【第29回】「夢に向かって生きる喜び」を育んで (有)大原飲食 会長 板橋 光則氏(宮城)

 宮城県仙台市で「旬の地元の食材を生かして職人がまごころこめて造る本物の食」と「一期一会を大切にしたおもてなし」を信条に、和食を中心とした飲食店を8店舗手がける(有)大原飲食(板橋光則会長、宮城同友会会員)。平均年齢30歳と若手を中心とした180名の社員が創り出す“くつろぎと感動”は8つの色彩をまとって輝き続けています。

それは「経営者への自己変革」から始まった

 太平洋戦争末期、「仙台空襲」によって仙台市中心部は一面の焦土と化しました。
 その焼け野原から屋台を始めたのが板橋氏の伯母です。その後伯母は、呉服問屋を営む常連客「大原さん」と結婚し、「料理屋をしたい」と「味の大原」を開業しました。

 板橋氏は、19歳から「流れ板」として全国を歩いての修業の日々を送り、その後「味の大原」を手伝っていたところ、伯母の「あなたが自分でやってみたら?」という投げかけに応えて「自ら店を持つ職人」としての一歩を踏み出しました。

 腕の良い板橋氏の店は評判を呼び、弟子も増えていきましたが、ある日「自分自身で考えて行動できる『社員』が一人もいない」という現実に直面。「このままではいけない」と思い始めていたときに、偶然にも宮城同友会と出合い入会しました。「第6期経営指針を創る会」(以下、「創る会」)を受講し、「われわれの会社はわれわれがつくる」を合言葉に、社員一人ひとりが成長できる会社をめざす「経営者への自己変革」の決意を固めました。

私の志“究極の会社”とは

 毎年1月初旬に行なう恒例の「経営指針発表会」は、同友会会員や仕入れ取引先の方々も同席し、「グループ討論」も実施しています。指針書には、板橋氏の「私の志“究極の会社”とは」が記されています。

 「日本の飲食ビジネスを変える会社であり、どこもがうらやむ料理サービスの提供をしている会社であり、自社で自社を浄化させる力を持ち、当然超高収益な会社であり、なおかつ、毎年成長し続ける会社である。優秀でかっこよく尊敬できる人たちがどんどん仲間に入ってくる会社であり、素晴らしい社会人に育ち世の中に巣立っていく会社でもある。そうした仲間が、誇りと夢をもって魅力的に仕事ができる環境がいつもある。そんな会社をつくり上げること。その結果、いろいろな新たな選択肢も増えてくるが、大切なことは時価総額を増やすことや、財務内容が良い会社をつくることではない。もっとも大切なことは『人生は素晴らしい、飲食ビジネスは素晴らしい、仲間は素晴らしい』と毎日実感しながら、お客様とともに喜び、楽しみを体感し、時を過ごせることだと思う。そうした“究極の会社”づくりのために私は生涯を捧げる決意です」と板橋氏は語ります。

この仕事が好きだ!成長したい!

 「菜時季大原」の店内は、職人やフロアスタッフとの会話を楽しむ常連客の方や、美味しいお酒と料理に舌鼓を打つ県外からやってきたお客様で溢れています。カウンター越しに見えるオープン厨房。手際よく天ぷらを揚げる入社2年目の手代木秀人さんに話を聞きました。
入社2年目の手代木秀人さん

手代木さん作 秋野菜と鯖の揚げ出し

Q.入社のきっかけは何ですか?
A.高校3年間、飲食店で料理や接客のアルバイトをしていました。母親も飲食の仕事をしており、偶然にも(有)大原飲食の先輩と知り合いだったことがきっかけです。実際に来店して「和食って面白そうだな」と思い、「ぜひ入社したい」と思いました。

勉強会の様子

Q.楽しいことや辛いことを教えてください。
A.入社当初、事前説明はあったものの、閉店後の夜中1時から始まる「勉強会」を受け入れることができませんでした。でもこの仕事が好きで「店を持ちたい!」という夢があり、その夢に向かう自分に「仕事って楽しい!もっと成長したい!」と思わせてくれる目標となる先輩がいるので、苦にはならなくなりました。今では後輩もでき、私自身も「自分のあり方」を見つめ直すようになりました。

Q.手代木さんがつくった料理を一番食べてもらいたい人はだれですか?
A.ご来店いただける全てのお客様に食べていただきたいという気持ちですが、一番は「祖母」です。祖母も母親同様に料理が好きで、入社を自分のことのように喜んでくれました。先日、魚をおろせるようになったので、祖母が好きな「鱈」をソテーにして食べてもらいました。美味しく食べてくれてすごくうれしかったですね。

共に学び、共に育ち、「良識ある元気な会社」を目指す

 手代木さんの話を笑顔で聴いていた渋谷公洋社長にもうかがいました。

 「新入社員の初仕事は『持ち場の先輩の一日の仕事を見てメモを取る』ことです。これは単に『その通りやれ』ということではなく、教える先輩と教わる新入社員の双方が『一つひとつの仕事の意味』を確認することで、教える先輩側の『クセ』の見直しや『もっとこうした方が良い』という新たな発見につながっていて、一方通行ではない学びがあります。『時代が違う』『世代が違う』ということを人が育たない原因にせず、一人ひとりにきちんと向き合うことが大切だと、板橋会長の経験から私も学んできました。技術だけでなく『人間としての成長』を実現したい。『忙しくて儲かっているようでうらやましいですね』と言われるのではなく『良識ある元気な会社ですね』と言われたい。そういう会社なら、どんな困難がある未来も乗り越えていけると信じています」。

 夢に向かって生きる喜びを育む(有)大原飲食の挑戦は続きます。

会社概要

創 業:1946年
設 立:1983年
資本金:1,000万円
事業内容:和食を中心とした飲食店の多角経営
従業員数:180名(うち正社員52名)
URL:http://www.syokuyuraku.com/