【第16回】後継者の自覚と覚悟 僕は引き継げるのか? ㈲エムアンドシー 専務取締役  津田誠司氏(京都)

 

(有)エムアンドシー 専務取締役  津田誠司氏(京都)

社長への反発

 

私は高校卒業後にフランス料理店に就職しました。しかし6年経った頃、バブルがはじけ、景気が悪くなったのをきっかけにエムアンドシーに入社することにしました。何度か社長の仕事を手伝ったことがあり、仕事内容はわかっていましたが、自社の理念や社長の想いを知ることはなく安易な気持ちで入社をしました。
私が会社に入ると同時に社長は現場に出なくなり、なぜ一緒に現場で仕事をしないのか疑問に思っていました。そんな時に協力業者のある社長さんに出会いました。その社長さんは現場に出て実際に動きみんなを引っ張っていくタイプで、仕事を早く覚えるのに必死だった私にとっては憧れの存在でした。その反面、何も教えてくれない社長には不満が募るばかりでした。そういったことから仕事もある程度覚え自分で動けるようになった時には、社長の言うことにはほとんど耳を貸さない状態になっていました。

そしてある日の朝、仕事の段取りをしている時に社長と意見の食い違いから口論になりそのまま会社を出てしまいました。実家暮らしでしたので家にも戻れず祖父の家に転がり込み、数日間お世話になりました。日が立つにつれ、仕事のことが少しずつ気になるようになりました。電話をすると案の定会社も現場もぐちゃぐちゃで、本来なら会社を飛び出したので簡単には戻れないにも関わらず、深く考えることはなく会社に戻ることにしました。その時、社長は怒ることもなく何もなかったかのようでした。そして普段通り仕事に戻りましたが、私の気持ちは会社を出たときと変わっていませんでした。社長と私の間で社員さんは板挟みになり、辞めていく人がたくさんいましたが、私はその時社員の辞めていく理由がわからずしんどいから辞めていったと思っていました。

社長からの辞職勧告

 

2年前の年末のことです。税理士の方といつ会社を継いでいくのがいいのか相談をしていました。社長の年齢は表向きの理由で、それ以上に社長への反発から早く自分の好きにしたいと考えるようになっていました。そして社長と税理士と三人で相談をし、来年の8月の決算の時に会社を継がせてほしいと言いました。すると社長にお前の行動を見させてもらうと言われました。この時私は何をみられるのか、何をすればいいのか全くわかりませんでした。後継者になるといったものの、今まで通りの業務をそのままこなしていました。そして去年の11月のある日に突然「もう会社をやめろ」と言われました。社長は「もう何を言ってもあかんな」と言い、その場はそれで終わりました。私も心のどこかでなんとなく感じていて、「わかりました」と言い机の中のものを全て片付けはじめてました。というのも数年前から「もうお前ひとりで勝手にやれ」という言葉を言われていたからです。

これからどうしたらいいのかもわかりませんでした。そこで青年部会の先輩に相談をしました。その先輩は話を聞いてすぐに「津田ちゃんは勘違いをしているだけだよ」と言ってくれましたが私は意味が判りませんでした。

でも漠然と自分自身に間違いがあるように思えて、私は次の日すぐに社長をご飯にさそいました。座ってすぐに私はまず今までの自分がしてきたことについて謝りました。そして私はこの仕事をもう一度続けさせて欲しいと、お願いをしました。社長は一言も話さず聞いていましたが、私の話が終わってから「わかった」と一言だけ言いました。私はその一言でほっとしたのかその後話したことはほとんど覚えていません。

何も分かっていなかった自分

私はエムアンドシーという会社にずっといて後継者としての名乗りを上げたりしていましたが、後継者になるための勉強も何もしてきませんでした。そして報告者として名乗りを上げ、報告をつくり上げていく中で本当に自分と向き合うことができました。同友会の仲間といろいろな話をする中で徐々に後継者になるという意味を理解していきました。今まで言われていたことが社長としてではなく父親として聞いている自分がいて、そこに甘えていたことに気づきました。口では社長と言いながらも腹の中では父親としてしか見ていませんでした。また、社長からの辞職勧告では「やめろ」と言われた時はもうこの会社にいれないなという思いがあったものの、正直辞める勇気はありませんでした。

会社を後継するということは、現場での実務を誰にも負けないぐらい一生懸命やることの延長線上だと考えていました。しかしそれは仕事のよく出来る番頭さんで、後継者ではないのだと気づくことができました。
私は今まで従業員としてはすごく頑張ってきました。ただ2年前に後継者として宣言しているのに何も変わらない私に社長はどうしていいのか考えていたのだと思います。社長が私に気づかせようという優しさがやっとわかりました。後日、社長に辞職勧告をしたときの想いを聞く機会がありました。社長にしてみれば「やめろ」と言ったのは最後の賭けだったそうです。そこまでされないと気づけない私自身が情けなく思います。このきっかけがなかったらまだまだわかっていなかったかもしれません。

後継するという事は

私が考える後継するということは、まず今自分の周りにあるもの全てに対して感謝をすることです。そして、社長の想いを理解した上で社員みんなにその想いを伝え浸透させていくことです。また、このエムアンドシーという会社に対して私が愛を持って、そして関わる全ての人に対して責任を持つという覚悟が必要です。まだ経営者としてはまったく知識もありませんし、まだまだ職人気質なところも抜けていませんが、心で人が動くような団結力のある会社にしていきたいと思っています。そして今まで社長が築き上げてきた会社の理念を大事にしていきたいと思っています。

企業概要

設 立:1990年  資本金 300万円
年 商:8,000万円
社員数:12名(内パート・アルバイト6名)
事業内容:ビルメンテナンス及びハウスクリーニング
URLhttp://www.0120841932.com/

*第43回青年経営者全国交流会 山梨 第13分科会報告より