【第32回】「自然を愉しむ」~事業領域と理念の見直しで不確実な時代を生き抜く~ 増田煉瓦(株) 代表取締役 増田晋一氏(群馬)

増田煉瓦(株) 代表取締役 増田 晋一氏(群馬)

 坂東太郎の異名を持つ利根川の上流域に位置する前橋市、その利根川沿いにれんがづくりの建屋が目を引く増田煉瓦(株)(増田晋一代表取締役、群馬同友会会員)はあります。今年創業108年目を迎える同社が、成形から焼成まで行ったれんがは旧群馬県庁舎(昭和庁舎、昭和3年建設。平成8年に国の有形文化財に登録)の建築資材としても使われています。

れんがづくりから窯づくりへ

 家電メーカーの技術者だった増田氏が同社に入社したのは1994年。すでに建築資材としてのれんが需要は減少し自社製造からは撤退、国内外からインテリア・エクステリア商材としてれんがを仕入れての施工が主な事業で、築炉技術を生かしたかまどづくりなどは数えるほどでした。しかし、技術者だった増田氏は満足できず、大手企業がやらないニッチな分野で付加価値が高く、経験や技術が生かせる仕事をしようと考えます。そんな時、タイミングよく受けた相談はピッツァ窯の製造でした。蓄積した技術と職人の経験から「できる」と確信した増田氏は、ピッツァ窯への本格参入を決意し開発を始めました。

ピッツァ窯が事業の柱へ

 2001年、同社の経営理念「可能性への挑戦」が成文化されると同時期に、開発を進めていたピッツァ窯の生産がスタートしました。れんがの蓄熱効果を生かした土と火(熱)のバランスが取れた窯は、店舗ごとのオーダーメイドで大量生産はできません。それでも着実に導入店舗は増え、新たな事業の柱として見事に立ち上がりました。さらに、海外製の窯の輸入販売も開始し、日本仕様にバーナーや電圧を調整、アフターフォローまで自社で行う体制を整え、ピッツァ窯のシェアを伸ばし続けます。また、石窯で焼くパン、薪火料理のグリル窯など取り扱う窯の種類が増えると同時に、発注した調理人の思いや食材への火入れに対する価値観にも触れることになり、増田氏のれんがや炎を操ることへの情熱は加速していきました。

経営理念の見直し

 理念を追求して、ピッツァ窯からパン窯、薪火調理窯と挑戦を続けた結果、「会社の成長とは何なのか」と自社の事業領域を見直しはじめた増田氏は、同時に自身が掲げた経営理念とも向き合います。東日本大震災による福島原発事故の際に電力容量を見直したことや、脱炭素社会へ向けた情勢など、外部環境の変化もきっかけとなり「自然を愉しむ」という理念にたどり着きました。

 れんが屋としての築炉技術や経験、各種窯づくりに共通する「土と火」、「薪」、調理される「食材」といった森や動植物の命を扱うパートナーと共創し、自然の生命サイクルの中にあるお互いの事業活動を尊重し高め合っています。

経営理念の先にあるもの

 れんがから始まった同社の事業領域は、薪火料理の教科書「料理人のための薪火料理AtoZ」に監修協力し出版するなど、電気が一般的に使用される以前の調理スタイルを再度広める活動にまで拡大しました。

 自然との共生に関心が高まる時代だからこそ、自然由来の事業展開をする同社と、想いを同じくし共創できるパートナーとその環(わ)を広げ、持続可能なエネルギー(熱源)を使用する薪火料理が、かまど文化のように日本の文化として定着する未来を見据えています。

参考動画
https://youtu.be/_c8EH7Fi6Y8

増田煉瓦(株)
創業 大正6年(1917年2月)
従業員数 11名
事業内容 煉化石窯の設計製造、窯周辺道具の販売、ピッツァ生地(冷凍)の販売 、ピッツァ&パン技術研修、レンガ・建材の販売および工事
住所 前橋市石倉町四丁目18-11
電話 027-251-5824
URL https://masudarenga.co.jp/