
(株)エナメディカル 代表取締役 伊藤 千明氏(神奈川)
創業の苦難と「信頼」の獲得

神奈川県相模原市で伊藤千明氏(㈱エナメディカル代表取締役、神奈川同友会会員)が同社を創業したのは2003年のことです。志を持ってのスタートでしたが、当初の3年間は想像を絶する苦難の連続でした。創業からわずか半年で資金がショートし、銀行を10カ所以上回るも門前払いを受ける日々。自身の給料はゼロ、世帯収入はかつての4分の1以下という極限状態の中、単発の仕事をこなしながら食いつなぐ時期を過ごしました。
転機となったのは、2004年の「A病院」との出合いでした。伊藤氏は、大手業者が請け負っていた業務の中に、教育不足による診療報酬の「取りこぼし」があることを見抜きます。緻密な計算に基づき、月に200万円以上の改善案を提示したことで、病院側の全幅の信頼を得ることになりました。この「現場の付加価値」を証明する姿勢が、後の年間8,000万円規模の受託事業へとつながりました。
最大の危機と「社員を守る」決断

しかし、創業10年目に最大の試練が訪れます。売上の半分を占めていたA病院がM&Aにより売却され、新経営陣が業務の内製化を打ち出したのです。20名の社員の雇用が奪われかねない絶体絶命の状況下で、伊藤氏が最優先したのは「社員の生活を守る」ことでした。
ここで興味深いのは、効率を重視し現場を軽視した買収側の「内製化」が、結果として大混乱を招いた点です。カルテが回らず、患者が怒鳴り、医療事故が多発する現場。一方で、伊藤氏は社員の優秀さを戦略的に示しつつ、自社開発した自助具「エナラック」を契機に新たな公的病院との契約を得ていきます。結果として、20名全員の雇用を維持したまま、より強固な事業基盤を築くことに成功しました。
「女性学」から導き出した経営戦略

この危機を経て、伊藤氏は1つの壁に突き当たりました。次代のリーダーを公募しても、女性社員が誰1人として手を挙げなかったのです。彼女たちは「やる気がない」のか。その疑問を解くため、伊藤氏は大学院で「女性学」を学ぶ決意をしました。
そこで得た知見は、経営者としての視点を180度変えるものでした。女性がリーダーを躊躇するのは、長時間労働や出張を伴う「男性モデルの管理職像」をイメージしているからであり、実際には管理職に就いた女性の多くが、裁量の拡大を肯定的に捉えているという事実でした。また、「自分にはできない」というアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が、彼女たちの挑戦を阻んでいることも浮き彫りになりました。
伊藤氏は、女性活躍を単なる理念ではなく「経営戦略」として再定義しました。社員の98%が女性である同社にとって、彼女たちがライフイベントに左右されず、知識とスキルを積み上げ続けることこそが、最大の経営課題であると気づいたのです。
持続可能な組織への実践と未来
具体的な実践として、同社ではパート社員にシフト決定権を完全に委ね、急な欠勤にも対応できるジョブローテーションを導入しています。また、キャリアアップ助成金等を活用し、子供の不登校等の家庭の危機に直面した社員を経済的に支える仕組みも構築しました。これらの「社員第一」の姿勢は、若手社員に「ここなら長く働ける」という安心感を与えています。
現在、伊藤氏はさらなる未来を見据えています。1人の後継者に全てを委ねるのではなく、事業部門を分社化し、複数の「女性社長」を立てることで事業承継のハードルを下げる構想です。
「働く環境が人を育てる」と伊藤氏は語ります。大きなピンチを共に乗り越えた社員たちは、今や主体的に病院運営を考えるまでに成長しています。しなやかに、かつ力強く、女性の就業継続を軸に据えたエナメディカルの挑戦は、人口減少社会における中小企業の新たな生存戦略を提示していると言えるでしょう。
| (株)エナメディカル | |
|---|---|
| 設立 | 2003年 |
| 資本金 | 1,000万円 |
| 社員数 | 80名(パート含む) |
| 年商 | 3億2,000万円 |
| 事業内容 | 医療支援事業、在宅介護事業、介護アパレル事業、リラクゼーション事業、医療法人運営等 |
| URL | https://www.e-m.co.jp |










