（有）兼芳新潟屋 前商店 代表取締役 前 義幸氏（北海道）
食のブランド“よしやす”を展開する（有）兼芳新潟屋 前商店（前義幸代表取締役 北海道同友会会員）は1973年創業。北海道の道東釧路町に店を構える米、タバコ、酒を取り扱う一般的な商店でした。しかし、スーパーやコンビニの台頭で状況は厳しくなっていきます。前氏は地元スーパーを退職して2007年に入社し2009年に社長就任、その背景には「親父が頑張って築いたこの店をつぶすわけにはいかない」という強い思いがありました。しかし当時の売上はタバコが主体で年商3,500万円、粗利益率が14％以下とつぶれる寸前の個人商店でした。
きっかけはお客様の声
転機は野外で焼き肉を行うお客様からきたビールサーバー注文でした。スーパーで購入した肉を一緒に配達したところ、好評となりだんだん需要が増え、配達・設置・片付けまで行う焼肉配送サービスを事業化することになりました。しかし、順調に肉の取扱量が増える中で取引先が倒産してしまいます。その時、「それならば」と倒産先の社員を迎え入れ、2009年に食肉工房よしやす（食肉販売部門）を立ち上げました。
夏季は順調でしたが冬季間の売上に苦戦する中、2012年に店舗をつくり、肉の小売へ進出します。繁盛店となりましたが、食肉部門のメインを任せていた社員が退職。前氏自身は肉に関しては素人でしたが、取引先に加工方法を教えてもらい、オリジナルの味付けで販売することで難局を乗り切ります。それでも冬季間の売上を十分に確保できるまでにはなりませんでした。
脅威と挑戦と企業戦略
何とかしなければと知恵を絞り2015年、自社のオリジナル味付け豚ジンギスカンを活用した豚まんを開発します。当初は委託生産でしたが、製品の安定化を視野に入れて工場をつくり自社生産へ。皮も道産原料にこだわり札幌の製粉会社に飛び込み訪問して熱意を伝え、小麦粉の取引に結びつけました。「この豚まんを食べると釧路を思い出し、懐かしく温かい気持ちになる。釧路といえば豚まんだよねと、食文化として豚まんが根付くことが願いです」と前氏。
ネットや口コミで知名度も上がり軌道に乗ってきた2020年。北海道にも新型コロナウイルスの感染拡大の波が押し寄せます。ちょうど豚まん工場を増築した時でした。当初はまだ楽観視していましたが、夏季の売上の柱であった焼肉配送サービスは85％減、飲食店向けの加工品も90％減の大打撃を受けます。
売上の大きな柱を失い、「倉庫いっぱいの肉の在庫をみて不安で絶望的な気持ちになった」と前氏。それでもできることは何かを考え、レトルトカレーの製造に着手します。年間3,000袋の販売計画でしたが、なんと開始2日で2,000袋を販売。原価度外視の肉屋さんらしい、肉がたくさん入っているカレーは大ヒットしました。またSNSの影響も大きいものがありました。配送にレターパックを使ったところそれが面白いとバズって注文が殺到し、ネットショップの売上が、従来の月1万円から100万円までになりました。
“よしやす”の理念を全国へ
“よしやす”とは「よりよい品を安く」の意味です。奇をてらわず、商品の品質を上げてよしやすのファンになってもらいたい。ブランドは信頼の積み重ねから生まれ、利益は信頼を得てからついてくる。商品の唯一の付加価値はお客様に喜んでもらうこと。前氏は入社5年で企業理念を作成し、その後北海道同友会の経営指針研究会で再度見つめ直し、今まで直感で行っていたことの根拠が明確になり、自分の考えは正しかったと確信に変わっていきました。現在は中小企業診断士の資格取得も目標にして、食関係のコンサルト業も手掛けています。根底には両親の働いている姿。「正直にコツコツ努力している人がきちんと報われる社会をめざしたい、だから声がかかればどこでも行きます」と前氏は笑います。最後に「コロナは今までの常識を壊してくれた。社会は大きく変化しており地方の中小企業でもチャンスはある。これからも誠実に企業理念を追求してより多くの人に“よしやす”を伝えたい」と力強く語っています。
企業理念
私たちは食に関わるすべての事業を通じて
北海道の食文化の発展・向上を目指し
食を通じて人々の豊かな生活を支えると共に
地域社会に貢献します
会社概要
設立年：1973年
資本金：500万円
事業内容：総合食品販売、食肉加工販売、食品加工販売、イベント出店など
従業員数：11名
所在地：北海道釧路郡釧路町曙4丁目6番地6
電話番号：0154-36-0222
URL：https://www.kn-mae.com/
Facebook: https://www.facebook.com/knmae
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