【第26回】高度な医療サービスと快適な療養空間 (公財)操風会・岡山旭東病院 院長 土井 章弘氏(岡山)

土井章弘院長

(公財)操風会・岡山旭東病院 院長 土井 章弘氏(岡山)

 岡山旭東病院

 (公財)操風会・岡山旭東病院は、脳・神経・運動器疾患の総合専門病院です。11の診療科と214床のベッド数を有し、サイバーナイフやPET-CTなどの高度先進医療機器も充実。年間約85,000人の外来患者が訪れ、神経系疾患に関しては県南東部最大のシェア率を誇ります。かかりつけ医など地域の病院や診療所との連携を通じて地域医療を支援する「地域医療支援病院」にも指定されています。

院内の温室「めだかの学校」

一方で、経営理念に「快適な、人間味のある温かい医療と療養環境」を掲げ、季節の花々に彩られた庭園や絵画の数々、メダカの飼育水槽を備えた温室など、医療と芸術の融合を意識した癒しの空間づくりにも力を入れています。院内のホールでは連日コンサートやイベントが開催されており、文字通り「地域に開かれた」医療機関となっています。

 こうした異色とも言える同院の基盤をつくり上げたのが、土井章弘氏です(1991年度から2011年度まで岡山同友会代表理事、現在は常任相談役)。

同友会との出合いと最初の経営危機

 土井氏は県内外の病院勤務を経て、1988年に同院院長に就任。勤務医だった時に同友会を知り、その活動に共感した土井氏は、岡山に戻るとすぐに岡山同友会に入会しました。病院にも経営感覚が必要であることを早くから自覚していた土井氏は、さっそく、経営指針書を作成。ところが院内で発表してみると「病院は金儲けをするところじゃない」と職員に言われてしまいます。また職員の募集にはほとんど応募がなく、患者も増えない状況が続き、経営も徐々に厳しいものになっていきました。

 しかし間もなく転機が訪れます。やむなく借入金の返済猶予を依頼するため銀行に経営指針書を持参したところ、意外にも「病院が経営計画書持参で相談に来るなんて今まで経験したことがない」と驚かれ、元金返済の猶予が認められたのです。それは、医師としてではなく、経営者としての土井氏が外部に認められた最初の瞬間でした。このことが契機となって銀行との信頼関係も一段と高まり、院内では一部の反発を乗り越えて指針書に沿った経営を粘り強く続けたところ収益の状況も改善し、数年後には60床の増床を実現することができました。土井氏は当時のことを「あの時は経営指針書に救われたといっても過言ではありません」と振り返ります。

職員に救われた2度目の危機

 職員の中にも徐々に理解者が増え、その後は安定した経営が続きました。毎年の経営指針の見直しも定着し、パートも含めた職員全員が個人目標を策定するようになり、年を追うごとに指針書は分厚いものになっていきました。2015年にはさらに40床を増床し、病院は202床にまで拡大しました。しかし、そのことで2度目の危機が訪れます。職員を増員して受け入れ態勢は整えたものの、肝心の患者が増えず、たちまち経営は悪化しました。そこで職員に窮状を訴えるとともに、年齢・役職・部署を越えた組織横断的な病院活性化検討会を十数回実施し改善策を募りました。その中で職員から出されたアイデアの一つが、増床したベッドの一部を地域包括ケア病棟に転換するというものでした。導入したところ、病床の稼働率が上昇して利益が出るようになり、なんとか危機を脱することができました。

 これも職員一人ひとりが経営指針書作成に参画し、職場の危機をわが事と捉える組織風土が醸成されていたからこそ実現したことでした。

「共に学び育ちあう」学習型病院

 同院の4つ目の理念「職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院」は、職員との協議を経て90年に加えられたものです。医療の質の向上のためにテクニカルスキルの涵養は欠かせませんが、同時に病院経営の質の向上のためには人間力や組織力を強化する必要があります。土井氏は、職員のやりがいと幸せの追求こそが、地域から選ばれる病院の基盤であると考えています。こうした考えの源流となったのは、同友会で出会った教育学者・大田堯氏(2018年没)の「生命の特徴とは、一つひとつすべてが違うものであり、常に周囲とかかわり続けると同時に自ら変わることができる」という教えです。

 大田氏の「共に育つ」という考え方に共鳴した土井氏は、人材育成においても、違いを認めあい、相互にかかわりあいながら主体的に自己を変革することを重視してきました。その具体的取り組みの一端が、組織横断的な教育を担う「人材育成センター」であり、経験に応じたキャリアアップ研修、見識を深める共育塾、「社員共育大学」をはじめとする同友会の各種研修会への参加です。もちろん全員参画型の経営指針づくりも、職員の自主性を引き出し、各人の成長の糧となっていることは言うまでもありません。土井氏は「現代の病院にとってチーム医療が重要なのは当然ですが、当院はそこから一歩進んで『チーム経営』をめざしています。つまり職員が働きながら経営にかかわり、同時に自分自身の成長にもつながるような学習型組織こそが理想なのです」と語ります。

経営理念を深掘りし、社会からあてにされる企業に

 「財政破綻寸前の幕末の備中松山藩を改革した山田方谷は、『義を明らかにして利を図らず』と言っています。経営者にとっての「義」とは経営理念です。理念を確立して深掘りしながら実践すれば、おのずと社会が応援してくれて利益も出るはずです。深掘りするには他者との関わりの中から得られる知恵が必要です。それには同友会がうってつけです。私が入会した頃は医療関係の会員はごくわずかでしたら、私も異業種の皆さんから経営を学んだのです。会員の皆さんには、異業種の方とかかわる中で共に学び育ちあい、社会からあてにされる企業としてますます発展していただきたいと思います」

経営理念

一、安心して、生命をゆだねられる病院
一、快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院
一、他の医療機関・福祉施設と共に良い医療を支える病院
一、職員ひとりひとりが幸せで、やりがいのある病院

概要

開 設:1983年
病床数:214床(一般病床172床、地域包括ケア病床30床、ICU 12床)
職員数:463名
診療科:脳神経外科・整形外科・脳神経内科・リハビリテーション科・内科・循環器内科・
形成外科・泌尿器科・麻酔科・放射線科・リウマチ科
所在地:岡山県岡山市中区倉田567-1
URL:http://www.kyokuto.or.jp/