【第31回】あきらめない・もったいない精神で挑む (有)安岡重機 代表取締役 安岡 浩史氏(高知)

安岡社長

(有)安岡重機 代表取締役 安岡 浩史氏(高知)

 産業廃棄物処理、建設、運搬業などを手がける(有)安岡重機(安岡浩史社長、高知同友会会員)は、高知県東部の安芸市で、森林に残されていた杉やヒノキを収集してボイラーの燃料となる木質ペレットを製造しています。また、産業廃棄物として引き取った廃材を利用しての飲食店や簡易宿泊施設を建て、営業もしています。同社が十年以上にわたってリサイクルにこだわった経営に取り組む背景には、経営理念に掲げる「地域循環」の中で生きる、という安岡氏の強い思いがありました。

忍耐・継続することを覚えた奨学生時代

 安岡氏は高知の高校を卒業後、東京の学校に進学。新聞奨学生として働きながら土木系の学校を卒業しました。学生時代の暮らしはあまいものではなく、朝刊350部、夕刊200部、毎月の集金と拡張営業、そして学業。過酷な日常生活で、新聞を枕に家の玄関で倒れるように寝てしまいそのまま学校に登校する、という生活を経験するほどでした。そんな中で営業や集金訪問の日々を通じて、「時間をとって相手の話を聴いていくことによって、お互いをより理解し親しくなることができる」ということを経験したこともあり、東京多摩地区42店舗で営業成績トップとなることができました。周囲の仲間が脱落していく中、安岡氏はこのころに「忍耐・継続すること」を覚え、後に経営理念の一部となる「あきらめない」ことの大切さを知ることになりました。

「変わらない」地域の現状

 安岡氏が安岡重機に後継者として入社したのは、2000年のことでした。学校を出た安岡氏は「全国で、土木に関わるものづくりの仕事がしたい」との思いから、海洋土木(マリン コンストラクタ)の会社に就職しました。バブル期で建設ラッシュに沸く東京臨海副都心の開発に携わるなど、13年間のサラリーマン生活を経て、事業継承のため故郷の安芸に帰って来ます。そこにあったのは、良くも悪くも「変わらない」地域の現状でした。夜もこうこうと灯りがともる都会で働いてきた安岡氏にとって、夜の8時には街灯が消えてしまう田舎の様子は大きなギャップがありました。

 帰ってきた当時の同社は、経営者である父親のかじ取りのもと、リサイクル関連法案の制定という時代背景を追い風にコンクリート破砕機などに設備投資し、産業廃棄物処理に進出したさなかでした。安岡氏は、都会と地域のやり方の違いに戸惑いながらも、人のつながりをつくりながら仕事に取り組みました。

多角的経営に着手

スープカレー店

 始めてから数年は景気が良かった産廃処理業ですが、やがて景気の悪化に伴って建設の仕事が減り、それに比例して売上が減少していくご時世。そんな2008年の年初に、安岡氏は事業を継承しました。「苦しいからこそ、やってみよう」と、同年8月には、安岡氏の母親と奥様と検討した結果、事務所裏を改装し、新たな建物に木材をふんだんに利用、そして、庭園で自然を感じられる雰囲気づくりをコンセプトに「スープカレー」の店をオープンし、飲食創業に踏み切りました。

あきらめないで取り組む

ペレット加工製造施設

 また2009年には、木質バイオマスへの取り組みとして、ペレットの加工製造施設を導入。森林率88%という安芸地域の木材を使い、木質ペレットの製造に取り組み始めました。ところが実際に施設を導入してみると、機械は正常に動くものの、ラインの調整や質の良いペレットに仕上がりません。そこからは試行錯誤の連続でした。

木質ペレット

 木材は、木の種類、伐採した時期(季節)などによって、特性やコンディションが大きく異なります。そこで木材加工業者は「その木に合った」加工条件を研究し、少しずつ条件を変えて加工するのですが、同じことがペレットづくりにも言えることが分かりました。木の種類の違い、伐採した時期の違いによって、乾燥温度、時間から成形時の圧力まで、細かく調整する必要があるのです。最適な条件を探すための試行錯誤には膨大な量、時間がかかりました。社員から「もう無理ですよ」というあきらめの言葉も出る中、安岡氏は「とにかくやり続けよう」とあきらめずに取り組み続け、ついに最適な加工条件を探し出すことができるようになりました。

 その後も同社では、できうる範囲で廃材を利用し、「四季楽庵」という一日一組・予約限定の簡易宿泊施設を作って運営するなど、「地域循環」にこだわった事業展開を続けています。苦労して生産できるようになった高品質の木質ペレットも、取り組みから4年目の2013年、事業単体で黒字化できる目途がつきそうな状況となりました。

地域循環の中で生きていく

 木質ペレットに挑戦し続けていた2010年。安岡氏は高知同友会の「経営指針作成合宿」に参加し、今まで抱えてきた自社への思い、地域への思いを経営理念・基本方針として成文化することに挑戦しました。「このときにつくった理念は、自分としてまだ練り残した部分があるものでしたが、内容としてはある程度、思いを練り込んだものとなりました」と安岡氏。その後、安芸での支部の立ち上げを主導。新支部の支部長として運営に携わる中で、あらためて経営指針に取り組むことを決意し、2013年の11月に2度目の合宿に参加し、理念を成文化しました。

 「都会の仕事をこの地域に持ち込むのは無理がある。高知はどうやっても工業県にはなり得ない。しかし郷土安芸には、足元に農業、川上には森林率88%の山がある。だからこそ僕らは『人、モノ、カネ、情報』の地域循環の中に自分の資源を投入して、その循環の中で生きていく」と語る安岡氏。将来、農業分野に関わることも見据えながら、同社の挑戦は続いています。

経営理念

1. 私たちは、地域の豊かな自然環境の保全を推進し、循環型社会に貢献します。
2. 私たちは、あきらめない精神と勿体ない精神で、創造的事業を展開します。
3. 私たちは、時代のニーズに沿い地域が生かせる商品を開発し提供する。
4. 私たちは、みんなが幸福な生活を送ることができる会社づくりに努めます。

会社概要

創 業:1980年
事業内容:産業廃棄物処理業、一般建設業、一般貨物自動車運送業、建設機械リース業、木材加工業、飲食業、簡易宿泊業  
従業員数:18名(パート・役員含む)
所在地:高知県安芸市下山1626-1
TEL:0887-34-3666
URL:http://www.yasuoka-j.co.jp/