【第3回】日本のお菓子文化を伝承・発展させる (株)世起 代表取締役 今村暢秀氏(愛媛)

(株)世起 代表取締役 今村暢秀氏(愛媛)

 コロナ禍による行動規制や移動自粛は、観光業に影を落としました。観光地の土産菓子の製造などを手掛けてきた(株)世起(今村暢秀代表取締役、愛媛同友会会員)も、その影響を受けた一社です。早くから新卒採用や社員教育に取り組み続けてきた同社では、雇用を守ろうとさまざまな手を打ち、大きく飛躍を遂げつつあります。

社員を大切にする会社

 (株)世起は今村氏の父親が設立した製菓会社です。餅菓子や飴を中心に、全国の観光地向けの土産菓子も多く手掛けており、「旅行先で買って帰ったお土産が、よく見たら世起の商品だった」という笑い話のような出来事があるほど。

 今村氏は専務取締役だった2005年に愛媛同友会に入会しました。幹部社員と共に経営指針を成文化し、ブラザーシスター制度を導入するなど社員教育にも取り組んできました。また、2012年度にスタートした愛媛同友会の共同求人には当初から参加。新卒採用に取り組み、合同入社式・新入社員研修に参加した新入社員が、翌年には今村氏と一緒に合同企業説明会のブースに入って企業紹介をするというサイクルも構築しています。2015年には息子の優作氏も入社し、現在は同友会で一緒に学んでいます。

 社員と家族、取引先、地域社会を幸せにしようという取り組みが高く評価され、2018年には「四国でいちばん大切にしたい会社大賞」(独立行政法人中小企業基盤整備機構)を受賞しました。

未曽有の事態に際し、若手の声を積極採用

 新型コロナウイルスの感染拡大は、同社の土産菓子にも大打撃を与えます。雇用調整助成金も活用して「国が雇用を維持するように言ってくれているから大丈夫」と社員を励まし、自社の状態を毎日の朝礼で社員と共有しながら、苦しい時期を乗り越えようと奮闘していました。

 そうした中、土産菓子だけでなく普段使いの菓子としての売上を拡大すべく、商品のリニューアルに着手します。これまでも量販店とのスポット的な取引はありましたが、これを定期的な取引、定番商品に切り替えようと決意したのです。 そのための大きな力になってくれたのが、入社後に成長してきていた若手社員の皆さんでした。

 新たな方向へ舵を切るにあたり、今村氏は若手社員の意見を積極的に取り入れていきます。パッケージデザイン一つをとってみても、今村氏をはじめとするベテラン勢と若手社員とでは、まったく意見が違っていたといいます。そんな時には今村氏は「自分が常に正しいわけではない。自分の感覚の方が時代とズレているのかもしれない」という自覚を忘れず、若手の意見を尊重しました。

 また、原材料費の高騰への対応として内容量の見直しについて協議していた時のこと。「中身を減らしたら、お客さんからクレームが出るのではないか」と心配する今村氏に対し、若手社員からは「同じ金額で中身が少ないものは『ちょっといいもの』という特別感がある」という価値観が提示されました。これにも今村氏は「古いしきたりや業界の常識にとらわれない意見こそが、今は必要なのだ」と考え決断することができました。

思い切ったリニューアルが奏功

 そうしてリニューアルされた同社の商品群は、スタンド袋の目を引くデザインや手に取りやすさが注目され、全国の量販店の定番商品として広がりつつあるといいます。

 「同友会で学んで、人のよいところを見るように変わった。皆、それぞれによいところがある。そこを伸ばして、カバーしあっていくことが大切」と今村氏。その実践が、若手社員の活躍の場を作りました。社員をパートナーとして取り組んできたことが、いざという時に全社一丸の体制へとつながったのです。

 コロナ禍を機に、商品名やシールの統一といった効率化に向けて取引先にも協力を依頼する中で、改めてメーカーである自社の強みも実感できました。今後はさらに「世起ブランド」の確立をめざしていきたいと明るい表情で語ってくれました。

会社概要

設立年 1970年
資本金 1,000万円
従業員数 40名(内、パート・アルバイト27名)
年商 5億5,000万円
事業内容 和洋菓子製造・販売
住所 愛媛県伊予郡松前町北川原1240-1
電話番号 089-984-6658
URL http://www.seiki-net.co.jp/