【第34回】想いを形にし地域に貢献できる企業に~金属加工業の川田製作所が野菜栽培に挑戦 (有)川田製作所 代表取締役 川田俊介氏(神奈川)

(有)川田製作所 代表取締役 川田俊介氏(神奈川)

本社社屋内に実験施設を開設

 (有)川田製作所(川田俊介代表取締役、神奈川同友会会員)は、1969年創業の金属プレス加工・プレス金型製作の会社です。取り扱い品目は、自動車部品から、機械の部品、OA機器の部品まで、多岐にわたります

 社員数は現在17名。そのうち、5名が障害者、4名が外国人というボーダーレスな会社です。2018年には多様な人材が活躍する職場として、経済産業省・ダイバーシティ経営企業100選に、神奈川県西部地域の企業として初めて選定されています。

 そんな川田製作所が植物工場に興味を持ったのは、2011~12年ころ。LEDを使用した野菜の栽培が注目され始めたころのことだったと言います。「普段はあまり意見が合わない会長(前社長)と珍しく意見が合って…」と、川田氏は笑います。会長と社長がそれぞれに明治大学と千葉大学の講座を受講し、研究施設で植物工場の基礎教育を受けました。その後も農業展示会に何度も足を運び、植物工場のリサーチを続けています。

 そこで、知り合ったのが、植物工場の設備メーカー企業の(株)成電工業(群馬県)です。その出会いから、2018年には自社工場の一部を改装し、植物工場の実験プラント「水の野菜Lab(商標登録済)」を作りました。

 本社社屋内にできた完全閉鎖型のこの設備で、水耕栽培の生産実験を開始しました。担当したのは川田社長の父である会長と、障害者雇用の社員である佐々木さんの2名です。その後、3年間に渡りフリルレタス、ベビーリーフ、ケール等の実験栽培を重ね、生産品種の拡大と生育の安定化に成功しました。現在は週に20株の安定した収穫を続けながら、手順の標準化や省力化等の研究を重ねています。

大量生産の技術を生かした植物工場で農福連携

 ところで、畑違いの川田製作所が、野菜の栽培に乗り出したのには、どのような想いときっかけがあったのでしょうか?

 「川田製作所は、金属加工品の大量生産を得意としていました。創業当時は、高度成長期に向かい、大量生産・大量消費の時代でしたから。しかし、リーマンショックを経てからは、少量多品種の生産体制に替わってきています。今後、社会の流れの中で、一体何を作り続けるべきなのか。それが会社を持続させるための大きな課題になっていました。そこでたどり着いたのが、地域に必要なものを作り続けたいという想いです。人がいる限り必要なのが食べ物ですよね。実は、植物工場というのは、金属加工工場の技術を使っています。だから農家の人より製造業の方が親和性が高い事業なのです。これまでに培ってきた大量生産の技術を生かせ、しかも持続可能な事業はこれだ!と思いました」。

 しかし、課題となったのは、事業として成り立つのだろうかということでした。植物工場は赤字の会社が過半数といわれ、しかも、2011年ころに設立された会社は、販売先が確保できなかったり、収益性が悪かったりで、すでに倒産している会社が多いそうです。

 そもそも、植物工場とは、「施設内で植物の生育環境(光、温度、湿度、二酸化炭素濃度、養分、水分等)を制御して栽培を行う施設園芸のうち、環境及び生育のモニタリングを基礎として、高度な環境制御と生育予測を行うことにより、野菜等の植物の周年・計画生産が可能な栽培施設(農林水産省HPより抜粋)」をいいます。

 従って、設備費や電気代等のイニシャルコストやランニングコストがかかり、野菜の単価が高くなってしまうのが課題です。そのため、1日3,000株以上生産する大規模工場でなければ収益性が保てず、黒字化するのが難しい事業と言われています。思い悩む川田氏が、出合ったのが農福連携モデルでした。農業と福祉を連携させ、収益を確保する方法です。

