シリーズインデックス:若者がいきいき働く企業へ

【特別版】すべての変革は社員との共有 (有)中井レストラン企画 代表取締役 中井 深氏(大阪)(2015.01.14)

中井社長 (有)中井レストラン企画 代表取締役 中井 深氏(大阪)

~第4回人を生かす経営全国交流会(長野)第2分科会報告より~

 会社は1985年、私が29歳のときに創業しました。ベルギービールとベルギーの郷土料理を中心に取り扱うビアビストロ「ドルフィンズ」と、ベルギービールと焼き鳥の店「なかい」で5店舗展開しています。私は電子工学科の出身です。その分野があまり合わず、人とかかわって何かをしたいという思いがあり、飲食店をスタートさせました。世界のビールとワインを取り扱う南欧風居酒屋でした。バブルの中で、1年目は伝説になるような売上を記録しました。

独立希望者しか雇わなかった

 当時は無計画で、借金なんか気にせず出店していました。今考えると滅茶苦茶です。また、独立希望者しか雇わないと決めていました。彼らはやる気があって、遅くまで一生懸命働いてくれます。彼らを自分にとって都合よく使っていたように思います。出店して業績が悪い店は閉める、というのを15年ほど続けていたのですが、既存店の売上が2年連続で大幅に減少します。店の方向性などを見直していたところ、偶然ベルギービールについて深く学ぶ機会を得ました。そして、ベルギービールに舵を切ることに決めたのです。

 独立希望者しか採用していなかったので当たり前なのですが、従業員は独立や転職をしていきました。「なんぼなんでも、一人くらい会社に残りたいと思わんのか?」と思い始めました。

退職理由は経営指針

 ベルギービールにシフトした翌年の2000年に大阪同友会に入会しました。初めて参加した例会で「何のために経営しているのですか?」と質問された経営者が「社員と同じ達成感を共有するため」と答えたのを聞いて「かっこいい!自分もそう言いたい!」と思いました。自分が達成感を味わうのは新店舗オープンの時です。社員も同じように思っているのかというと、嬉しいけれどそこまで達成感があるわけでは無さそうでした。会社の目的が共有できていないからと感じました。

 その後は必死で経営指針の成文化に取り組みました。社員と一緒に作成するようにして、2006年まで毎年1月に指針発表会を行いました。秋ごろから指針発表会に向けて準備を始めます。入社間もない社員にもSWOT分析やレポート提出をお願いしました。

 2006年の秋のことです。指針作成の会議終了後、2年目の女性社員から「社長、話があるんです」と言われました。彼女が「パン屋をやりたいから辞めたい」と言うので、私は「指針にパン屋もやりたいって書いて、やったらいいやん」と答えました。すると彼女に「その経営指針があるから辞めたいんです」と言われてしまいました。「嘘やろ」と、ショックでした。指針が社長のための指針でしかなかったこと、今まで社員は自分に付き合ってくれていたことに気づきました。社員にはやらされ感があったんでしょう。このやり方はまずかったと反省して、現在は階層的に分けて指針作成にかかわってもらうようにしています。

即戦力依存、社員のぶつかり合い

 当社は即戦力依存でした。梅田に新店舗を開店することを決めたとき、即戦力を雇い、すぐにオープンさせました。採用した人の中に「社長はああ言うてるけど、俺はこうする」という人もいたため、既存と中途採用のスタッフ間で、ぶつかり合いが生じ始めました。

 このころ、古くからいる社員に「人が育ってから出店しましょう」と言われました。ここで「店ありき」から「人ありき」の展開になったわけです。 同友会で新卒採用に着手し始めました。共同求人の担当者からは、「社員も一緒に来て会社をアピールしてください」と言われていたので、社員と打ち合わせをしました。「うちの会社の良いところって何やと思う?」と聞いてみたところ「辞めた人も気軽に遊びに来てくれるあったかい会社」という返答がありました。理念の話は出なかったものの、あったかいというのは社風かな、と思いました。そして、全社員とこんなふうに意見交換をしたいとも思いました。

理想の社員像が決まる

 2007年11月23日の全体会議にて「我が社の理想の社員像」が決まりました。「共有することで考え、気づき、自らも仲間も共に育ってゆく」そんな人が理想だと確認しました。会議後、とある社員から「社長、今日はすごく良かったです。みんなバラバラやと思ってたけど、根でつながってることが確認できて嬉しかった。この会社に来て良かったです」と言われて、ものすごく嬉しかったです。やっと経営指針が社長だけではなく、社員のものにもなってきた瞬間でした。

