【第40回】変化を恐れず企業の持続的な成長をめざす シバセ工業(株) 代表取締役 磯田拓也氏(岡山)

シバセ工業(株) 代表取締役 磯田拓也氏(岡山)

 岡山県西部の浅口市に本社を構えるシバセ工業(株)(磯田拓也代表取締役、岡山同友会会員)は、国産ストローの約5割のシェアを誇る最大手メーカーです。磯田氏は1999年に後継者として入社し、2005年に3代目社長に就任。主力の飲料用ストローに加えて、工業用・医療用ストローの分野を開拓して業績を拡大し、現在はそれに続く3本目の柱としてモーター検査装置製造の拡大にも取り組んでいます。

シバセ工業(株)の変遷

 浅口市は古くから小麦の産地として知られ、同社も精麦・精米業の会社として創業しました。戦後はそうめんの製造を始めましたが競争が激しく、1969年から新たな事業としてストロー製造業に活路を見いだします。その後大手飲料メーカーの仕事を引き受けるようになり、業績を急拡大しました。

 ところが、他社がジュースなどの紙パックに装着できるコンパクトな2段伸縮ストローを開発したことでシェアを奪われ、90年代後半から売り上げが激減。磯田氏が入社した99年には最大顧客であった飲料メーカーから「今後は仕事を出せなくなるので自立してくれ」と伝えられ、苦境に立たされます。

 しかし、長らく下請け仕事を続けていた同社には営業の経験もなければ新規顧客を開拓するノウハウもありません。そこで、会社を知ってもらい顧客開拓の助けになればとホームページを開設し、社名も親しみやすいカタカナ表記に改めました。そのことが思いがけない転機をもたらします。それは、ホームページを見たという人からの「ストローを飲料用以外の用途で使用できないか?」という問い合わせでした。

 ストローといえば「飲み物を吸うための道具」としか考えていなかった磯田氏にとって、それ以外の使い方を求めている人がいるという事実は驚きであり、新しい発見でもありました。この問い合わせを契機に、ストローを「プラスチック製の薄肉のパイプ」と捉え直したことで一気に展望が開けます。刃物や注射針の保護カバー、呼気のアルコール検査用ストロー、園芸植物の支柱、手芸やアート作品用のカラフルなストローなど、その用途はどんどん拡大しました。磯田氏はこれらのさまざまな新用途を実例集として公開・配布し、それがまた新しいニーズの発掘や問い合わせにつながるという好循環を生み出します。そして多品種・小ロット・短納期を武器に、医療や工業などの異分野への展開を進め、業績をV字回復させることに成功しました。

毎年10%、10年で2倍、30年で10倍の成長を

 磯田氏は「何が幸せかは人それぞれですが、それも働く場があってのこと。社員の幸せを実現するためには、会社が末永く存続して雇用を守り続ける必要があります。そのためには利益を上げて成長し続けなければなりません」と話します。そして「毎年10%の成長を続けることで、10年で2倍、30年で10倍の成長をめざしたい。これは目標ではなくペースです。無理することなく、怠けることもなく、努力を続けることで会社も社員も成長を続けることができる」と語ります。同時に社員満足度を第一と考え、職場環境の整備を徹底。社員の提案に基づく業務改善ミーティングやサンクスカード制度、同友会の社員教育プログラムにも積極的に参加しています。

 「SGDsは人類の幸せを持続するためのものであり、シバセ工業がめざすものも社員の幸せの継続。だからわが社の経営理念はSGDsそのもの」と磯田氏は強調します。

シバセ工業(株)の環境経営

 また同社は、環境経営にも早くから積極的に取り組んでいます。09年には本社屋上に太陽光パネルを設置したほか、20年からは購入電力をすべて再生可能エネルギーに変更し、CO2排出量を実質的にゼロにしました。また昨今のプラスチックごみ問題に対しても、プラスチック製品を扱う会社であればこそ正しい知識の啓発が必要と考え、資源の有効活用やリサイクルについて地域の学習支援などにも取り組みを広げています。

必要なのは「事業の承継」ではなく「企業の継承」

 同社は「30年後にどうありたいか」をビジョンにまとめ、その実現に向けて全社一丸となって前進しています。同時に磯田氏は10年後には会社を継承する準備も進めています。

 磯田氏は「企業にとって最大の社会貢献は雇用の維持と拡大。そのために本当に必要なのは『企業の存続』であって『事業の継続』ではありません。だから業態転換を恐れてはいけない。30年後のシバセ工業ではストローを扱っていないかもしれませんが、それでいいんです。変化していかなければ成長も存続もできません」と、確信に満ちた様子で語ってくれました。

経営理念
社員の幸せを追求すると同時に人類社会の進歩と発展に貢献し永続的に成長できる企業であること

シバセ工業(株)
創業 1926年
設立 1949年「芝勢興業株式会社」設立(2006年「シバセ工業株式会社」に社名変更)
資本金 1,000万円
従業員数  48人
年商 4億2,000万 (2024年3月期)
事業内容 飲料用ストロー・工業用ストロー(飲料用途以外全般)など各種ストローの製造・販売、 電子事業 モーター自動検査装置の開発
住所 〒719-0252 岡山県浅口市鴨方町六条院中 3037
電話番号 0865-44-2215
URL https://www.shibase.co.jp