 先代が川田製作所を設立してまもなく、聴覚障害を持つ社員を雇用して以来、40年以上にわたり障害者雇用を継続している川田製作所にとって、それは自然な成り行きだったのかもしれません。川田氏も、6年前から神奈川同友会のダイバーシティ委員会で学びを深め、委員長も務めました。しかも、縁あって用地として候補に挙がったのは、障害者就労施設が未だない足柄上郡大井町の耕作放棄農地でした。農業と福祉が連携した施設ができることにより、地域課題の解決にもつながります。俄然、川田氏のやる気が燃え上がったのは言うまでもありません。

次々に問題が発覚し万事休すに!諦めない心が道を切り拓いた

 ところが、数々の問題が持ち上がりました。そもそも農業というのは「土地を利用して作物の栽培または家畜の飼養を行い、衣食住に必要な資材を生産する産業(日本大百科全書より)」と定義されています。土を使って作るもの以外は「農業」と呼ばないというのが原則でした。ところが、2018年に農業経営基盤強化促進法等の一部が改正され、それに基づき農地法も「農作物栽培高度化施設の用に供される土地については、当該農作物栽培高度化施設において行われる農作物の栽培を耕作に該当するものとみなして、法の全ての規定が適用される」と改正されました。つまり、植物工場建設に農地を使用することができるようになったのでした。

 しかし、実際に役所に相談すると、「前例がない」と言われてしまいます。それでも会長と社長が自ら何度も粘り強く役所に足を運び、説明を重ね、ようやく行政の方々にも「これは必要な事業だ」という認識を持っていただくことができるようになったと語ります。

 しかし、その後もさらなる障壁が川田氏の前に立ちはだかります。川田製作所は農業従事者ではないので、農地は購入できません。また農業従事者として認められるためには30アール以上の土地が必要です。万事休す!と思いましたが、賃貸契約を含めて30アール以上の農地を確保し、農業法人「(株)グッドファーム」を立ち上げました。

 こうして、事態は前向きに進み始めました。役所の許可が下りたらすぐに購入手続きに入る予定の農地は約600坪。その約半分の土地に、植物工場だけでなく、障がい者が利用し、事務所も併設する農福連携施設の建物も建設予定です。

安心安全に働ける障害者就労施設へ

 現在の構想は、就労支援B型の障害者施設です。利用者の定員は20名、職員10名を予定しています。就労の場となる植物工場は、完全閉鎖型で、日産250株の出荷を見込んでいます。栽培するのは、LEDを使用した無農薬水耕栽培のレタス等の葉物野菜。季節や天候に影響されることなく、種を蒔いてからおよそ35日で出荷できるので、安定生産・安定供給が見込めます。

 また、重量・サイズともに規格化され一定の品質の生産が可能で、水耕栽培のため農薬は不使用。さらに、菌管理されたクリーンルーム生産のため、洗わずに食べられると言います。しかも、新鮮さを長く保てる(約2週間)のも大きな特長です。施設設備に関しても、太陽光発電で電気代の3割をまかない、地下水を掘削して利用する計画を立て、地球環境に優しい施設をめざしています。

 川田氏が注目したのはそれだけではないようです。「きつい、汚い、危険の3Kと言われた従来の農業のイメージとは異なり、空調が効いた働きやすい環境で、簡単な仕事から少しずつ就労体験を積み重ねていくことができる場です。生産活動を通じて、無理なく段階的に、利用者の方々の知識と能力の向上が期待できます」と川田氏は語ります。

 野菜が育つという感動も体験しながら、就労体験を重ねた後は、川田氏が交流のある製造業や地元企業での就労につなげていけたら、と目を輝かせました。販路は、試作品を手に地元スーパー等に現在営業中です。こちらも地元企業の強みで、何とか販路を確保できそうだと語ってくれました。

 得意の「大量生産」というキーワードから始まった新事業は、地域の課題解決にもつながる、持続可能な事業の始まりとなりました。しかも、新型コロナウイルスで苦しむ中小企業支援のために開設された事業再構築補助金の申請が採択され、資金面でもさらに安心できるようになりました。実は、これが新事業の初めの一歩だと言います。残り半分の土地で何をつくろうか…早くも次の事業に夢は広がっています。

会社概要

創業 1969年
資本金 900万円
社員数 17名
事業内容 精密プレス加工、タップ加工、プレス金型製作、治工具製作
所在地 神奈川県小田原市中新田294-1
TEL 0465-48-8696
URL https://www.kawada-ss.co.jp/