社員の将来の姿を見せる

 さて、新たな課題が出てきます。指針には処遇や評価も含め「指針を実践し続けたら自分たちはどうなるのか」がどこにも明記されていませんでした。独立希望者しか雇わないと言っていたので、長く続く人だとか、ましてや定年退職など想定していませんでした。悩んでいた時に成長制度に出合います。人事制度のひとつで、人を成長させ皆が成長することで会社の業績を伸ばしていこう、小さな成長を評価していこうというものです。

そこで最初に取り組んだのは、社員がどのように成長したら良いのかを明示することです。目標に対する期待と成果は何か、そのためには何をすれば良いのか、どんな知識が必要で、どんな勤務態度で臨めば良いのかなどを決めていきました。社員に定年までのキャリアプランを見せるのです。キャリアプランを社員に見せて語ると同時に、成長してゆく社員に、会社として今後どんなステージを用意していけるのかという課題も突きつけられました。

新卒採用・社員教育にチャレンジ

 即戦力依存からの脱却にも取り組みました。できる人を採用すれば、教える必要がありません。ということは、組織に教える力がつかないんです。みんなで成長していく組織になるために、社員研修の仕組みづくりにも着手しました。学ぶべきことはすべて社内にあることを基本に行っています。優れたやり方を社内で広め共有することが、当社では最も評価されます。
 研修の先生は社員です。その社員の得意分野を共有します。サービング大会や食べ合わせの勉強会など、いろいろ行っています。社内で足りないことは、同友会の「社員教育プログラム」で補っています。合同新入社員研修は、社会人のマナーを集団で学ぶことに意味があると考えています。社員から会社の良いところとして「新人研修に出してもらえる所」という声が上がっています。もっと知りたい、できるようになりたいという思いは、みんなが持っているのです。また、ベルギーでの現地研修も行っています。現地に行って何が良いのかというと、目で見た情報や空気感をつかむことで、学んだことを一瞬で理解するのです。

社長として組織として社員と向き合う

 では、一人ひとりとどう向き合うのが良いのでしょうか。人育てはコミュニケーションの質と量です。中小企業は人が少ないから向き合うことができると聞きますが、本当でしょうか。
 組織として指揮命令系統の統一が重要だと痛感した出来事があります。昔は年に2回、長時間の個人面談を行っていました。全員気軽に話せる仲でした。ある日社員が、私に企画を提案してきました。私はその積極性を買い「やってみたら」と返事をしたんですが、なんだか様子がおかしい。その企画は以前、店長やマネージャーに提出して、ダメ出しされていたようです。その子は上司を飛び越えて直接私のところに来ていました。「社長が良いって言ったから」と言われるとマネージャーも店長も何もできません。それまで店長になると辞める人が多かったのは、私が権限を渡していなかったからだと気づきました。また、本来は部下を指導する立場の彼らも面倒になると「社長に聞いてみたら」と自分の役目を果たさなくなりました。私は面談を止め、代わりにいろいろなコミュニケーションの場を設けるようにしました。朝礼では理念やビジョン、ドメインの確認を行い、みんなのコメントを聞き、それぞれの考えを共有する場と位置づけています。これを続けていくうちに、もう上司を飛び越して来ることはなくなりました。
 また、当社には役職別に4つのチームに分かれた同期会のようなものがあります。相談する仲間がいるということを分かってもらうためです。その他、毎月店長が社員の提案に対してフィードバックを行ったり、先月と比べて部下がどう変わったのかを伝える場を設けています。マネジメントの役職についている社員には、部下の少しの成長を見つける力をつけて欲しいと願っています。

社長、下が育ってきています

 私はコミュニケーションとは、信頼関係を構築するための手段だと思っています。それ自体を目的とせず、どうしたいかを明らかにすることが大切だと思います。変革の先には何があるのか。私は会社のみんながチャレンジ集団になったと思います。もっと優れたやり方はないのか、伸びしろは無いのか、可能性は無いのかを考えてくれる集団になりました。

 「人が育ってから出店しましょう」と言ったマネージャーからは「下が育ってきています。次の店長を待っている人間がいますよ」と言われ、ビアガーデンについても「大変なことは分かってますけどやりましょうよ」と言ってもらえるようになりました。チャレンジには成功か、学びしかありません。

 理念やビジョンを共有しようとすることが、企業風土になっていきます。人育ては「社員といかに向き合うか」と「その向き合い方には質も量もやはり必要」ということが分かってきました。社長だけでなく、組織として取り組めるようになれば、私がいなくとも後の世代の人間がやってくれるようになります。人が育つ仕組みを作成することは、会社の継続・発展のために必要で、間違いのない方法だと考えています。

会社概要

創 業:1985年
設 立:1990年
資本金:300万円
年 商:2億4,000円
従業員数:40名(内パート22名)
事業内容:飲食店の経営、飲食店の企画・運営、飲食店の経営コンサルタント業務
所在地:大阪市中央区本町1-7-1 三星本町ビル7F
URL:http://www.dolphins.co.jp/

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