【第3回】人を集める前に、土を耕す―地域で人が育ち、働き続ける会社へ― (株)長浜機設 代表取締役 福岡 信一氏(愛媛)

(株)長浜機設 代表取締役 福岡 信一氏(愛媛)

 「社員を変えようとするのではない。自分が変わる」。愛媛県大洲市で足場架設工事や法面保護工事、発電所のメンテナンスなどを手掛ける(株)長浜機設代表取締役の福岡信一氏(愛媛同友会会員)が、数々の失敗の末にたどり着いた言葉です。

 同社の創業当初は、長時間労働やサービス残業が当たり前。資格取得も自己負担で、離職率は50%を超えていました。人が辞めれば、また採用する。その繰り返しの中で、福岡氏は求人広告や採用支援に累計1,000万円以上を投じました。しかし成果はほとんどありませんでした。

会社の風土を耕す

 転機となったのは、息子の「こんな会社で、みんな働きたいと思うん?」という一言でした。「原因は社員ではなく、自分にあった」と気づいた福岡氏は、全社員の前で涙を流して謝り、「会社を変える。自分を変える」と約束します。

 とはいえ、会社は一朝一夕には変わりません。新たな制度を導入すれば反発が起き、改革の途中では6人が一斉に退職。評価制度やDXも、社員との対話なしに進めて失敗しました。その経験から学んだのが、「種をまく前に、土を耕す」という考え方です。

 福岡氏の言う「土」とは、会社の「風土」です。信頼、対話、安心感がなければ、どんな制度や採用手法を入れてもうまくいかない。毎日10分間の環境整備や全社員会議、研修、年間行事などを何年も積み重ねることで、少しずつ会社の「当たり前」を変えてきました。

 採用も「お金をかけて人を獲る」発想から、「関係を育てる」発想へと変わりました。高校には求人票を郵送するだけでなく、自らアポイントを取って足を運ぶ。採用後も社員を母校へ連れて行き、成長した姿を伝える。さらに福岡氏は毎月、社員の実家へ手書きのハガキを送っています。大切な子どもを自社へと送り出してくれた家族の不安と期待に応え続けるためです。

 これまでに一度だけ多忙でハガキを送れなかった月には、親御さんから「今月はまだ?」と声が届きました。継続してきたことの意味を実感できる出来事でした。決して派手な取り組みではありませんが、福岡氏は「地味なことしか効かない」と言います。

 こうした積み重ねによって、かつて人が定着しなかった会社は、若者が集まり育つ会社へ変わり始めました。近年の新規入職者の定着率は9割を超え、国土交通省の建設人材育成優良企業表彰をはじめ、複数の公的な認定や表彰も受けています。

故郷の生存戦略として

 取り組みは社内だけにとどまりません。愛媛同友会のインタビューシップを活用するなど、社員が高校生と「働く意味」について語り合う機会も増えました。人に伝えることで社員自身も学び、成長し、「教室が現場になり、現場が教室になる」という関係が構築されています。採用活動が社員教育となり、さらに地域の若者へ仕事の魅力を伝える活動へと広がっているのです。

 福岡氏の故郷、大洲市旧長浜町では人口減少が進んでいます。「人を育てる経営は会社だけの話ではない。地域の生存戦略だ」と福岡氏は語ります。

 あの日、「こんな会社で、みんな働きたいと思うん?」と言った息子からは、「会社を継ぐとは言われていません。ただ『働きたい』と言ってくれました。それで十分です」と福岡氏。

 人手不足を乗り越える近道は、人を集めることだけではなく、人が育ち、働き続けたいと思える土壌をつくること。その確信に基づく実践の積み重ねが、長浜機設を育て、やがて地域の未来を支える力になっていきます。

(株)長浜機設
設 立 2013年
資本金 1,000万円
従業員数 30名
事業内容 足場架設工事、法面保護工事、プラントメンテナンスほか
住 所 愛媛県大洲市長浜甲581-1
電話番号 0893-52-0500
URL https://nagahamakisetsu.com/