【第8回】福井で圧倒的シェア率獲得をめざす 小林興業(株) 代表取締役 小林 勇二氏(福井)

小林勇二社長

小林興業(株) 代表取締役 小林 勇二氏(福井)

 小林興業(株)(小林勇二社長、福井同友会会員)は、2000年に創業。鉄骨建方工事の会社で働いていた小林氏が独立開業した足場工事の会社です。

独立開業して

同社の足場

 高校卒業後、サービス業、運送業を経て小林氏が飛び込んだ先は、とび職人の世界でした。30歳を目前に独立したものの、経営計画も何もないという、「今思えばぞっとするような」スタートでした。

 最初は足場のリースの仕事を始めましたが、当時は同社に発注が来る訳ではなく、リース業者経由でした。よく「逆じゃないの?」と言われるそうですが、小規模の足場業者はリース業者にぶら下がりで仕事をもらうのが一般的でした。その大きな要因は、足場資材が非常に高額なことです。工事期間中、他の現場で資材を使い回すこともできません。単独で仕事をするには、恐ろしい費用を掛けて自前の資材を持たなければ仕事が回らないのです。そのような事情もあり、資金力のあるリース業者が豊富に資材を揃え、体力と技術のある足場業者と組んで仕事をするのが当時の主流でした。

下請けから元請けへ

 そんななか、同社は福井の下請けの中ではシェア率が一番になりました。しかし、将来を考えると自前で資材をそろえてやっていきたい。そんな思いが、日を追うごとに強くなっていきます。そして、とうとう足場工事の元請けになる決意をしましたが、世の中はそれほど甘くありません。まだ信用の無い会社への融資に、銀行は首を縦に振らなかったのです。加えて、もう一つ資材の減価償却と法定耐用年数に大きな問題がありました。あんなに頑丈な鉄の資材の法定耐用年数が3年ということです。

 一般的な木造建築の現場でも10件分の資材を自前で持とうとすると、金額的には1,000万円は掛かります。新築なら、足場を組んで工事が終わるまでに2~3カ月。ひと現場いくら(それが何カ月でも)という価格設定なのに、福井県に何十とある足場業者が価格のたたき合いをしたのです。驚くほど下落した相場は、新築の現場で15万円程度。10件分の資材をフル回転させ、約40の現場を回しても、年間売上は600万円です。もろもろを差し引き、利益無しでも返済は年間200万円。減価償却は3年なのに400万円も足りません。実際は、この例なら年間で約30の現場を回せればいいほうです。同社のような資本力のない足場業者が資材を持つことは、そう簡単ではありませんでした。しかし、金融機関を駆けずり回った小林氏は、最後には国民生活金融公庫で融資を取りつけることに成功しました。

教育環境を整えて

 その後、順調に受注も入り、従業員も10名に。しかし、クレームという新たな問題が浮上します。トラックの駐車位置から休憩時間のおしゃべりがうるさいというものまでさまざまでしたが、元請けになったことで、今までに無かったクレームが大量にくるようになりました。慣れていなかった小林氏は「ちゃんとしろよ」と伝えるだけ。従業員は「済みません」と返事はしますが、裏腹に「ちゃんとしている」と不満顔。こんなやりとりを続けているうち、関係がギクシャクし始めます。

 そこで、小林氏は自分が適切な教育環境をつくっていなかったことに気づきます。「教えていないのにできるわけがない」と、職長たちとリーダー研修を受けることにしました。研修など受けたことのない彼らは、講師から意見を求められても首を傾げるばかり。しかし、数カ月が過ぎると、恥じらいややらされ感が消え、顔つきが変わっていくのが分かりました。研修を終えた彼らは、若い従業員に「あいさつはこうするんだ」と教え始めるなど、会社の雰囲気も変化。やり方を理解した従業員たちはキチンと指示をこなせるようになっていきました。それを続けた結果、クレームは激減し、ギクシャクしていた従業員との関係も改善しました。

 ある職長の話です。ちょうどこの研修を受けたころ、トラブルメーカーだった彼に劇的な変化が訪れました。彼なりに決意することがあったのでしょう。小林氏は、自分で気づき、本気で決意した時の変化の大きさに驚きました。「彼は、どんな場面においても適切にお客さまに対応できる同社の中心人物に成長し、教育環境を整えることの重要性が身にしみた」と小林氏は言います。

社会保険を導入して

 しかし、改善した関係に陰を落とすものがありました。社会保険加入の問題です。建設業従事者は日雇い体質で、全国的に見て社会保険の加入はまだまだ。建設組合保険はありますが、年金に関しては国民年金への加入がほとんどで、年金問題の最後のターゲットでした。全国で数万といわれる建設関連の未加入者を狙い撃ちにした政府の方針は「公共工事で社会保険の未加入業者を下請けとして雇用してはならない」というもの。先を見越した小林氏が、いち早く社会保険の導入を実施すると、従業員の不満が噴出しました。給料が下がった訳ではないのですが、仕組みを理解できていない彼らは、手取りが大きく減ったことを不満に思い、社員になりたくないという者や一人親方としてやらせてほしいという者が現れました。お互いに納得いくまで、個別に何度も話し合いましたが、創設時メンバーの一人が独立してしまいました。改めて、給料が大事なものだと認識することになった一件でした。

 それから4年。それぞれが家族を持ち、子どもができた今、ようやく社会保険の意味が理解できた彼らから感謝をされるようになった小林氏は、あの時に苦労して話し合って本当に良かったと、現在の思いを語ります。

福井で一番の足場屋になる

 ただし、それも会社が利益を上げてこそ。資材購入も社会保険料納付も、すべて利益あってのことです。いつしか「福井で一番の足場屋になる」が合言葉になった同社は、ここ数年の社員一丸となった取り組みのかいもあり、足場資材の保有額は1億2,000万円を突破。スーパーゼネコンとも直接取引できるまでになりました。まだまだ大手リース業者とはどんぐりの背比べ状態のところもありますが、社会保険加入業者で、正社員として職人を雇用し、足場資材を保有しているとなると、福井では数社しかありません。その中でも、ようやく頭ひとつ飛び出すことができた今、めざすは県内での圧倒的シェア率獲得。製造業でも販売業でもない同社が最終的に利益を上げるのは工事であり、実際に工事を行うのは職長を中心とした社員たち。彼らの活躍が同社躍進の原動力、最後は人に尽きると小林氏は語りました。
作業の様子

経営理念

社業を通じ常に進歩進化し、
人、企業共に発展し続ける最高のパートナーであり続ける事。

会社概要

創 業:2000年
設 立:2007年
資本金:1,000万円
業務内容:足場工事の一式請負業(戸建足場、大規模足場、特殊足場、仮設工事、資材レンタル・販売)
従業員数:19名(うちパート4名)
所在地:福井県福井市下莇生田町3-117
TEL:0776-63-6004
FAX:0776-63-6024
URL:http://kobayashi12.co.jp/