母親からの度重なる懇願があり、悩んだ末、起業した会社を人に託し、島根に帰り会社を立て直す決心をしました。

会社の立て直しから成長へ

 1994年に同社へ入社し、会社の立て直しに取り組みます。病状が回復した父親と二人で取引先との関係回復に取り組むなど、がむしゃらに働いた結果、業績は上向き、当面の危機は乗り越えることはできました。このような中1995年には、現住所に社屋と工場を移転し、1997年には個包装機械を設備して個包装事業を立ち上げ、自社商品並びにOEM商品の販売を開始し、同時に小売店やスーパーなどへと販路を広げていきました。しかし一方で、規制緩和による酒類販売の自由化という環境変化が起こってきました。

 土江氏は将来への危機感を持ち、東京で経験したノルマ営業を導入しましたが、市場が大きく変化している中での営業スタイルであったためか、営業社員の入れ替わりが激しくなりました。また一方、工場では無理が重なり、大手の取引先に対して致命的なミスを犯すという大事件を引き起こしました。この結果に工場の社員は落ち込み、土江氏は自信とやる気をなくし危機に追い込まれました。

 そんな状況の中、新たに入社した社員には営業ノルマを与えずに営業担当させたところ、ノルマがなくても営業を自分の仕事としてしっかり働いてくれました。この営業社員の働き振りは、「ノルマがなくてもちゃんとやってくれる社員もいるんだ」と、ノルマ営業で育った土江氏にとって新鮮で大きな驚きでした。土江氏は「この社員に対する気づきを契機に、社員の幸せについて初めて本気で思い、あらためて低迷している業績回復を決意した」と言います。

おつまみ研究所のメンバー

 その一環として2006年、WEB上に「おつまみ研究所」を立ち上げ、インターネット通販事業に参入します。そこで購入したお客様からの「おつまみがおいしかった。送ってほしい」との直接の反応に、卸売業の経験しかない土江氏は「大変新鮮で感動した」と言います。このことから「どうしたら売れるかよりどうしたら喜んでもらえるか」が重要であることに気づき、「だれに」「何を」「どのように」提供することがお客様の喜びにつながるのか考えるようになりました。同時に土江氏は、今まで培った知識、経験だけでは、通用しないことに気づきました。

経営指針成文化

 土江氏は、2011年に代表取締役に就任し、経営の勉強をする先を考えていました。2012年に島根同友会への紹介を受け、そこで「経営指針成文化セミナー」があることを知り、入会後直ちにセミナーに参加し、成文化に取り組みます。「セミナーを通して、お客の喜びを実現するには経営理念を軸に社員と一体となり共感する体制が必要であり、このことが社員の幸せになるつながることに気づいた。社員とは信頼しあえる関係として、また会社はお客様の喜びを目指すひとつのチームとして意識するように変わってきた」と土江氏は言います。その後は社員に進捗状況を説明しながら、約半年をかけて経営指針を作り上げました。

理念経営を通して夢の追求

 「経営理念を社員に浸透させたい」という思いから、経営理念に解説文をつけて理解しやすくし、理念が社員の行動につながるように行動指針もつくるなどの配慮をした上で、毎日の朝礼で経営理念と行動指針の唱和を始めました。しかし朝礼での違和感のある雰囲気を感じとり、社内アンケートを実施しました。

 アンケートの中に「会社に臨むことは」という設問中にはいろんな意見がありました。例えば、
「理念や指針も大切だが、もっと働きやすい環境整備を優先してほしい」
「人員を増やして欲しい」
「社長にはもっと現場に入って、現場の人の様子をじっくり見てほしい」
「社長と専務の指示が違っていて現場が混乱するので命令系統をまとめてほしい」
「仕事の段取り、予定、商品情報などが場当たり的に伝わっているので混乱する」
などです。総括すると、コミュニケーションをとる仕組みが無いことが浮き彫りになりました。

朝礼での唱和

 アンケートの中には厳しい意見もありましたが、これらを謙虚に受け入れ社員と腹を割って向き合うようになりました。先ずは、個人面談を実施。今では給料の手渡し時に意見を聞くようにしています。面談があると思うと、社員は言いたいことを整理して臨むようになるので、短時間でも意見を聞ける場となります。

