【第2回】企業は永遠に存続を 大洋産業(株) 代表取締役 小田柿 喜暢氏(滋賀)

小田柿喜暢社長

大洋産業(株) 代表取締役 小田柿 喜暢氏(滋賀)

 1951年に創業した大洋産業(株)(小田柿喜暢社長、滋賀同友会会員)は、当初地場産業とも言えるバルブを製造していましたが、現在は、化学・食品プラントなどの配管や機械加工や水質浄化事業などを仕事の幅を広げています。

やりがいと家族を思いやる会社を求めて

社内の様子1

 小田柿氏は滋賀県出身。バブル経済真只中の1987年に大学を卒業して、大手電機メーカーにエンジニアとして就職。バブル崩壊後は、エンジニアの転職として実力主義の中堅医療機器メーカーに転職し、幹部候補生として活躍しました。しかし、「夜を徹しての開発も楽しかった」と振り返る一方で、「家族がおざなりになってしまった」と小田柿氏。一生続ける仕事ではないと転職を決意し、地元のハローワークに通ったのが、2000年でした。

 そこで大洋産業の求人に出合います。募集内容は機械設計、製造で収入は転職前の半分程度。しかし、自宅から近いことや今までの経験を生かせると面接に臨み、見事合格しました。社長から「大手からの転職で何か役職でもないと申し訳ない」と言われますが、役職で仕事ややりがいが左右されることはありませんと返しました。

 その後、今までのキャリアを生かして、設計および製造現場の仕事を覚えながら頭角を現します。事業所が3事業所に分かれているため、社内のITインフラ整備を行うなど、合理化策を提案し社内改善に取り組みました。

 部長代理などを歴任して、社長から取締役就任の要請があり、「私にできることであれば」と引き受けます。「当時、経営陣の高齢化もあり、若手が必要だったのでは」と小田柿氏。就任から1年が経とうとしていた1月、急きょ先代社長から社長就任の打診がありました。
 先代社長は病気療養中で、週2回の出社で体力的にも厳しい状態だったため、「3年間は大丈夫(一緒にやるから)」という条件で社長を引き受けることに。その時に「待遇などはあなたが決めなさい。社長になるのだから、あなたの社風をつくって」と言われました。

 前職では、幹部研修で計数管理や理念など学ぶ機会があったので、その時点では何とかなるだろうと思っていました。

オーナーの相次ぐ急逝とリーマンショック

社内の様子2

 4月になり、経営と言われてもまだ先代や創業者がいるので大丈夫と思っていた矢先に、「一緒に」と言っていた先代社長が病気で急逝。間もなく創業者であった相談役が亡くなるなど、自社の歴史もわからないまま経営陣は小田柿氏一人になってしまいました。

 併せて、当時はリーマンショックの影響で売上が30パーセント減と混乱期でした。「危機的な状況で歴史ある会社を率いるのは相当な重圧でした」と小田柿氏は振り返ります。

 しかし、オーナーの急逝とリーマンショックは、同社にとって財務の健全化・社内規定の改廃など、現在までの経営を根底から見直すきっかけとなりました。小田柿氏の好きな言葉は「波乱万丈」。与えられたものはやりきるしかないと、組織構造のコンパクト化や、企業に必要であるコーポレートアイデンティティの確立に取り組み、落ち込んだ受注を回復すべく、社外へと出るようになりました。

同友会入会と経営指針を創る会

 2009年に営業先の企業の社長から滋賀同友会の勉強会に誘われ、「6,000円でどこの例会にも参加できる」と入会を決意し、社長就任3年目の2010年には滋賀同友会の経営指針を創る会を受講します。「自己満足でない自社の存在意義を第3者から見てほしかった」と小田柿氏。受講の中で気づいたことは、「労使見解(中小企業における労使関係の見解)」の経営者と社員の違いでした。理念実現においては経営者と社員は役割が違うだけであり、役割を全うすることで、全社一丸、つまり、会社という一つの人格を持つ組織になるということでした。

 現在では本社を含む4事業所の社員を集めての全社研修で、さまざまな企画を行い、事業報告などはもちろん、社員の家庭を守るために家計節約セミナーや、社員の子どもたちに自分の仕事を説明する課題を出すなど、会社のためだけでなく、社員一人ひとりが自ら考え、行動できるプログラムを組んでいます。

 小田柿氏は、「経営者は永遠ではない、でも企業は永遠に継続させなければならない。そのために社員が一番大切」と語ります。事業戦略も国内市場の競争激化や急激な不況へのリスク回避として、ベトナムに現地法人を設立するなど、企業の安定的な発展をめざしています。

わが社の事業承継

 「まだ自社に後継者という位置づけはありません」と小田柿氏。中小企業で後継者の育成は簡単ではなく、同友会をフル活用することができると、経営労働委員会と共育委員会に所属し、経営者と幹部が共に学ぶ経営共育塾や経営指針を創る会などの参加も視野に入れ、後継者育成に取り組む予定です。「同友会の活動は、経営必要な知識の習得、会員企業の経営幹部と共に学ぶ場は、いずれ経営者になる社員の宝になる」と小田柿氏は言います。

事業承継の理想とは?

 経営者を引き受けたのは、1. 借り入れに個人担保がなかったこと、2. 2~3年は伴走してくれる、3.「お前の会社にしろ」と任せ切ったことだと小田柿氏は振り返ります。
 経営者にとって一番大切ことは、理念を掲げ金融機関を含め社内外に語れること。「同友会の言う経営姿勢の確立ですが、事業承継の初期にあたっては、親族や第3者が継ぐにしてもそれぞれ家族があり、経営が面白いと思っていてもリスクはつきもの。バトンを渡しやすくすることが大切」と言う小田柿氏の事業承継はこれから始まります。

社員とともに

会社概要

設 立:1950年
資本金:2,500万円
従業員数:47名
事業内容:
配管工事、鋼構造物工事業、検査機器・搬送機器などの設計・開発、創造、据付や調整などのサービス膜ろ過などによる水処理装置
所在地:滋賀県彦根市芹川町528
他にベトナム現地法人 DEWX VIETNAM CO.,LTD.
URL:http://www.taiyosangyo.co.jp/