【第26回】卸売業としての可能性を追究する ~下から支えるだけでなく前からも引っ張れる~ (有)丸喜 阿保商店 代表取締役 阿保 貢 氏(青森)

(有) 丸喜 阿保商店 代表取締役 阿保 貢 氏(青森)

 丸喜阿保商店(阿保貢代表取締役、青森同友会会員)は青森県内の寿司店を中心に海苔をはじめとした食品卸売業を営んでいます。

 三代目の阿保貢氏は地元の工業高校を卒業後、大手ゼネコンに勤務。家業を手伝うため1999年に帰郷しました。当時の営業スタイルは飲食店へ出かけていき、夜のお付き合いをする中で売り上げを作っていくものでした。しかし、阿保氏はそうした仕事のやり方になじめずにいました。

経営指針を活用して自社と業界の未来を創造する

 得意先への配達や受注業務をこなしていましたが、転機が訪れたのは2002年のこと。先代が体調を崩し、阿保氏は日常業務に加えて先代が担当していた営業活動も受け持つことになります。そのころから主要な取引先の倒産・廃業が相次ぎ、売り上げ大幅減と貸し倒れで経営が傾いていきます。その後も世間の景気は上向かず、経営は悪化の一途をたどりました。

 そして2011年、藁にもすがる思いで青森同友会の第10期経営指針を創る会に参加します。経営理念を成文化するなかで、苦手だった数字にも取り組み、自社の内容を分析することで卸売一辺倒の経営に危機感を感じるようになりました。また、自社の強みと弱みが明確になると着手していく優先順位がはっきりしていったと言います。卸売業は売上高のボリュームはありますが利益が薄く、顧客への依存型で得意先の倒産で経営が傾くリスクもあります。そこで阿保氏は「本業の卸売を守っていくためには主軸の寿司業界全体が盛り上がらなければ」と考え、一般のお客様へ寿司業界のこだわったおいしさを知ってもらうことが必要との思いから直接商品を届けたいと動き出します。また、2015年からはすし業界としては異例の出入業者でありながら「青森県すし業生活衛生同業組合」の事務局を拝命し、寿司店業界の発展に向け組合員と連携を図っています。

経営指針を活用して自社と業界の未来を創造する

 青森同友会の企業展は第2回から参加を継続することで一般のお客様とふれあい、手応えをつかんでいきます。小売販売への足掛かりは利益率の向上と、なによりニーズを把握するためには絶好の手段でした。2018年、代表に就任後は経営指針を片手に奮闘する中で、業績も徐々に改善し、イベント出店のオファーも増え、自社の玄関先で直売会を定期的に開催するとお客さまとのふれあいから「店舗を構えたい」という思いが社内全体で強くなっていきました。兵庫県で開かれた第48回中小企業問題全国研究集会(2018年)で、海苔の加工販売などを手掛ける(株)鍵庄の見学分科会に参加したことも、店舗づくりをしたいという夢が具現化されることにつながりました。

 しかし、思いに反してなかなか思うような物件には巡り会えません。そうしているうちに2020年からコロナ禍が飲食業界を襲います。夜の街からは活気が消え、丸喜阿保商店の経営にまたしても暗雲が立ちこめます。こうした危機的状況の中でしたが、ようやくイメージに合致する物件を見つけた阿保氏は、コロナ禍という逆風の中でしたが(今しかない)と考え、同友会仲間の力も借りて意を決し、会社の移転と店舗開設に動きます。2021年10月、念願だった店舗を兼ねた社屋へと移転を果たし、機会が減ってしまっていたイベント出店も積極的に行い、思い描いた「一般のお客さまからおいしさへのこだわりを伝え、寿司店業界を盛り上げ社員と社業を守っていく」という取り組みを進めています。

 阿保氏は「投資できる資金がまだまだ少ないことは弱みですが、お金を使わずにみんなでアイデアを出し合い、実践を楽しみ成果を上げられることは強みになりました。また、海苔についてのおいしさや知識を社員全員がお客さま目線で伝えられるようになってきたことも強みになっています。当社の社業は、屋号の通り『丸喜=みんなが喜んでくれる』ためにあります。これからも人々の日常(家庭の食卓)と非日常(外食)のおいしさを支えていきたいですね」と思いを語ってくれました。

(有) 丸喜 阿保商店
創業 1955年(1987年法人化)
資本金 400万
従業員数 4名
年商 100,000千円
事業概要 すし業界を中心とした業務用食品卸、直販小売店(贈答品、イベント出店)青森県すし業生活衛生同業組合事務局
住所 青森市三内丸山278-7
電話番号 017-764-0797
URL https://sushi-aomori.jp/supporter/detail.php?id=1