特定非営利活動法人はばたき 理事長 広瀬 浩氏(栃木)
共同受注システム
障がい者就労支援事業所では、いかに仕事を確保するかが重要な課題です。
仕事はほしいが、事業所の規模、構成するメンバーによって作業内容により受注できない。また、納期に間に合わせることが困難な場合も受注できません。地域にある障がい者就労支援事業所が互いに情報を共有化し、共同で受注することができれば、今よりはるかに大きな可能性を広げられるはずですが、それぞれが独立した事業所であり社会福祉法人もあればNPOもあり、得手不得手があるから均等な仕事の割り振りも難しい、などできない理由は枚挙に暇がないほどです。
しかし、この共同受注に挑戦して7年連続で売上を更新し、自治体からも絶対的な信頼をうけている団体があります。NPO法人はばたき(広瀬浩理事長、栃木同友会会員)の共同受注事務局“大地(だいち)”は日光市内にある12の事業所が力を合わせ、仕事を分担しあい、交互に担当する仕組みです。栃木同友会には2013年に入会し、障がい者就労支援部会にも参加しています。
3万7,000通の発送で無理を可能に
最初の共同受注は2009年のことでした。大規模な景気対策として配られる定額給付金の通知を、日光市内でも3万7,000通発送されることになりました。「発送作業を障がい者施設に請け負わせてもらえませんか?」。リーマンショックの影響で、下請作業の受注量が激減するなか、仕事獲得の絶好のチャンスだと考えた広瀬氏は、日光市役所に相談しましたが、5日間の納期で3万7,000通を発送することは、当時のはばたき事業所には不可能な数字でした。「でもなんとかこの仕事を受注したい」。そこで、当時9つあった日光市内の事業所に相談し、9つの事業所全部でこの仕事を受注することになりました。
しかし準備期間は4カ月、その間にすべての事業所の連携を整えなければなりません。日光市役所の一角を借りそこに人員を集め、所定の時間内で作業を行うことになりましたが、スタッフの行き帰り、食事の手配、そして仕事の精度の確認を行う仕組みづくりなど、ち密な計画と準備、事業所間の細かな打ち合わせが必要でした。自社の利益にならない煩雑な取り組みに職員の不満も募りました。
いざ作業本番を迎えると、思ってもいないトラブルも発生しました。それでも進捗をボードに書き込みながら、五日間で3万7,000通の通知を完璧に成し遂げたとき、これまでにない大きな達成感を手にすることができました。作業を終え全員で万歳ができたときには、取り組んでいた9つの作業所の職員、障がいを持つスタッフだけでなく、発注先である総合政策課や、見守り続けた厚生福祉課の職員も喜びあいました。
共同受注のカギはすべての事業所のスタッフを知ること
この取り組みに端を発し、これまで一つひとつの事業所では受けることのできなかった行政からの仕事を共同で受注することができるようになりました。現在では日光市内12カ所の事業所が連携する共同受注の仕組みが生まれています。
“大地(だいち)”で営業を担当する3人のスタッフは、各事業所がどんな作業に対応できるか、何人ぐらいで仕事ができるか、納品に使える車は何台あるか、そういった細かな情報を整理し、発注内容に応じて、公平でスムーズな受注先の調整を行い、すべての情報を公開し、作業の品質が向上していくよう取り組んでいます。公園の清掃から会議の議事録づくり、また農家からはにんにくの仕訳と袋詰め作業の依頼など民間からの受注も伸び、開始以来7年で、売上は8倍に伸びていました。
障がい者とともに生きる
広瀬氏には、小学校の6年間をともに過ごした親友がいました。脳性マヒだった彼の世話をするのが広瀬氏の日課でした。明るい彼と居ることが広瀬氏は何より好きでした。中学に入ると彼の世話をしてくれる友だちも増え、遠慮した広瀬氏は次第に好きだった野球に没頭するようになりました。広瀬氏が野球部のキャプテンとして宇都宮の大会で優勝した日の数日後、当時の担任の教師から彼が亡くなったことを伝えられました。あまりに突然の出来事で、「なぜ、自分は彼のそばから離れていたんだろう」と広瀬氏は強い喪失感に苛まれました。
「障がいを持つ人と一緒に働ける場所をつくりたい」。その時から芽生え始めていた思いは、どんどん膨らみ、年を重ね、さまざまな壁に挑戦する中でたくさんの仲間をつくっていきました。創業のころに思い描いていた障がい者就労の場づくりは、障がい者と地域の人たちがともに生きる場づくりに変わっていきました。そして「障がい者だからということを理由にしたくない」という信念は、開設当時から請け負っているドアノブ部品の組み付け・検品作業のほか、線香の計量・箱詰めや、木工品づくりなど、さまざまな仕事においても高い品質づくりにつながり、全国から学びに来るほどの取り組みに成長しました。
大空と大地の中で
広瀬氏は1年半前に障がい者が主体となって働く“おおぞら”というカフェをオープンしました。下請けではなく自ら発想する憩いのスポットです。“おおぞら”には近所にある日光市役所職員や地元民生委員の皆さん、近所の親子や近隣のおじいさんおばあさんも集まります。毎月行われるイベントは近所の小学生や親子連れで毎回大賑わいです。「仕事が楽しい」と笑顔が絶えないKさん(写真)は働きすぎるのが玉にキズ。頑張りすぎて寝込まないように、休みをマメに取るのが約束です。
“はばたき”の経営理念にあるアサーティブは自分の思いも相手の思いも尊重した自己主張です。社会に出たい思い、大切な人への思い、さまざまな思いを紡ぎながら“だいち”から“おおぞら”に“はばたき”ます。
経営理念(行動指針)
1.きちんとすること(あいさつ、仕事、言葉遣い、整理整頓等)
2.気配りをする(利用者にも職員にも来客にも)
3.1人1秒のプレゼント(みんなで一つのチームに)
4.アサーティブに!(まずは否定しない、まず肯定的に受け止める)
*経営理念を行動指針にして毎日意識できるよう掲示してあります
会社概要
設 立:2003年
事業内容:障がい者に対する就労支援、福祉事業所連携による共同受注
「はばたき事業所」「まつぼっくり事業所」
「コミュニティカフェおおぞら」「共同受注事務局だいち」
従業員数:スタッフ12名、理事8名、監事2名
所在地:栃木県日光市今市本町16-9
TEL:0288-21-3365
FAX:0288-21-3365
URL:http://www.bbweb-arena.com/users/habataki/index.html