【第37回】未来を見据えた経営指針の実践 (株)尾野農園 代表取締役 尾野 弘季氏(香川)

(株)尾野農園 代表取締役 尾野 弘季氏(香川)

 経営指針の実践は「指針で掲げた企業に近づくための成果を伴う具体的行動」と定義づけされていますが、この“成果を伴う具体的行動”が高い壁となっているケースが香川同友会内でも多く見られます。尾野氏((株)尾野農園代表取締役、香川同友会会員)は、感覚に頼りがちになっている農業生産を科学的に分析し、農作物の生産管理を経営指針書の事業計画に落とし込んで行動管理することで業績を伸ばしています。

農家から経営者へ

 尾野氏は高専卒業後、エンジニアとしてサラリーマン生活を送っていましたが、将来に夢を描けないと脱サラしてイチゴ農家を始めます。当初は「どうすればおいしいイチゴを作れるか?」「どうすれば儲けることができるか?」と考えて農作物を生産していましたが、生活をするのがやっとという状況が5年ほど続きました。イチゴだけの生産からネギの生産もしはじめ、安定した売り上げが見込めるようになって初めて雇用を行いました。ちょうどこのころに同友会に入会します。同世代の異業種の仲間が自社の経営を熱く語り合う姿に刺激を受け、同友会行事に積極的に参加するようになり、2012年経営指針を創る会に入会します。当時は個人事業の農業経営で決算書もまともに読めない状況でした。経営指針を創る会で経営理念を成文化し、翌年には会社を法人化しました。会社は右肩上がりで成長し、成文化から4年後には年商が1億円を超えました。

経営指針を科学的に構築する

 その後も売り上げは順調に上がっていきますが、2018年に減収減益で数年ぶりの赤字になってしまいました。業績がずっと右肩上がりだったのは、農地(作付け面積)を拡大し続けていただけで、面積当たりの収量など何も考えずに農作物を生産しているだけの状態でした。

 このときに、このままではいけないと取り組んだのが経営指針書の見直しでした。それまで経営指針書は、なんとなく更新・社内発表していただけのものでしたが、まずは経営理念を社員全員で見直し、経営方針・戦略を改訂し、行動計画まで落とし込んで管理する仕組みを作り上げました。また、社員が自身で生産計画を策定し、収量管理ができるよう見える化を行いました。この機会に大きく管理するようにしたのが出荷調整スピードでした。出荷調整スピードを測定し、社員への共有と改善目標を設定することで、農作物の生産効率は劇的に改善されていきました。経営数字も公開し、毎月の会議で確認と検証を行いました。

 科学的な経営指針書の実践を行うことで、社員一人ひとりの人間性の成長の仕組みづくりにもつながり、2019年から再び売り上げが伸び出し、2022年度の売り上げは2.5億円になりました。

未来を見据えた挑戦

 尾野氏は県内でもいち早くスマート農業に挑戦しています。職業能力開発大学校と連携し、ネギの皮むきの機械化に取り組んだり、香川県のスマート農業実証農場に認証されたりしました。トラクターの自動操縦による自動整地、ドローンによる肥料散布・生体把握、天候のデータベース化など、実際のITの技術はまだまだ未成熟で、フル活用するには難しい部分はありますが、これからの農業を考えると先進的に取り組んでいく必要があると挑戦しています。尾野氏が挑戦し続けるのは「日本の農業を索引する農業法人になる」というビジョンを掲げ、日本トップの野菜の生産技術、圧倒的な利益率、素晴らしい人間性を培える企業をめざしているからです。

経営理念

自然の恵みに感謝し、農業を元気にします

会社概要

設立 2013年8月1日
資本金 500万円
従業員 25名(パート含む)
年商 2.5億円
事業内容 農産物(青ネギ・レタス・ブロッコリー・ほうれん草・スイートコーン)の生産、販売
所在地 香川県善通寺市稲木町950
URL https://ono-farm.com/