【第3回】売れない業界で売上を伸ばす紳士服専門店の秘策 (株)満足屋 後継者 飯野 公介氏(山梨)

飯野公介氏

(株)満足屋 後継者 飯野 公介氏(山梨)

満足屋店舗の写真

 創業108年。地元山梨県で創業以来お客様に支持・信頼されるよう頑張ってきた(株)満足屋(飯野公介氏、山梨同友会会員)。県民でその名を知らない人はいないといっても過言ではありません。同社はビジネススーツをメインに県内3店舗を展開する紳士服専門店です。

 バブル期の大型全国チェーン店の進出、長引くデフレで地場の紳士服専門店には苦しい時代が続いています。さらに、ノーネクタイから始まるビジネススーツの軽装化、カジュアル化で一気に需要が縮小し、コロナ禍でのテレワークでスーツ離れが決定的となりました。

地域密着というが、具体的に何かしているの?

接客の様子

 業界3強といわれる全国チェーンの紳士服専門店が県内でも圧倒的なシェアをとります。大手11店舗に満足屋3店舗という構図です。大手3強の売上高は2014年を起点とすると2020年までに実に4割ほど減少しています。しかし、満足屋は2014年から徐々に売上を伸ばし、ここ数年の伸び率は上昇傾向です。

 売上上昇のきっかけは、ある同業者から「おたくは地域密着とよく言うけど、具体的に何かしているの?」という問いかけに答えられなかったことにあります。そこから同社の4つの戦略が練られ、ここへきて成果につながってきました。

気鋭の後継者 地道な営業と4つの戦略

 後継者の飯野氏は36歳、貴金属の営業職を経て2008年に後継者として入社しました。苦難の時代が続く中、地域密着を具体化するため自社の強みが発揮でき、顧客ニーズに応えられること、そして同業他社がやっていない分野を強化しようと4つの戦略を開始しました。(1)学生服への参入、(2)地元高校生へのフレッシャーズ販売の強化、(3)オーダースーツ、(4)ファミリーセールの4つの戦略です。

 注目すべきは学生服への参入です。飯野氏は「このお店には学生服用のワイシャツはないの?」という顧客のつぶやきを聞き逃しませんでした。当時、紳士・婦人服のみの展開で学生服関連は盲点でした。参入を決意した飯野氏は学校訪問を重ね、何とか学生服を取り扱いたいと営業をかけます。

 しかし、学生服は学校指定メーカーと学校指定店の独占市場です。積み重ねられた歴史の壁は厚く、なかなか道が開けず苦悩の日々が続きますが2017年に時代は動きました。

 公正取引委員会が独占禁止法の観点から公立中学校における制服の取引実態の調査に乗り出すことが報道されました。するとこれまでの慣習が崩れ始め、当初、2つの中学校のみの取り扱いが2018年には21校、現在では31校まで広がりを見せています。

強みが最大限に発揮される

スーツの着こなし講座

 学生服への参入では満足屋の強みが最大限に発揮されています。365日年中無休の体制、3年間のお直し無料、学生服の周辺衣料とのセット価格の優位性などです。

 さらに、飯野氏は高等学校に出向いて「スーツの着こなし講座」も展開します。親が選ぶのではなく自分で選ぶ楽しさ、社会人のドレスコード、スーツの着こなしのポイントを生徒に解説し、就職活動への準備を支援します。結果として、生徒に限らず、教員や保護者からの信頼も獲得し、就職活動のスーツから成人式、その後の社会人生活でも「満足屋」に足を運ぶことにつながりました。

よいものを提供したい、喜んでもらいたい

 「コロナ感染症で入学式や入社式、成人式までも中止になり、大変苦しい状況だった。しかし、これまでの地域の皆さんによいものを提供したい、喜んでもらいたい一心で取り組んできたからこそ会社も発展できている」と語ります。

 山梨同友会には2018年に入会。すぐに支部幹事になり、学びを実践してきました。「会社の大掃除で倉庫から社是が書かれた額縁が出てきました。もし同友会で経営理念の大切さを学んでいなければ気にも留めずにまたダンボールに戻していたと思います。いまでは本店のレジの上に掲げています」と飯野氏。

 「品物とともに誠を売るなら客も満足、我も満足」の社是を胸に青年経営者の挑戦は続きます。

会社概要

創 業:1913年
資本金:1,000万円
年 商:4億3,000万円
従業員数:30名(内パート14名)
事業内容:紳士服、婦人服、学生服、洋品小物販売業
所在地:山梨県甲斐市富竹新田1647
URL:https://manzokuya.co.jp/