 そして朝礼では「コミュニケーションワーク」を導入しています。
具体的には下記の通りです。

1、ぐるぐる挨拶
 朝礼時に輪になって隣の人に大きな声と笑顔で「おはようございます」と言いながら握手をして回り、挨拶された人はそのあとに続いて同じように挨拶して回るワークです。これはとてもテンションが上がり、笑い声がたえません。朝の1発目、気持ちをそろえる効果はかなりあります。

2、1分間スピーチ
 どんな話題でもOKのスピーチです。担当は理念唱和当番が日替わりで行います。「導入理由は、社員の「人となり」を知りたかったから。今では楽しみな瞬間です」と土江氏。最初はみなさん抵抗感が強かったですが、今では喜怒哀楽悲喜こもごもの話題を話してくれ、社員の人間性把握に役立っています。

3、業務連絡
 入荷状況、本日の作業予定、その他業務に関する連絡事項の共有を行います。

4、「お客様の声」の発表
お客様から届くメール、はがきなどのレビュー、評価情報を共有します。「みなさんの仕事がこのような評価をいただいている」という生の声を発表し、やりがいと使命感を感じ取ってもらうようにしています。

5、経営理念と行動指針の唱和

6、朝の一斉清掃作業
 15分間、全員で社内、作業場、倉庫、会社の外回りなど、全員で行います。

 この朝礼の導入で、社内に笑顔と元気さが満ちて、協力体制ができました。そして、意見が活発に飛び交うようになりました。「逆に言いやすい雰囲気が出すぎて、少々困っています」と土江氏は笑顔で語ります。

 こうした取り組みを続けるうちに、社員が経営理念を意識するようになり、また行動にも少しずつ変化が見え始めました。社員が自ら考え、動くようになり、自主性が育ってきました。「自分の意識が変わり始めたことで、社員も変わってきたことを実感しました」と土江氏。目指すチームレベルまでにはまだ課題が多々ありますが、お客様からの声を全員で共有化する、お互い誕生日を祝い合うなど意思疎通が取れる機会を増やすことにより、少しずつですがチームがまとまってきていることが垣間見られるようになってきました。

 気持ちをそろえるための仕組みは試行錯誤の上出来上がりつつあります。次の課題は自立した社員の活動を促すしくみづくりです。「経営計画書を作成し内外に発表し、社員と会社の方向性と目標を共有したうえで、理念と行動指針に沿った企業活動を全社員がまい進していく様にしたい。そのための社長の仕事は『方針の策定、明確化、決定する』こと。また、社員の仕事は『社員教育によるスキルアップ』。押さえなければいけない事柄がまだまだ進んでいません。今は、経営計画書をまとめて流れを作りたいと考えています」と土江氏。

 また、新しく始めたインターネット通販事業も軌道に乗り始めてきました。「経営理念を全社員が心の拠り所とし一体となったチームのもとで、インターネット通販事業が大きな柱になり既存の事業と相まって相乗効果が出てくることを夢見ている」と、土江氏は熱く抱負を語ります。

経営理念

山善商会(おつまみ研究所)は、自社製品を通じて「喜び」を提供し、ホスピタリティ精神をもって、常に選ばれるため、最大限の努力をします。
そして、お客様・社員・製品(サービス)全てが、幸せな環境に在り続けるよう、その可能性を探求し続けます。

行動指針
1.お客様の「喜び」を常に意識して仕事に取り組みます。
2.おもてなしの心=期待値を超える、を実践します。
3.明るい挨拶と笑顔、感謝の気持ちを持って、お客様、取引業者様、仲間に接します。
4.互助の精神と思いやりの心を持って行動します。
5.常に改善意識を持ち、創意工夫をして無駄のない職場環境を目指します。
6.製品、施設、備品を大切にし、整理整頓と清掃で社内美化を心がけます。
7.山善商会(おつまみ研究所)で働き、自分自身のやりがいと幸せを追求し、自社のサービスで社会に貢献します。

会社概要

創 業:1977年
創 立:1986年
資本金:300万円
年 商:1億4,000万円(2011年度)
事業内容:海産・農産珍味・おつまみ、菓子、食品のリパック業務。
      個包装商品の製造・卸。インターネットを活用した販売。
従業員数:16名(内パート12名)
所在地:島根県松江市竹矢町51―1
TEL:0852-37-2266
FAX:0852-37-2267
URL:http://www.e-otsumami.jp
E-mail:yamazen@e-otsumami.jp