【第27回】経営者の「眼差し」が変わるとき~街の自動車整備工場が紡ぐ、人と企業の新しい形~ (有)佐川自動車整備工場 代表取締役 佐川 武士氏(青森)

(有)佐川自動車整備工場 代表取締役 佐川 武士氏(青森)

 青森県黒石市で創業75年を数える(有)佐川自動車整備工場(佐川武士代表取締役、青森同友会会員)。三代目の佐川武士氏が、「数字」という鎧を脱ぎ捨て、社員という「人」に向き合うことで生まれた組織の変容はどんなものだったのでしょうか。

「数字」の先に欠けていたもの

 かつての佐川氏は、売り上げや効率を最優先する「数字」の経営者でした。しかし、青森同友会の「経営指針を創る会」を受講した際、「あなたは社員の方向を向いていない」と痛烈な指摘を受けます。「自分では厳しくしているつもりはなかったが、社員との距離があった」と振り返る佐川氏。この言葉を機に、その眼差しは社内の「足元」へと向けられました。

手洗い場の水から始まった対話

 最初に取り組んだのは、社員面談の実施でした。そこで上がったのは「冬の手洗いの水が冷たい」「夏場の工場が暑すぎる」といった切実な現場の声。佐川氏はすぐさま給湯器やスポットクーラーを導入しました。「数万円の投資で解決できる当たり前のことに気づけていなかった」と苦笑しますが、この歩み寄りが心の距離を縮めました。さらに、健康と家族の負担軽減を考え、会社が半額負担する日替わり弁当制度も開始。その根底には「あなたの存在を大切に思っている」という、社長からの無言のメッセージが込められています。

「生産性」の定義を変える

 佐川氏は得意の数値管理の目的も変えました。「休みを増やし、給料も維持するために生産性を上げよう」と目的を明確に伝え、「人時生産性」を可視化。現場に主体性が生まれ、早出・遅出のシフト勤務も定着しました。女性社員からは「朝、子どもを急かして叱ることがなくなった」と喜びの声が上がり、有給休暇も自然と取得しやすい環境へ。数字を追う経営から、社員の幸せのために数字を使う経営へと、舵を大きく切ったのです。

根っこを強くする「人間性」の経営

 業界全体で整備士不足が深刻化する中、同社では離職者が少なく、むしろ紹介でベテラン人材が集まります。大手企業からの引き抜きに動じない強い「根っこ」の正体は、先日開催された社内指針発表会に表れていました。社長の思いを聞いた若手社員が「ここまで考えてくれていたなんて」と涙を流して感動したと言います。他社が提示する条件を超えた、深い信頼関係がそこにはありました。

輝きの正体

 「私が変わることで、会社が変わった」と佐川氏は語ります。地域の中学校の職場体験では、専用ユニフォームを用意し本格的な溶接を体験させるなど、次世代へ仕事の誇りを伝える場も作っています。 「社員とともに輝く」とは、一人一人が仕事に誇りを持ち、家族との時間を大切にでき、地域から必要とされること。そのために経営者がまず自らを変えること。黒石の整備工場から放たれる輝きは、人間本来の温もりに満ちていました。

(有)佐川自動車整備工場
設立 1979年7月1日
従業員数 19名
事業内容 自動車整備業、車検、自動車保険、自動車販売、カーリース、レンタカー
住所 青森県黒石市大字中川字篠村233-3
URL https://f7-aomori.com/shop/sagawamotor/